105話 本当に虎の神獣ですか?
「ギョオオオオオオオオオオオ」
バチバチと音を立てて雷が神獣を包み込むとその体は炭化していった。
「ユキ・・マル・・・」
ソフィーはその場にへたれこんだ。
槍を突き刺しておいて何んだが俺もいたたまれない。
と言うか大丈夫とか言ってなかったか?
・・・今は俺もソフィーに掛ける言葉がない。
肩に手を置こうとして止める。
そのかわり握った拳にやけに力が入る。
彼女の仲間を殺した俺にそんな事をする権利は無い・・な。
「おいおい。我を勝手に殺すな」
声がしたのは炭の中からだ。ソフィーとほぼ同時に頭を上げて灰を見た。
が、灰の山が出来ているだけで何処にも見当たらない。
「ユキマル・・・?」
ソフィーが悲しそうな声で名前を呼んだ。
--モゾモゾ・・・。
山積みの灰がワサワサと動き出す。
うわっ、コイツ動きましたよ。
って、お前かい!!
灰の中から出てきたのはソフィーが呼んだ『ユキマル』と言う虎の神獣だ。
だが、何だか・・・・
「・・・随分小さいね?」
カブった灰をプルプルと振り払っている
尻尾をピコピコと高速で左右に振ってソフィーに近づいていく。
「むははは。姫よ随分と可愛くなったな」
いや。完全にアンタのほうが喜んでるよな!!
飛びついて抱っこをねだっている姿を見ながら俺は危うく口にする所だった。
ソフィーに抱っこしてもらいご満悦の神獣・・・?
「ユ、ユキマル。無事だったんだね」
「むははは。我は神獣ぞ。ちとやばかったが、あれならばまだ大丈夫だ。まぁ、どうやら肉体の複製はちと時間がかかるやもしれんな」
ソフィーに抱き上げられる神獣からは、先程までの殺意に満ちた意識は感じられない。と言うか完全に飼い主とそのペットみたいな感じだ。
「ふむ。ちと気になる事があるのだが? 少し時間をくれんか?」
「えっ、うん良いけど?」
「何。取って食うわけではない。大事な話があるだけだ」
「う、うん」
ソフィーが俺を見る。
まぁ、安易に俺が邪魔って話だろうから。行ってもらったほうが良いだろう。
「ゆっくりしてくると良いよ。でも、その前にこの結界は解いてくれるかい」
「承知した」
俺のお願いをすんなりと聞いてくれた。
結界が外れるとすぐにエリーとベネが近寄ってきた。
「何かあった?」
「えぇ・・・」
ベネが心配そうに話しかけてくる。
一応は事の顛末位は共有しよう。
「2人ともちょっと良いですか?」
・・・カクカクシカジカ。
これで大体の事は伝わったと思う。
エリーとベネが直ぐに反応を返してきた。
「ソフィーは、だ、大丈夫だったの?」
「無事・・・なんですかね? 今はピンピンしてますが・・・」
元気としか言えないよな・・・。俺もしっかり確認出来てないし。
俺の話を聞いてベネはあまり納得してなかった。
エリーは、
「えぇー。何よそれ。私も戦いたかったー」
「・・・エリー。貴女、随分残念な思考になってるわ」
「そぉ?」
ベネにツッコまれても気にしていない感じだった。
ま、どう思うかは人それぞれだけど・・・。
エリーはちょっとプロメテが強く入っているかな・・・。今後の
そういう意味では無いのだが、純粋にソフィーを心配してくれるベネがとても良い子に見える。
ベネの言うとおり結構致命傷を追ったはずのソフィーがピンピンしてる事には些か疑問が残る、本当に大丈夫なのか?
「うええええええええ!!」
ソフィーの声が聞こえた。
既にエリーはソフィーのもとへと走っている。
俺はベネに合図するとエリーの後を追った。
・・・
エリーを追ってソフィーの元へと近づくとソフィーは地面にへたれこんでいた。
「ソフィー。何があった?」
エリーはソフィーの肩を掴み抱き寄せていた。
何かショックな出来事でもあったのだろうか?
