140話 決着


 魔法陣に近寄るとメイヤード様、エリーとベネの三人がボールズとブラフマの二人と対峙していた。

 三人が時間を稼いでくれたお蔭で俺は父様と最後に話ができた。


「ありがとうございました。」


「孝行出来たんだろ?」

「…はい」

「なら良し」


 俺が言うとメイヤード様が肩を叩きながら励ましてくれた。

 だが、ボールズとブラフマは俺を恨むような目で見てくる。

 十中八九俺が、切り札であるアンデットモンスターを消滅させたからだろうな…。


 そんな目で見るなよ…照れるだろ。


 俺が薄笑いを浮かべながら目の前の二人に近づいていく。

 異様な雰囲気に気づいたブラフマとボールズの二人は俺と反対にジリジリと距離を取りながら下がっていく。


 俺はお前達を必ず滅ぼすと決めたからな。そういう気持ちが伝わったのかな?

 だが、その前にシバの居場所を聞き出さないとな…


 そう思い、こちらに向けて殺気を隠そうとしない二人に近づいていく。


 --パンパンパン。


 だが、近づく事もなく目的の男が現れた。優雅に柏手なんてしながら現れた。


 出たなキザ野郎……


「やるじゃないか。その力どうやって身に付けた?」


 シバを見ると拍手はしているが顔の表情は無表情だ。

 驚くでも無く、驚異に思っているでも無さそうだ。ボールズとブラフマは”ギョッ”とした顔をしていた。

 折角隠していたのにこれじゃあ意味がない。ボールズとブラフマは上司に恵まれてないな。


 ただ、下っ端(捨て駒)の地底の兵達や知能のあるモンスターはシバの出現に雄叫びを上げていた。


 なるほど。興味本位半分の士気向上半分といった所か。


「コイツ等、息を吹き返したね…」

「うん…。目つきが変わってきた」


 エリーとベネが周りを警戒しだした。

 確かに先程まで何かを諦めていた敵たちはシバの存在によって戦う気持ちが戻ってきていた。

 一色即発の気配が色濃くなってきた。


 その気配を察知し命令を下そうとしたボールズ。目が『好機!!』と、言わんばかりに爛々と輝いていた。


「かかれ…」

「待て!! 勝手は許さん」


「「!!?」」


 この場にいる全員が固まった。急に敵味方関係なく跪いたのだ。俺も少し遅れてだが膝を付いた。

 これが、こいつの厄介な能力で権限による『絶対支配』をしてくる。

 敵側はもちろん、向こうの兵士もモンスターも膝を付いていた。

 そして、こちら側も……


「くっ……。な、なんでこ、こんな奴に…」

「いやん。何で逆らえないの」

「くっ、うっ…」


 エリーとベネ、ソフィーは抵抗しているが体が勝手に下がっているのだろう。

 エリーなんか相当頑張ってるな。頑張りすぎて血管が浮きまくりだった。明日とか筋肉痛にならなければ良いけど。


「ふむっ…。なかなかどうして強い権限を発動してくるやつじゃの」

「そうですね。お山の大将気取りですね…って」


 って、メイヤード様は直立不動だった。何でこの人大丈夫なの?


「おぉーと、このままだと不味いね。アタシしゃがんどこうかね」


 因みに俺はヴィシュと魂合したお陰で抗うことは可能だ。こうして跪いているのには訳がある。

 取り敢えず問題を起こさないために演技していた。

 メイヤード様も同じ感覚の人間なんだろう適当に膝を付けていた。


 コノ人、マジ何ナノ?


 ごほん…。気を取り直して、シバは俺の近くまで歩いてきた。俺の周りをグルグル回っている。

 どうやら興味があるのはの姿のままでヴィシュの力を使っている訳だから気になるのは当然だな。

 ただ気に入らないのは、俺をモルモットでも見るような目で来てくる所だろうか。


『絶対支配』が効いているのだろう。無防備に近づいてくる事がその理由であり。

 そして、普通の人間である俺ならば簡単に服従させられる。と、でも思っているだろう。

 今回はそこを逆に利用させてもらおうとしてるんだ。


 跪きながらも抵抗する仕草をするのが難しかった…

 が、あまりそういう所は気にしないらしい。

 シバは警戒もせずに近寄ってくる。


「素晴らしい。どうやら君はあの未熟な奴と無粋な魔剣を手中に収めたようだね」


 シバはある程度距離を取りながらもこちらに近づいてきた。

 …こいつ等に警戒心というものは無いのんだろうか?

