第69話 ゴシの話10

「とにかく店からタクシーを呼ぼう」

ゴシがすぐさま対応する。


今回はクリルタイ国でのライブだが、アラハント

名物のメンバーが少し遅れてくるというネタは

行う予定だ。


だが、他国ということもあり、ふだんより

早めにメンバーが揃う予定だった。


「空港まで30分でうまくいけば間に合うな」

「タクシー、すぐ来ます!」

店のスタッフが教えてくれる。


「よし、残ったメンバーは動揺せずにいつも

どおりな!」

激しく動揺しながらもゴシが叫ぶ。


「大丈夫だって、おれたちアミなしでも

いけるぜ」エマドが強気だ。

とにかくアミを出発させて、控室に戻る。


モニターでは、サクハリンのライブが

スタートしていた。

「どう?サクハリンかっこいいだろ?」

フェイクが言う。前から詳しいのだ。


サクハリンの特徴は、まずジェフ・タナカが

民族調やディスコ調のダンスミュージックを

DJセットやキーボード、ミュージック

シーケンサーなどを使ってつなげていく。


そこにリョーコ・ミルズがボーカルを乗せて

いくわけだが、決まった曲、というのも

もちろんある、周知された曲というのか、

でも、半分以上が即興で歌詞を乗せるのだ。


即興なのはリョーコのボーカルだけでない。

ジェフのキーボードから出てくるメロディ、

リズムマシンによる変則ビート、つまり、

その場で作曲しているようなプレイなのだ。


実際、ジェフが演奏中に使用する端末に

入っているインターフェースは、作曲にも

使用できるものだ。


で、その横にある立体印刷機により、

すぐさまレコード化してターンテーブルと

ミキサーでミックスできる。


観客は、あとでそれをレコードでも、

音源ごとに分けられた曲のデータとしても

入手できる。ジェフは、そういった作業を

ライブ中に淡々とやってのける。


「すげえよな」

エマドが感心する。自分でもけっこうな

ステージ度胸があると思っていたが。


「僕ら、逆にふだん作曲作業することほとんど

無いんですわ」ジェフがライブ前に言っていた。

「イメージだけ頭ん中に作りはするんですけど」

さすがのアラハント5人もそれには驚いていた。


「あ、もちろん最初のころはやってましたよ作曲」


「ライブの中で生まれる、インスピレーション、

それを大事にしたいみたいなんがありますねん」

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