第48話 ヘンリクの話9

ウインの登場でフロアの雰囲気が少し

変わる。映像のトーンが変わるからだ。

エマドはミニペットと呼ばれる管楽器に

変える。


エマドとフェイクだけのときは、1000年

ほど前の野暮ったい時代劇の映像をモノクロ

に加工してコミカルな雰囲気でミックスして

いたが、


ウインの搭乗で彼女のキャラクターである

伝説上の動物ウニコーンをデフォルメした

キャラ、ウニーが画面に登場する。一気に

ポップな色調になるが、まだ2Dモニター

しか使用しない。


ビジュアルジョッキーとディスクジョッキー

は似ている、とヘンリクは思う。少なくとも

ヘンリクがふだん使用する音楽ジャンルで

言うと。


今かけているディスクの曲に少しづつ

次のディスクの曲の音が混ざっていき、

そしてそれが入れ替わり、もともと

かかっていた曲の音が徐々に抜けていく。


ウニーが出てきたあとも時代劇の登場

人物がまだ所々出てくるが、それも徐々に

デフォルメ化され、最後は下の

ほうに小さくなってうろうろしている。


表現のしかたは色々あるが、そういった

感じだ。


今回は、いったん加工した映像を使用

している。加工には自分で静止画状態の

ものを細かくいじる場合もあるし、

今回は時代劇の登場人物をデフォルメ

するにのAI機能を使っている。


できれば、ライブ中にもっとリアル

タイムで、素材の加工とミックスを

できればと思っている。フロアの熱に

合わせて流す映像を変えていくのだ。


電子工学を専攻しているフェイクと、

そのあたりを相談しながら何が

できるのかをこれから試していこうと

考えている。


それ用の新しいデバイスが作れたらな、

とフェイクは言う。


などと考えているうちに、ベース担当の

アミ・リーが登場だ。


眠そうに、だるそうに準備を始める。

と思ったらエンゾさんに何か話しかけて

いる。どうも酒はまだかと聞いている

ようで、エンゾさんに追い返される。


「マジメにやれー!」罵声が飛ぶ。


が、いったんアミが重い低音を響かせると、

またフロアの雰囲気が変わる。そして、

デスボイスと呼ばれる特殊な発声法で歌う。


そうすると、一気にフロアにいかつい

兄ちゃんたちが増える。エマドがマイクに

持ち替えて、即興のラップを繰り出す。


「ヘイ、ヘンリク、映像の切り替えを

忘れてないかい気づいた君は少し後悔」

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