 敵ながらアホだと思ってしまった。


「私に服従しろ」


 ドヤ顔で俺に命令してきたが、今の俺には効果がない。


(私に服従しろ)


 ヴィシュがモノマネしてくる。やめろ笑わすな。

 ヴィシュのモノマネのせいで笑いそうになった。

 プルプル震えていたが逆にそれが良かったのかも。


 震えていたのがいい感じに抵抗しているように見えたようだ。

 シバが凶悪な笑みで俺を見ていた。抗うフリをしながら隠していた顔の隙間から確認した。


 シバが俺の目の前で何かしようと足を止めた。

 これはチャンスだ。


「改めて聞こう。我が同志になれ」


 シバが差し出した姿から不思議な魅力が溢れていた。今思い返せばこの魅力こそが人を魅了・・する毒だったのかもしれない。


 今は全く心を動かされないけどな……


 ヴィシュと魂合した事でシバから出された掌を前にしても一向に変化がない。寧ろツバを吐きかける事も可能だ。

 最もそんな事をすれば不意打ちが台無しになる。

 俺は仕込み・・・をすると掌を握ろうと伸ばす。

 徐々に近付くに連れシバやブラフマ達が破顔していた。

 これは間違いなく油断してくれている。

 これから起こる悲劇も知らずにな。


 そして、シバの手に触れる。

 一瞬、電撃が体中を駆け巡った。少し痛かったがそれだけだった。特に操られたとかは無さそうだ。


「これでお前は私の物だ」


 シバ達が獲物を取ったような顔していたが、俺がシバの腕を掴むと非常に驚いた顔をしていた。


「残念。罠に掛かったのはお前・・だよ。ヴィシュ!」

「おぉともさ」


 俺が掴んだ腕を振り払っている間にシバの背後で黒い塊が膨らんでいく。俺の影から伸びた影人間で姿は俺そっくりだが、性格はヴィシュだ。

 これが、ヴィシュとの魂合による真の力である。

 ヴィシュがシバの背後から魔力を放つ。


「グガァ……」


 シバが驚愕した顔をして斬られた背後を見るとそこには俺の影から伸びたもう一人の俺、ヴィシュが斬りつけていた。

 しかも、手にはヴィルを持っている。


「何故? 貴様がそれを…」

「へへっ、油断大敵ってな」


 --パキパキッ……


 と、鱗が剥がれ落ちる様な音をたてて魔力の結晶にて具現化したヴィルが消えていく。

 背中を斬られたシバは目を剥いていた。それもその筈だ。俺が構えていたのもヴィルだった。

 傍から見ればヴィルが2本ある様に見える。俺の隠し玉はこれだ。


 あの世界で俺たちは協力関係を結んだ。

 ヴィルとヴィシュはは俺に取り込まれる形になり力を貸している。

 金○様の力によって俺たち三人は三人で一人になった。


「ゴミムシ共、殺してヤル……」


 シバの姿がイケメン優男の姿から黒い影に覆われた化け物の姿に変わる。

 シルエット色が強くなり今までのらしい形はそのシルエットに隠れた。

 シルエットの形は徐々に変わっていき、最終的に二足歩行の巨大な馬の様なシルエットなった。

 そして、そのシルエットがはっきりと形作るにつれてシバの力が膨らんでいく。


 --ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

 地面や大気が震える。


「ゴミ虫ガ…。 殺ス!!」


 馬のシルエットの目の部分が朱くあか(く)爛々と煌き。

 ノーモーションでこちらに向かって襲いかかってきた。

 今までの冷静沈着な振る舞いとは違いそこら辺のモンスターと遜色ない力任せの攻撃だった。


 …ただし、それも攻撃が見えていればの話である。

 速さも相当上がっているので全く見えないのがネックだ。


(右から来るぞ!!)


 ヴィシュの言葉に反応し、左に飛び退く。


 次の瞬間、虚空を切り裂く爪の音が、重く、鈍く『ボッ』と鳴った。

 一瞬だけシルエットと朱く光った目が見えたかと思うと直ぐに闇に溶けた。


 今までの先を考えた攻撃では無く、単調で影から襲いかかってくる方法に変わっている。

 単調でシンプルな攻撃パターンのお蔭で読みやすい。見えればだけど…


 それでも数十回も避ければ流石に距離感の取り方、来るタイミング等に馴れてくる。攻撃の筋もある程度は勘で分かるようになった。

 最初は躱す度に切られていたが、今は薄く引っかかれる程度ですんでいる。

 普通ならこの段階で一度仕切り直しするのが普通だと思うのだが、シバは相当頭に血が登っているらしく下がろうとはしない。

 ヴィルに斬られたのが相当ムカついたのだろう。この辺の因縁もかなり深そうだ。


「愚カ者メ!! 神デアル我ノ裁キヲ避ケルトハ!!!」


「くっ!」


 シバの放つ言葉は大気を揺らし心に恐怖心を煽ってくる。

 こいつの言葉を聞くとどうしても体が反応する。


(心を鎮めろ。ヤツの言葉に惑わされるな!!)


