106話 ユキマルの話って重要だったんじゃないですか?

「うーむ。我でもどうにも出来ないな・・・」

「何だよ。元はと言えばお前がソフィーに壊した宝石を見せたからだろ?」

「うっ、お主。痛いところを突いてくるな。だが、あれは我にも不可抗力だったものだ」


 不可抗力って、お前は神だろ?


 今、俺はユキマルを連れてキャンプから少し離れた場所へやってきている。

 理由は『何故か怒らせてしまったエリーとベネの機嫌をどうやって戻すか』と言うものだ。

 元々は違う理由でソフィーと話をしたかったらしいが、コイツユキマルの頭に乗っていたペンダントを見てソフィーが泣いてしまったのだとか。

 俺達が聞いた悲鳴の様な鳴き声はその時の声だったようだ。

 何だかんだで無事だった事を喜びソフィーを抱きしめた俺だが事が、どうもその行為が2人の逆鱗に触れたらしい。


 今は馬車の中でソフィーを含め3人で話し合いを行っている。


「俺がソフィーに対してセクハラを行った事が問題なのだろうか?」

「いや・・・。うーむ。これはなかなかだな・・・」


 2人が怒って遠くに行くのをソフィーが追いかけていったのだ。

 どうなったのか気になるが今は対策を考えておこう。


「なぁ。どうすれば良いんだ。これから皆とやっていくためにもこんな事で喧嘩なんてしてる場合じゃないんだよ。なぁ」

「ううむ・・・。なんと言えばよいのか我も分からんが、お主の契約している精霊達に相談すれば良いでは無いのか?」

「なるほど!! その手があった。セティ、カズハ、アクア、マーリーン。助けてくれ!!」


 俺が4人を呼ぶと当たりは闇に包まれ闇の中に俺とユキマルだけが存在する。

 一瞬闇に落ちたのかの錯覚するが地面の感覚はあるので完全に闇に包まれたのだろう。

 そして、上から滝が現れ辺り一面を水浸しにする。(俺達を避けてだ。)

 直ぐに滝は真っ二つに割れ、その間から光の絨毯がコロコロとこちらに向かって敷かれた。


 もう、嫌な予感しかしない。


 絨毯の上を大きな花のような物が『スィー』って音を立てながらこっちに滑ってくる。案の定、そこの上を4人の精霊たちが各々ポーズを取りながら現れた。

 売れないグループのCDのジャケットみたいな感じに四方八方向いている。

 コンセプトがない商品は頑張っても売れないぞ~。


 俺が言葉を出さずにいると隣にいるユキマルは口を開いた。


「お前の精霊たちは変わっているな・・・」


 ・・・と。


 それは、言うな・・・。俺は急に痛くなった頭を押さえる。

 気持ち的にはユキマルと同じだった。


 その後もいくつかモデルの様なポーズを取った4人がキメポーズを取っていた。


「「・・・・・」」

「「「「・・・・・」」」」


 俺達のリアクションを待っているのか、4人はキメポーズを崩さない。

 仕方がないので俺は拍手した・・・。


「わー。すごいなー(棒)」


 念の為コメントも付ける。

 まぁ、感情はこもっていないですけど。


 うちの子達は納得したのか満足げで降りてきた。



 ・・・


「で、あの2人の機嫌を直させたいのだがどうすれば良いんだろうか?」


 俺がそう言うとアクアが右手を上げてスッと立ち上がり何故か右手に握り拳を作り震わせながらこう言った。


「イッセイ様に仇なす輩は滅ぼしましょう」


 と・・・。

 何を言ってるんだ、この人は?