そして、居るはずのものが居ないのに気付く。
そう、ソフィーの神獣の気配がない。
ベネに合図を送るとベネはうなずきソフィーとエリーの元へと行ってくれた。
俺は周囲に警戒する。
「えええええ。何これー」
ベネの声が聞こえてきた。
マズイそっちだっ・・・・た?
ベネの肩からこちらを見ている小さな生き物と目があった。
「みゃう」
あっ、これアカンやつだ。買って帰っちゃうやつだ。
ベネに抱かれていたのは虎の赤ん坊だった。とってもかわいい。
って、こいつさっきの神獣だよな? なんで喋んないんだ?
「みゃう。みゃうみゃみゃう」
何か言いたげだが全然何が言いたいのか分からない。
それに、かわいいものに夢中の女の子には何も通じないもんだ。
なにせ彼女の神獣サンが嫉妬してベネの頭をつついているが、ベネは一切気づいてない。
「や~ん。つれて帰りたい~い」
ベネが、虎の子を抱きながらくるくると回っている。
その位で止めとけ尻尾が小刻みにぷるぷる動いてるのは怖がっている証拠だぞ。
ベネに視線を送ったが彼女は全く気付いていなかった。
虎の神獣・・・。確かユキマルとか言ったか?
ユキマルを見ると、ベネがくるくる回りすぎて目を回している様だった。
かわいそうに・・・。
それでも時折俺の方を向いて鳴いたり、手を出したりして何かを伝えていた。
差し出した手の方向にはソフィーが泣いていた。
何とも珍しい事にエリーがソフィーを励ましていた。
明日はきっと大量の隕石か沢山のモンスターが降ってくるかもしれない。用心しておかねば。
「イッセイ。何か文句ある?」
「いえ。何も無いです」
コイツ。ニ◯ータイプか?
「・・・いや。全部声に出てたから」
ベネが俺を残念そうな視線で見つめてくる。
また、俺の口が勝手に動いていたというのか!?
くそっ、俺の意志を無視して喋るなよ。
恐る恐る近づいていくとソフィーとエリー2人の話声が聞こえる。
「ふぇぇぇん。・・・ヒック。ヒック。」
「大丈夫。大丈夫だよ」
「うぇぇぇぇん」
・・・ソフィーが泣いていて、エリーが慰めている。
やっぱり、見慣れない。
いや、普段からライバル視している2人だけにこういう時は仲がいいのかも。
昔見たスポ根アニメでもこういうシーンがあったのを思い出した。
「エリー。駄目じゃないですか相手はお姫様なんですよ。泣かせたなんて知られたら貴女この国から追い出されますよ」
「ぶっ飛ばすわよ。こんな時に冗談言うなんて最低だよ」
「サーセン」
エリーに真面目に怒られた。
何でだろう。すっごいショックだ。
「何だかその顔が凄くムカッと来たけど、まぁ良いわ。あんたに限ってはないと思うけど念の為に言っておくわ。これからソフィー話を、決して。怒らないで聞いてあげて。絶対に怒らないでよ! 怒ったら後で私がぶっ叩いてやる」
「分かりましたー(棒)」
何だか知らないが抑揚のない生返事しか出来なかった。
俺に宣言したエリーはテンションが下がらなかったのか、プンスカしながらベネの方に歩いていった。
なんでかはまだ知らないけど、俺遠回しに怒られた?
事情が飲み込めないのでエリーを見守っているとユキマルにくっつかれて面倒臭そうにしているエリーが居た。
ユキマル。一回そいつを噛ってやれ!!
--ゴォ!!
