第21話 ナミカの話

ナミカはもともと舞台の出身だ。 


一般の人々を対象に比較的安価な入場料を

とるタイプの演劇を一家で行っていた。


それは、伝統的な舞踊をベースにしながらも、

題材や舞台装置、衣装などは比較的新しい

ものを取りいれていくというジャンルだった。


ナミカは、そういった役者の家に生まれた

者がみなそうやるように、幼少のころから

舞台で演技していた。


男役をやれば力強く、女役をやれば柔らかく、

重心移動の美しい、人気もある役者だった。


一家は、元をたどれば島国の出身だったらしいが、

大陸を転々としながら芝居を続けた。一家の芸の

特色として、世界各地の格闘技の動きを演技に

取り入れている。


それも、各武術の高段者のレベルに近い。

特に殺陣に関して迫真の演技で定評が高かった。

しかし、若いころのナミカは、武術については

あくまで演技を補助するもの、という意識だった。


舞台に立つうえで舞踊はもちろんだったが、

武術についてもさんざん稽古した。しかし、

ナミカは水泳が好きで、時間の合間を見ては

よく泳ぎにいった。


父の代まで地球上で活動したが、ナミカが二十歳

のとき、宇宙に出る。ナミカが宇宙に出る前に、

二人の妹が月の裏側、第三エリアの格闘技の世界で、

プロデビューし、すでに成功していた。


ナミカは妹たちに助けられながら、演劇の仕事を

探したり、空いた時間に警備員の仕事などを

行った。


ある程度予想していた通りだが、演劇の世界は

地球上と宇宙でだいぶ異なった。


それは、主に居住空間の重力の強さによる。

第三エリアは、弱重力と無重力が主流で、

地球重力の構造都市はほとんどなかった。


役者に限らずであるが、スポーツ選手にしても

並みのひとであればこの重力の違いには、

慣れるのに相当時間がかかる。


ナミカは、地球上での基本ができていたのも

あって、素早い適応を見せそうだった。

とくに水泳が得意だったのがとくに無重力

での適応を早めた。


大きな転機が訪れたのは25歳の時だった。

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