「あぁー。うん。アクアは座っていいや。何なら帰っても良いよ」

「そ、そんなー。私はここに居ますよ。イッセイ様至上主義ですので」 


 ナーニソレ〜? フツウニ、イヤナンダケド~。


 抑揚のない言葉で帰還を促したが駄目だったらしい。

 そんな事より見た目が130cm程しかないアクア・・・。前回から全然育ってない。どちらかと言うと大っきい部類に入ってたと思ったのに。


「イッセイ様は・・・小さい娘はお嫌いですか?」


 上目遣いにそんな事を言い出した。

 聞き手によっては、犯罪と捉える人も居そうなとても危険な言葉である。

 なまじ可愛いから破壊力はバツグンだ。ロリコンでなくても気になってしまう。

 だが、ご安心ください。私も子供(8歳)です。アクア以外が全員16歳前後に見えるので、12歳前後に見えるアクアは丁度良いと言えば丁度いい。

 って、何の話だよ!!


 改めて見ると膝まで伸びた髪の毛を揺らし、神の加護を受けたと思われるドラゴンスケイルに身を包み。等身以上の大きさのある立派な槍を肩に担ぐ彼女はさしずめロリっ娘・・・いや『美幼女戦士』と言うところだ。語呂的にはセーラー服着て戦いそう・・だ。

 ・・・セーラ服なんて着てたらいよいよマニアな物になるけどな。


 うーん。どんどん美少女になっていってる気がするが・・・。


 ただ残念なのは、装備こそ神聖化したものの頭はプロメテ化したようだ。

 何故か知らないけど、俺を神格化してるっぽい。

 なんか宗教みたいで困るんだけど。


「アクアはオツムが弱体化したの?」

「し、失礼な! 弱体化してませんよ。ただ、イッセイ様が世界。いえ、この世で一番だと知らしめたいだけです」


 俺と同じ考えだったのは黒髪の美女だ。アクアに対して鋭いツッコミを入れていた。


 もっと言ってやって。

 しかし、アクアの思想。怖い・・・怖くない?


 聞き捨てならない言葉に恐怖を覚えるが、


「そう。なら、イッセイが困るような事言ったらダメ」

「うううっ。イッセイ様は世界一なのに」

「ほら、またバカっぽい。バカな配下が居ると上の人もバカに見られる」

「うううっ」


 黒髪の美女が正論を披露してアクアはタジタジになる。

 すごいな思想家が一般論で論破されるって初めて見た。


「・・・・・」


 って、誰だこの人。マーリーンの姿でまともな事をしっかりとした口調で喋ってるぞ? あのいつも眠そうなマーリーンはどうしたんだ?


「ね? イッセイ。どうした?」

「・・・・だれ?」


 思わず聞いてしまった。

 マーリーンは一瞬目を見開いたが、直ぐに目を細め妖しく微笑むと俺を見た。


「私。マーリーン 闇の精霊の姫・・・」

「それは知ってるんですが、その、何か雰囲気が・・・」


 俺が言うと身体を見渡すマーリーン。

 俺を見て優しくにっこり微笑むと・・・


「エッチ」


 胸を隠した。

 って、何でだよ。見てないだろ。


 マーリーンと遊んでいたらアクアが変な視線を送ってきた。何だか拗ねてるっぽい。

 面倒な事が起きそうだからさっさと話を前に進めよう。


 因みにマーリーンはアクアと違って150cm位まで伸びていた。腰まで伸びたストレートな黒髪とパッツンで揃えた前髪が印象的だ。そして、何より気怠そうな感覚は無く目元はパッチリと開きシャキッとした姿は何処かのお姫様と言われても過言じゃないと思った。いや、お姫様だけどさ。

 黒髪に似合う着物の様な彩りであしらったドレスを着ていた。(水上バレーボール選手の主人公を探す為に召喚士からガンナーに転身したあの人みたいな格好ね)


 凸凹で対象的な2人だがかなりの美少女になっている。

 そんな、2人を笑いながら見ているセティとカズハ。

 何だかこの空気久しぶりだなぁ。なんて考えていたら、


「あの・・・親睦中だったら自分何処か行ってもイイっすかね?」


 ユキマルにツッコまれた。

 ヤベェ。また、目的を忘れてた?