 ヴィシュの言葉が俺の心を鎮めてくれる。

 お蔭で俺はシバの攻撃にも体を動かす事が出来る。


「マダ動クカ…。愚カ者ヨ!!」


 シバの言葉が俺の体に絡み付くがヴィシュが予め言葉を発してくれていたお蔭でほぼ無効化出来るようになった。

 そのため、シバは独り言を大声で叫ぶただの痛い神様に成り下がった。


「そんな惑わしは利かない!!」


 左手・・から繰り出す聖剣ヴィルを振る。

 シバはヴィルをあっさり躱すと一度姿を消した。だが、怒りに任せて距離を詰めているのだろう。

 残念だが殺気は消せてない。

 ヴィシュが(真正面に来る。)と、教えてくれたので、俺は数歩後ろに下がる。

 数秒遅れてシバのシルエットが姿を表す。既に右手の攻撃モーションがこちらを捉えていた。

 このタイミングを待っていた。こちらが躱すモーションで且つこちらに近づいている状況。


「待ってたぜ。神様!!」


 引きつけるだけ引きつけて…、今だ!!

 右手・・に溜めていた魔力を開放する。


「喰らえええええええええええええええ!!」


 開放された魔力はこちらに向かってくるシバの顔右側に被弾した。

 顔面全体を狙ったのだが超反応の躱されてしまった。

 しかし、かすってもほぼこちらの勝ち確定である。

 放ったのは、ヴィシュとの魂合こんごうによって出せるようになった魔弾であり。

 そして、【外来種】であるシバ達の弱点であるヴィルとの魂合によって聖剣成分も加味されている。


【外来種】と呼ばれる連中は、何故かヴィルの攻撃は回復出来ない。


「グアアアアアアアアアアアアアアアア」


 今まで聞いた事も無いような恐ろしい断末魔の叫びを挙げる。

 焼けるように痛いのかも、顔から煙が上がっている。


 勝った。そう思ったのが完全に慢心だった。

 よろけるシバが本能(?)に任せてひっかき攻撃をしてきた。


 当然、俺は今まで・・・・と同じ感覚で回避行動を取った。


 --ドンッ!!


「シバ!?」

「シバ様!!」


 ブラフマのクソガキとボールズのジジイが声を張り上げていた。

 ふふん。どうだ、お前らのボスにキレイな顔・・・・・に1杯喰らわせてやったぜ!!


 …ぐっ。がはっ。脇腹が熱い。

 何事かと思い見てみると、左の脇腹が拳2つ分抉れてえぐ(れて)いた。


 シバの腕が俺の脇腹付近に伸びておりダラリと抜けた。


「ごふっ…」


 口から血を吐いた。


(おい。この傷は不味いぞ)

(イッセイ逃げろ)


 頭の中でヴィルとヴィシュの声が聞こえた。

 心配してくれているのは分かるがもう息をするのもキツイ…。

 体の一部を失ったショックからか力が入らない。


「シバ様! 今はお下がりください」


 顔を抑えて後ろに下がっていくシバ。

 ボーマンが後ろから支え姿を消した。


「止めを刺してやりたい気持ちが強いけど…。その傷じゃどのみち助かるのは無理だね」


 敵意をむき出しのブラフマが言った。ふん、まだお前を倒す位ならやれるさ。

 俺の気持ちが伝わったのかブラフマは両手を広げてため息をついた。

 そして、


「これでシバは世界征服に乗り出すだろう。お前のお陰だな」


 ニッコリと笑顔を見せると手を振りながら消えていった。


 驚異が去ったお蔭で体に力が入らなくなる。

 フラッとしたと思うとそのまま地面に落下し始めた。


 水が枯れて、ただの崖となった渓谷に目掛けて落ちていく…。

 傷を負った脇腹も今では痛みも感じない。力は使い果たしたので指一本動かす事が出来ない。


 ま、この土地シェルバルト領内で朽ちるならそれでもいいか…。

 結局のところ、最後はシバと相討ちになった。

 奴が放つ一撃は俺の脇を抉ったが、俺の一撃は奴の顔に入った。

 ヴィルの攻撃でもある俺の一撃はイケメン顔を焼くだろう。せいぜい痛みに耐えるがいいさ。


 落ちる最中、風がビュウビュウと耳に聞こえる。

 最後にシェルバルト領を見ておこうと目を開けるとソフィー達が俺を見ていた。


 何か言っているし、エリーも魔法で助けようとしてくれているみたいだが間に合わないだろう。

 ブラフマが何かを言っていたので残った魔力でセティに言葉を残した。

 内容は何を言っていたのか分からないが俺の記憶は送れた筈だ…。


 ふぅ…。後はやり残したことは無いか。


 ありがとう鏡。幸せになってくれ。

 エリーやベネもどうか幸せになってくれ。

 メイヤード様。よろしくお願いします。


 そして、ソフィー…。

 一緒になれなくてごめん。


 …あぁ。ここを元に戻したかったな。


 荒野に成り果てたシェルバルト領を見ながら思った。

 元の美しい領地にしたい。父様との約束は果たせそうも無かった。


 目が霞んできた。

 そろそろ、意識を保てそうもない。


 皆。ありがとうな。



 最後にそう口にすると意識が遠のいた。



〜第一部 完〜

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好きな子を追いかけたら、着いたのは異世界でした。 縁側の主 @engawanonushi0901

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