115話 こ、これが、冒険者クラス5(自称)の実力ですか?

 −−バキョ、バキン! ドガッ!!


 ベネが奇襲で蹴破った扉は見事に丁番ごとねじ切り。自称・・5クラスの冒険者達目掛けて飛んでいった。


 だが、自称とは言え高クラスに位置する冒険者(クラス3に行けば優秀)には通用しなかった。

 飛んでいった扉は一撃で破壊されダメージを与えることなくあっさりと弾き返されていた。


「あらら? 完全に(奇襲が)決まったと思ったのにオジサンやりますね」


 水平蹴りの姿勢のままニッコリ笑顔でそう言ったベネは若干嬉しそうな顔をしている。


「ガキか!? 舐めた真似しやがって・・・てめえだけじゃない筈だ。他の仲間はどこだ?」


 モブデスとか言ったか?

 ベネに釘付けの男は俺達が潜入した気配にすら気付けていない。


 因みにベネの扉破壊と同時にあっさりと室内に侵入した俺とエリーは、壁際で待機していた。


「さぁ、知ってても教えると思います?」

「へっ。道理だな。だが後で裸で泣きながらでも謳って貰うぜ」


 ベネ相手によだれを拭う仕草を見せいやらしい顔をするモブデス。

 この世はロリコンだらけなのかと天を仰ぎたくなった。


 そんな感じでベネとのファーストコンタクトを終えたモブデスは机の上で組んでいた足を地面に下ろすとゆっくり立ち上がる。その一瞬の間に合わせてモブデスの仲間2人がベネに襲いかかった。


 なるほど。コンビネーションはキッチリしてたって事ね。


「ひ、卑怯な!・・ッグ」

「うっせーよ」


 兄様が怒りに任せて叫ぶ。と、同時にモブデスの足が兄様を踏みつけた。


 ・・・ベネが全部終わらせたら後で落とし前付けさせよう。逆さ吊りの刑が良いか? 何か虫の這いずる所に落とす刑が良いか? クククっ今から楽しみだぜ。


 とはいえ、兄様が言うほど卑怯では無い。

 戦法として考えればこの程度の奇襲は定石だ。


 ただ、ツメは甘いけどね。


 知ってか知らないかは置いといて、この程度の奇襲はメイヤード流にとって朝飯前の準備運動にもならない。


「ほっ、はっ」


 −−バキ! ガスッ!


 お供の2人はベネの攻撃を一撃ずつ食らって床に沈んでいた。


「うーん。もう少し早く打てないかな?」


 今の戦い方が気に入らなかったのかシャドーをしているベネ。向上心が半端ない。


 安心してベネ。4クラスの相手をワンパンで仕留めたあなたほぼ人外よ。


「な、何だコイツラ。俺達の必殺コンビネーションが・・・」


 可愛そうな目を向けた俺とは別に、仲間がやられて狼狽えるモブデス。


 まさか、今の攻撃が奥の手なのか・・・。

 投擲の勇者とはいったい・・・


「ねぇ。オジサン【勇者】何でしょ? だったら力見せてくださいよ。」


 ベネも同じ考えだったようだ。しかし・・・


 急に腕を後ろに組んでクネクネし始めるベネ。

 彼女の悪い癖が出て来た、興奮すると彼女はおねだりクネクネを始める。


 今でも忘れない。ある日のスパー中に突然クネクネし出したベネを皆が気遣った。

 あのメイヤード師匠すらベネに声を掛けたほどだ。

 光悦な顔をしたベネがおねだりを始めた理由は、体を鍛える事に目覚めたからだった。健康志向で修練もサボらなくなったベネ。(もともとサボる娘じゃなかったが)