 そう。そうだ。エリーとベネが不機嫌になった理由をこの子達に一緒に考えて貰うつもりだったんだ。


「み、皆を呼んだのもエリーとベネが不機嫌になってしまって・・・」


 俺の信の祈りも周りの皆にはイマイチというか、なんかこう温度の低い回答が多い。


「あぁ・・・」だの。

「まぁ・・・」だの、はっきりした答えがなかった。

 俺の新興宗教を起ち上げそうなアクアでさえ下を向いていた。


 何故だ。

 その後も特に答えが出なかったがユキマルが一言言ってくれた。


「まぁその何だ。普通に謝れば良いのではないか?」


 返答に詰まっている皆を察してかユキマルがポツンと言った。


 なるほど。それもそうだな。


「では、そちらの事が落ち着いたのであればこちらの話も良いか? くだんの姫に話せなかった話じゃ」


 ユキマルが俺を見て話をしてきた。


「うん。何でしょうか?」

「う・・・む。お主が姫と近い存在だと思って話をするのだが」


 ユキマルは歯切れが悪く迷いのある話し方だ。


「どういう訳か姫と契約が出来なくてな・・・・」

「えぇー!!」


 ユキマルの発言は問題発言だった。


「しー! 声がでかい」

「だって、鏡の魂を持ってるのはソフィーですよね?」

「あぁ、姫の存在は確認した。もしかすると我のせいやもしれぬ」

「あの得体のしれない物に憑かれたからですか?」

「面目ない」


 ユキマルはシュンとした。

 あっ、いや。別に追い打ちをかけるつもりでは・・・。


「しかし、あれは何だったのでしょうか?」


 俺は話を強引に変えるとともにあの得体のしれないモノが何なのかを考えていた。

 霊的かと言えばそんな感じはなく。実体があったかと言えばそんな感じも無かった。まさに得体が知れなかったのだ。


「アレは憎き奴ら【外来種】のしわざじゃな」

「外来種の!?」

「そうじゃ。姫が亡くなってから500年。ワシら四神は生まれ変わるであろう姫を探す為に地上に二神。地底に二神に別れた。我は地上の北の大地、阿呆の鳥が南の大地に留まり姫の帰還を待っておったのだ。我はその間、退屈しのぎに残っておった外来種を討伐しながらテリトリーである北の大地を回っておった。ところが200年経った頃じゃろうかいつもの様に気配から奴等の居所を探っておったのだが妙な気配に気付いた。と、言う辺りから記憶が曖昧じゃな。カカカッ」


 カカカッ。って、呑気なものだ。

 計算すれば、300年は操られてたって事になるが?

 特に白い虎の被害の話は聞かなかった。


「あまり被害が出たという話は聞きませんでしたね」

「そこは我にもよく分からなんだ、意識が乗っ取られておるのに気付いた時には既にこの辺におったしの。どうやってここまで来たのか、なんの為にこの辺にいるのか一切分からなんだ」


 確かに目的が不明確すぎる・・・。

 ユキマルの軌跡については今後も追ったほうが良いかもしれないな。


「でだ、先程の話だが奴は何処かに消えてしまった」


 外来種の事だろう。確かにあれにとどめを刺すには聖剣の力ないしは、同等の神の加護を受けた武具が必要だ。

 俺の魔力で作った程度の武器では消滅させられない筈だった。


「また、襲いかかって来るでしょうか?」


 ユキマルの身体を焼いた時点で何処かに隠れてしまったのだ。

 よくよく考えれば周囲にいる可能性は高い。

 周囲を警戒していたがユキマルが、


「いや。奴ならば既にこの場から離れておる」

「何故そんな事が?」

「伊達に300年も取り憑かれて居らんよ」


 そこは伊達である必要があるのかな?

