第78話 ゴシの話19

トム少尉のすごいところは、ぜんぜん乗り気で

ないにもかかわらず、それをまったく表情に

表さないことだ。


ケイト・レイが、立ち技から軽く流していく。

流しているだけのはずだが、パンチ一発一発

が短く速い。距離を詰めるスピードもだ。

トムのガードのうえであるが当たると

パーン! パーン! といい音が鳴る。


ふだんはただ恰幅のいいおばさんなのだが。


一通りパンチの打ち方を変えたのちは、蹴り

主体で、そのあとは寝技だ。5種類ほど

サブミッションや絞めをやったのち、

立ち上がる。


ここまでは約束練習のようなものだが、

受けているトムの息がだいぶ切れている。


「よし、いいよ、おいで」


実戦形式がはじまるが、リング横にいつの間にか

ブラウン少佐が来ていた。


「なにやってんの! ジャブ薄いよ!」

ブラウンがトムへアドバイスを入れる。


トムとケイトは、体格的にはトムのほうが身長が

高くて、体重はケイトのほうがありそうだ。

トムはヘッドギアとボディギアを付けている。

しかし、どう贔屓目に見ても、遊ばれている。


トムは軍の中でもけして弱いほうではないのだが。


「良しオッケー、エマドおいで」

トムが肩で息をしてリングを降りる。


エマドは立ち技も寝技もやるが変則スタイルだ。

ケイトは最初オーソドックスなスタイルで、

そのあと変則スタイルで相手をする。


「変則スタイルとサウスポーに少し慣れてきたね、

 この感じで続けて」

スパーリングの終わりに的確にアドバイスを入れていく。

エマドは変則スタイルだが、相手が変則スタイルだと

いつもやりづらそうだった。


「次フェイク!」


元気よく返事してフェイクが入ってくる。

フェイクは立ち技をいなしてからの寝技主体の

練習だ。ケイトは相手の得意領域を中心に

練習相手を行う。


「寝技だいぶうまくなったね、この分だと

 立ち技からの連携に力入れていいかも、

 次、ウイン!」


ウインは立ち技も打撃と投げ技両方用い、寝技も

できる。技の種類がとにかく多い。


「くずしのイメージがだいぶ出来てきたね、チャンス

 でもっと畳みかけていいよ、次、マルーシャ!」


マルーシャはあくまでも立ち技で勝負する

タイプだ。綺麗なハイキックを繰り出す。


「相手のタックルにだいぶタイミング合わせられる

 ようになったね」

「最後まで立ち技で行くとしても、バランス崩れるの

 を恐がり過ぎたり、寝技主体の相手に接近戦を嫌い

 過ぎたらダメだよ、次、アミ!」


ヘッドギアとボディギアを付けていない、

大丈夫なのか? とゴシが思いつつもアミが

リングにあがる。


は、速い、どちらも速い。ケイトはさっきまでの

遠慮が無くなっている。立ち技から寝技、

そこからまた立って攻撃と、アミがくるくる動く。


「アミは立ち技も寝技も防御がうまくなったね、

 よーし、ここまで」


途中でジェフ・タナカとリアン・フューミナリが

入ってきていたが、アミのスパーリングが

終わりかけるときにリアンの提案で3人とも隅っこ

へ行って腹筋をはじめている。


指名されるとまずいと思ったからだ。


ちなみに彼らは今重力下にいる。客船が空母と

ワイヤーでつながれて回転飛行しているからだ。


長期航行するタイプの客船は、単体で無重力の

場合もあるが、複船にするか貨物船と同道

するなどして重力を確保する。内部がドラム

式になっている大型船もあり、重力確保の

しかたは様々だ。


乗客などもまれに無重力航行か重力下かを確認し

忘れて面倒なことになる。持ち物が無重力、重力下、

どちらかしか対応していないということがこの

時代まだあるからだ。

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