 それでは飽き足らず、皆は何時間もスパーや走り込みにつきあわされた。

 それ以来、皆の中ではあのクネクネ踊りは『デビルズロンド悪魔の踊り』と呼ばれ恐れられている。


 ベネの意味不明な行動に明らかに動揺しているモブデスは机の上にある物を適当に取ってベネに投げつける。


 −−シュン。


 物が当たった瞬間、ベネの姿がブレた。


「な、何だ!? 魔法か」


 動揺するモブデス。あの程度の速度も追えないのか・・・

 ベネは天井にいた。逆さになって立てっている。

 理由は至って簡単だ。

 ベネが飛んで天井まで飛んで逃げただけだ。


「ふーん。イッセイ君みたいに追って来るかな。と、思ったけど全然ですね。投げる速度も遅いし」

「なっ!? てめぇいつの間に?」

「オジサン。5クラスって言うから興奮して期待して

 たのにこれは期待外れだね。テンションが下がっちゃったよ」


 天井から壁伝いに走って降りてくるベネ。

 魔力を調整して地面をかけるように普通に走っていた。のだが、


「ば、バケモノがっ!!」


 他の人には驚異に写ったらしくモブデスだけでなく兄様も驚いた顔をしていた。


 −−ビュッ。ビュッ。


 モブデスが腰に付けていたナイフを投げてくる。

 だがしかし、ベネには通用しない。


「可憐な少女に対してバケモノとは失礼な。・・よっ、はっ」


 ベネは飛んでくるナイフをキャッチした。


 今のナイフは勇者固有スキルが発動して投擲速度や威力が増えていたはずだ、ベネはそれをいとも簡単にキャッチしてみせ。ベネは炎の魔法で燃やし尽くした。

 そう考えると繰り返しになるがベネは十分バケモノである。


「イッセイ君。後でスパーに付き合ってね」


 ベネの声が聞こえてきた。

 しかも、今もっとも聞きたくないセリフと共に。


「なっ、消えた?」


 ベネはモブデスとの距離を詰めていた。

 モブデスには動きすら見えなかった様だ。

 なんて話をしているうちにモブデスの目前に姿を出すベネ。


「ボディがお留守だよ」

「なっ!? ・・・ぐはっ」

「って、えぇー。そんなに痛がるほど殴ってないでしょ」


 ベネにボディ(腹パン)を食らったモブデスは、一瞬浮いていた。ボクッって音がすっごい痛そうでしたけど?


 息をするのも忘れてしまったように口をパクパクさせているモブデス。残念ながらもう戦えそうもない。


 一瞬にして状況が180°変わってしまった恐怖からか支配任とその部下は床で蹲ってうずくま(って)いる。不思議な事に今ではこいつ等が人質みたいに見える。


 俺とエリーは寝かされているカリーナさんと何故か一緒に伸びているイリーナさんを保護した。

 よく見ると彼女は殴られた様だ。鼻から鼻血が出ていた。

 成人前の子を殴るとは、やっぱりお仕置きは必要だな。やったのは誰だ? いや、ここに居る全員しめるか。


「兄様。ご無事ですか?」

「・・・イッセイ! いったいどこから? いや、すまないね巻き込んでしまった様だ」


 姿を現した俺に驚いたリアクションをする兄様。だが、直ぐに気を取り直し俺に謝罪してくれた。


「いえ。兄様カッコよかったです」

「文官が負け惜しみ言っただけだね。色々痛感したよ」


 縛っていた縄を外してあげるとヨロヨロよろけながらも兄様は立ち上がろうとする。俺も兄様を支え立ち上がらせる。


 こういう時、文句や弱音を吐きそうなものだが何にも言わずむしろこっちを気遣う姿はカッコイイ。


 立ち上がった後で兄様に回復薬を振りかけた。

 これで、暫くすれば傷も癒えてくるはずだ。

 イリーナさんもエリーが回復剤をかけていたので直に治るだろう。


 辺りを見渡すとベネがモブデス達を縛りあげ。

 エリーがカリーナさんとイリーナさんを安全な場所に運んでいる。

 エリーはいまだに隠遁で隠れているため姿が見えない(年の為の措置で隠れてもらっているからだ。)ので、助けた2人が勝手に浮いているように見える。

 バレバレだが誰も見ていない様なのでセーフだろう。


 兄様と共に支配人に所へと行く。


 色々謳ってもらおうかな。

 指の2−3本折れば喋るでしょ。師匠がいつも言ってるしね。「先手必勝。相手の心を折った者勝ち」ってね。


「さて、色々教えていただいても良いですか?」

「ひっ、ひぃぃ。何でも話す。話すから乱暴は止めてくれ」


 支配人は俺が話しかけるなり後ずさりしていった。

 失礼な。無害で幼気な少年を捕まえて恐怖に怯えた顔をするなんて。


「イッセイは考えが口から出るタイプ? さっきからずっとブツブツ言ってるけど」

「そうですよ。お兄様」

「あっ、やっぱり」


 兄様が呆れた口調なのに、ベネが返答していた。

 俺は口元を抑えて左右をキョロキョロしてしまう。


 え? また喋ってた?


「まぁ、でも心はポッキリいったんじゃない?」


 支配人を見ると体を丸くして殻に籠もってしまった感じだ。もうこうなったら悪さどころじゃないだろう。


「では、色々伺いましょうか、まずは黒幕から」

「イキナリだね」

「こう言うのは時間との勝負ですから」


 指をパキンパキン鳴らす。

(※指を鳴らすのは、軟骨削る行為だから指鳴らしちゃ駄目だぞ!!)


