第52話 ヘンリクの話13

この黒タイツスタイルになると、

最終的に楽器を自動演奏モードにして

4人ともマイクをもち、ステージを

暴れまわりながらパフォーマンスする。


というのがいつもの流れだが、今日は

ゲルググなので、何か新しいことを

やってくるかもしれない。


いや、マッハパンチはもうほとんど

出来上がっているので、みなが

期待するいつものスタイルで充分

楽しめるはずだ。


でもこのあと切り替える映像を僕は

知っている。天井の3Dは青みがかった

オーロラ、モニターも青を基調と

した映像だ。


批判モード3曲終えて、MCに入る。


「では今回は、新境地を開拓します」


「みなさんご唱和願いますー」

「大ー往ー生ー!」

フロアが一気に青みがかる。


4人がそれぞれ頭に手をやり、

つかんで引っ張ると、

それは、取れた。


ウィッグだ。見事に薄毛な4人が現れ、

曲が始まる。


ゲルググとサクティの両フロアに再び

そこそこの衝撃が与えられ、しかし、

そのアイルランド民謡をサイケデリック

風にしたその曲は、


か、カッコいい。


歌詞の内容は薄毛がつらいだとか

でもがんばっていこう、みたいなもの

のようだが、曲そのものはカッコいい

ではないか、とヘンリクは感じた。


映像は、彼らのキャポエイラのつらい

練習風景や、髪に、もとい神に祈る姿が

青を基調として流れる。そして、この

神の名を僕は知っている、ホトケだ。


その映像の中で、チラッと見えたが、

確かにキャポエイラの技であろう、頭を

軸に回転しながら蹴りを放つ練習を

やっている場面があった。


そういった部分も影響しているのだろうな、

と思いつつ、ヘンリクは自分は気をつけ

ようと、強く思ったのだ。


最後にボーカルのキングが、

「おれたちは常に弱者の味方だ」

と言い残して、今日のステージを終えた。

歓声が鳴りやまない。


23時までのつなぎの曲をかけ流して、

彼らの後を追う。サクティでファンたちと

ハイタッチしている。


やっぱりすごい。


そしてトリのボッビボッビがサクティ側で

楽器と衣装の準備を始める。


マッハパンチのステージのあとで、少し

やりづらいとかあるのかなとヘンリクは

思いながらも、照明の設定や映像の

準備をする。


彼女たちは、開始前でもいつも落ち着いて

見える。一つ年上というのもあるのだろうか

頼もしくみえるのだった。

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