あっぶね。エリーのやつ風魔法を撃ってきやがった。
エリーがこっちを見ながら、シッシッと手を払ってきた。
わかったわかった。
エリーのジェスチャーに頷いて地面に腰掛ける。
座ったまま泣いているソフィーが嗚咽を漏らしていた。
「ソフィー大丈夫?」
「うぇぇ・・ゴホ、ゴホ。うぇぇぇぇ」
ソフィーは何かを握り締めながらずっと泣いていたのだが、俺が声を掛けたら更に泣き出した。
えぇぇぇぇぇぇぇ・・・・。更に悪化したんじゃないか。
エリーから殺気が俺に突き刺さる。
俺はそれにいち早く反応し、身振り手振りを使って全力で拒否する。
「ソフィー。大丈夫だから。何の問題もないから」
俺はゆっくりとソフィーの背中をさする。出来るだけ優しく、落ち着かせる様に。
次第に落ち着きを取り戻したソフィーは、泣きながらではあるが掌を開いて中を見せてくれた。
開いた掌の中には割れて粉々になった宝石の様なものがあった。
うん。何だこれ?
王家の秘宝か何かの残骸か? 全く分からん。
「大切にしてたもの、壊れちゃった。ごめんなさい。うえええええん」
また、大号泣するソフィー。
俺に謝る意味が全く分からない・・・?
・・・いや。見覚えがあるな。
「見せてもらってもいいかな」
顔を俯かせながらも頷くソフィー。
掌に乗っている破片を断ってから1つ借りた。
掴んでで持ってみると懐かしい気持ちがこみ上げてきた。
「あぁ・・・なるほど」
「・・・ごめんなさい」
「・・・いや。大事に取っておいてくれたんだ」
ソフィーが俺に謝ってきた理由が分かった。
これは俺が創ったものだからだ。
幼い頃に王家に頼まれて作ったネックレスだ。
1回だけ致命傷を負ったときにその傷を肩代わりしてくれる効果がある。
確かそんな効果を付けた記憶がある。
確かこれを作ったのはソフィーが女王陛下とお忍びでシェルバルト領に来ていた時のことだったなぁ。
あの時、ソフィー用にブローチを加工したんだっけ・・・。
とても淡い記憶が甦る。
そして、暴走したプロメテとバッカスによってアーティファクトを作成してしまったと言う黒歴史と共に・・・。
その後、俺の噂を耳にした王家の人(お忍びの女王陛下)から娘の誕生日プレゼントにネックレスの加工を頼まれたのだ。
その時出来たものを父様に見せたら、『アーティファクトがホイホイ出来るからイッセイは金輪際、錬金しちゃ駄目。』って言われたんだっけ。懐かしい。
で、これをアクセルさん経由で城に届けて貰ったんだった。
今思えばとてもしみじみとした話だ。
それに、ソフィーの命を守ってくれたのならばそれはそれで創ったかいがあるというものだ。
ソフィーを抱きしめる。
「はりゃ!? い、いっせいくふん?」
「「!!?」」
ソフィーが変な声を出していた。
ちょっと離れた所からこっちを凝視する2人の気配と共に。
「よかった。ソフィーの命を救うことが出来て」
「ちょ。ちょっ・・・はにゃ」
ちょっと強くソフィーを抱きしめる。
本当に良かった。あの時の一撃は確実にソフィーの命を奪うものだったのだ。
逆にこのペンダントを付けてくれていなかったら・・・・。そんな事を考えると肝が冷える。
そんな事を考えれば考える程、俺はソフィーを強く抱きしめていた。
「ちょっと、見せつけてくれるじゃない」
「ソフィー。昨日の話は何処へ行ったのかな?」
「あばばばばばばばば・・・・」
俺がソフィーを抱きしめていたらいつの間にかエリーとベネが近くに来ていたようだ。
そして、何故か知らないがソフィーに対して怒っているらしい。
「そんな、2人とも折角ソフィーが助かったのにそんな態度はヒドイんじゃないんですか?」
「うっ、それは判るわよ。命に別状がないのは嬉しいことだし、命の次に大事にしていた宝物が壊れたって事には同情しているわよ。でも・・・ね」
「そう、何ていうか・・・」
エリーとベネは拗ねたような、悲しそうな顔をすると急にシュンとした。
あれれ? そんなに強く怒ったつもりは無いんだけどなぁ・・・。
「「ソフィーばっかりずるいのよ!!」」
「は?」
2人の発言に俺は言葉を失った。
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