 フンフンと鼻息を荒くするユキマルを無表情で見ていた。


「では、残る二神は地底に?」


 ユキマルの言葉に反応したが、首は横に振られ。


「今は分からん・・・」


 と、だけ返ってきた。

 なるほど。自分も(不本意ながら)移動したのだから神獣もそこに居るとは限らないか・・・。


「そこで先程の話に戻るのだが・・・」


 ユキマルはバツが悪そうに言う。


 本当のお願い事はここからだったか・・・

 と、言っても警戒はしていない。


 どの道ソフィーと契約してもらい鏡の記憶を取り戻して貰う必要がある。

 契約した四神獣に封印されている鏡の記憶は聖剣の情報や【外来種】の情報を持っている。

 それに、当時使っていた力も開放されるようでソフィーは記憶が戻り一時的に過去の自分の力を引き出せるようになった。

(ミサキさんの仮ボディを捕ってきたのがそうだ。)

 ソフィーは【ブースト】と呼んでいるが、彼女は使いたがらない。

 まだ筋肉量が足りず、なんでも使った後は死にそうになるくらいキツイのだそうだ。


 ずっとバツが悪そうなユキマルに声を掛けた。


「何を手伝えばいいのでしょうか?」


 俺の言葉にパァっと明るい表情を見せるユキマル。


「我の願いを聞き入れてくれるのか?」

「えぇ。鏡の記憶が・・・辛い記憶はいりませんが戦いの記憶は今後必要です。まだ、奴等が本格的に活動していない今だからこそ集めれるだけ集めておきたいのです」

「わかった・・・。我が欲するは」


 レシピを聞いて思った事は、とんでもない物だった。

 霊草

 スライムの涙

 炎の魔核

 清めの水

 民衆の嘆き・・・。


 ズラッと並んだだけですごい名前ばかりだ。

 あっさりと手に入りそうな名前は清めの水位だろう。


 後は見当も付かない。

 大体、民衆の嘆きって何だよ・・・。

 ため息でもつかせるのか。


「分かった。【エルシオ】を造りたいんだね」


 セティがポンと手を付いて答える。

 その答えにユキマルが頷いた。


「え? 何ですかその【エルシオ】って」


 俺はその物体の事をすかさず聞いた。


「霊薬ですよ。」


 アクアが答えた。


 霊薬ってーとあれかい。有名所だとエリクなんとかさん、っていう回復薬の事かな。


「霊薬? 体力とか魔力とかが一瞬で回復するあれですか?」

「ふふ。イッセイ、霊薬なんか人間に投与できるわけ無い。魔力過多で魔石になっちゃう」


 俺の質問にマーリーンが答えた。


「え"? そうなんですか」

「そうですね。主に精霊が人間の世界で使う物ですね。使いどころと言えば汚染された樹木や川などを洗い清める為に使われます」


 カズハ言うと他のみんなが頷いた。

 ・・・何、その何とかハ○ターみたいな使い方。


「そうだね。けがれに使うことが多いよね。精霊達だって手が荒れないように手袋して扱うしね」


 セティが相槌とばかりに使用方法を話してくれた。

 ますます、○イターっぽい。


「聖水としてなら使えるかも」

「でも、その前に人前に出る代物かどうか」


「「「あっ」」」


 その後も喋っていた皆がなにかに気付いたようで、皆、焦っている。


「人前に出るかどうかって?」


 霊薬と言われるだけあってそう簡単には手に入らないと言う事かもしれない。


「精霊界にある錬成釜を使わないと作れないかも・・・」

「「「だよねー」」」


 うちの子皆が何だか汚物を思い出したような顔をしていた。

 俺はユキマルにそっと耳打ちする。


「・・・霊薬は難しいみたいですよ」

「そうか・・・それでは仕方がない。他の方法を考えるしかあるまいな・・・」


 ユキマルも事情を察してか諦めた顔をしていた。


「因みにそれがあると何かあるのですか?」

「あぁ。霊力を回復できるのだ」


 なるほど。人には毒でも上位の生物には薬か。


 皆がまだあーだこーだと話をしている事に聞き耳を立てるとどうやら精霊界にある錬成ガマを使わないと霊薬が精製出来ないようだ。

 今の所、精霊界に行く方法も見つからないし、行けても作れないならしょうが無いので、現存する霊薬を探したほうが早そうだった。


「このクエストが終わったらミサキさんにも聞いてみましょうか」

「面目ない・・・」


 落ち込まれるとこっちも困るので早々にミサキさんの所に行こう。


 でも、その前に皆に謝らなきゃ。

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