「ひ、ひぃ。言う言うから許してくれ。黒幕は、お・・・」


「兄様。危ない!」


 −−ブォン。

 −−バカッ。


「ぎ・・・・」


 俺は咄嗟に兄様の頭を抑えてかがみ込んだ。

 何か鈍器のようなものが俺の頭上を飛んでいくとそのまま支配人にぶつかり頭を潰された。


 死体を見て一瞬クラっと来たが、俺の中から『目を開け、折角の情報源を殺されたんだもっと怒れよ』と語りかけてくる。


 確かにそうだ。折角ベネが囮になってくれたのに邪魔しやがって。

 ふつふつと湧き上がってくる怒りに身を任せそうになり。ポケットに手を突っ込む中に入っているお手製の弾丸でこめかみを撃ち抜いてやろう。


 そう思ったのだが・・・

 別のものに手が触れた瞬間、ふとソフィーのプリプリ怒る顔が頭をよぎり思わず吹き出してしまった。


 触ったのはエリーから譲ってもらった鏡(ソフィー)の髪留めだった。前に怒りに身を任せた時、ソフィーに叱られた事を思い出したのだ。


 ふぅ。ちょっと落ち着いた。


 立ち上がり鈍器を投げた奴を見ると、黒いオーラが吹き出している気味の悪い男が立っていた。


「ゴミクズめ。なんの役にも立たたんとはやはり人間は家畜以下だな」


 低く唸るような声で喋る男。

 制服を着ているので、ここの職員っぽいのだが・・・


「おい。お前何で支配人を殺したんだ。って言うか何だよその力・・・」


 不用心に近づいていく従業員B君。

 支配人を殺した従業員A君の肩を掴む。


 あっ、危ないぞ。

 人って目の前でショッキングな出来事が起こると思いがけない事するらしいけど、まさにコイツがそうだ。


 −−ブシュ。


 頭から先が消し飛んだ死体が血を吹きながら膝を付いた。


「ゴミクズめ我に触れるな。タダでさえこの様な下等生物に入っているだけで気がおかしくなりそうだと言うのに」


 突然現れた殺人鬼には驚いたが、奴が2人目を殺めた頃には冷静さもある程度戻っていた。


「くふふ。次は貴様らだ。邪剣を操る愚かなゴミ共め」


 ダラリと下げた肩を見てるとゾンビの様だ。口で流暢に喋っている割には顔に生気は無く。顔を一度も上には上げていない。何というかマリオネットのように糸で吊るされている様に見えるのだ。


 引きずっている鈍器だってやっとの思いで引きずってるのように見えるんだが、振り抜いて来る時は恐ろしい速度で振り抜いてくる。

 そのせいもあってか実際見ると体のあちこちから血が吹き出していた。体が限界を迎えているんだ。

 このままだとあと数回でも腕を振ったら千切れそうだ。


 −−バガン。


 なんて事を考えていたら鉄球を振り下ろされた。


 高そうに見えた支配人の机が今はペシャンコだ。

 御本人は召されてるから良いか・・・


 俺は既に兄様を抱いて奴とは距離を取っていた。抱きかかえ安全な距離まで飛んだからだ。

 でも、兄様には刺激が強かったようで未だに青い顔をしながら足をガクガクと震えさせている。


「何。あいつ?」


 着地した場所にエリーも近付いてきた。

 意味が無いと判断したのか隠遁は既に解いており、2人を小脇に抱えて来たようだ。


 あいつが誰かは俺も聞きたい。


「こっちの事は知っている様だけど僕も知らない」


 エリーと会話をしていると投げた鈍器を拾ってこちらに近づいて来る。

 鉄球をズリズリ引きずってこっちに来る姿は正にゾンビみたいだった。


「よそ見は禁物だよ」


 ベネが従業員ゾンビに奇襲をかますした。

 横から飛び蹴りを入れて側頭部を蹴る。


 グニュと表現するのが適切か? 蹴られた勢いを殺すことなく進もうとした結果。そのまま、あらぬ方向へ曲がった首と肩。確実に折れている。


「まぁ、あの感じならそうなるわね」


 エリーは敵に同情した様に口を開いた。

 まぁ、無駄に抵抗していなければ吹っ飛んで助かったかもしれないな・・・。まぁ、普通ならの話だが。

 終わったと勘違い・・・・・・・・して、こちらに来ようとするベネ。


 敵はまだ死んでない。俺は大声で叫んだ。


「ベネ。油断するな!!」


 俺の言葉のすぐ後に従業員ゾンビが持っている鈍器がベネめがけて振り抜かれる。


「っ!?」


 はらりと切られたベネの髪が数本宙に舞う。


「こんのぉおおお」


 体を高速で反転させ勢いをそのまま乗せたベネの肘打ちが敵の鳩尾みぞおちに突き刺さる。


 −−ドゴッ。ゴァ!!


 当たった鳩尾みぞおちから火が吹き出した。

 ベネが魔法を使ったようだ。

 ベネが離れたタイミングを見計らい炎は大きくなっていく・・・。って、建物に燃え移ってるぞ!?


「皆、逃げて!」


 ベネが叫ぶ。

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