103話 回復魔法の効果ですか?
--ガキッ。ガキッ。
襲いかかって来たモンスターが俺の急所(首や顔)を狙ってくる。
俺はなんとか手に持っていた槍を盾に噛み付いてくるモンスターの攻撃を
しかし、興奮した獣っていうのは厄介だ。俺が槍を突き出しているにもかかわらず必死に噛み付いてこようとする。
俺はのしかかって来るモンスターを払いのけようと必死だった。
「こなくそ!!」
手に持った槍を押し出し距離を取ろうとする。
しかし、モンスターは攻撃を緩めること無く、寧ろ緩急を付けて噛みつき方に変化を付けてきた。
棒を噛み付いて引っ張ったり頭を振って棒を取り上げようとしてくる。
更には、引っ掻いたりもしてくるので、爪が俺の手や顔を切る。
傷口から流れる液体の感覚と熱を帯びた。
「イッセイ!!」
エリーがモンスターに斬りかかると、モンスターはそれを察知していたのかエリーの攻撃をアッサリとかわして俺達と距離を取った。
「大丈夫!?」
「助かりました。」
駆け寄ってきたエリーが俺の前に立ちモンスターと対峙してくれた。
体勢を整えた俺は槍を杖代わりに立ち上がる。
「取り敢えず傷の回復を。」
「助かる。」
「大地を駆ける全能なる風たちよ。傷つきし子羊をその優しくつつまん。」
エリーが詠唱すると俺に風が集まってくる。
その風が手や頬に付いた傷を癒やしてくれるのだが・・・。
かゆーーーい。
何度も言うようだがこの世界に速攻での回復魔法は存在しない。
自然治癒の速度を上げる魔法しか無いのだ。
体は修復時、とある細胞が傷口にくっつき新たな肉などになるのだが、その細胞が神経に作用すると痒みが出るのだとか。等とうんちくを垂れればこのかゆみから助かると思ったが。
全身の内側をくすぐられている感覚だ。
外から掻いても絶対に痒みは取れないのに・・・。
でも、何かせざるをえない。
「イッセイ。大人しくしてて。気が散る!!」
「そんな事、言ったって・・・。」
かゆみに耐えることで少し冷静になれた。さっきまでは必死だったため確認出来なかったモンスターを見ると、目が赤く光り口からよだれを滴らせた白い虎が俺とエリーを威嚇していた。
「フレイム!!」
--ゴゥ。
追いついてきたベネが魔法を放った。炎の魔法はモンスターの近くに着弾し地面を焼いた。当然モンスターは魔法を軽く避けた。
「サン!!」
「ピュルルルルル。」
「サン。あいつの周りを火で焼いて!!」
「ピュイ。」
--ゴーーーー。
ベネが指示したことでサンが白い虎のモンスターの周りを飛んだ。
サンが飛んだ後、地面は炎が包む。
「フレイム!!」
--ボボッ。
サンがモンスターの周りを焼くと同時にベネが魔法を放つ。
左右逃げ場の無くなった所で上からの追い打ち。
なんともえげつな・・・見事なコンビネーションだ。
「ゴアアアアアア・・・。」
ベネの魔法が当たったモンスターは火だるまになった。
断末魔の様な遠吠えが聞こえる。
炎が強すぎてどうなったかは分からないが黒い影が見えるからまだそこに居るんだと思う。
「どうです。倒しました?」
俺はエリーとベネに聞いてみたが、2人の警戒は解かれていなかった。
火だるまに目をやると火だるまがモゾモゾ動いているのが分かった。
確かにまだ倒せていない。
「来る!!」
エリーの声に合わせて火だるまがベネの方へと移動した。
「ガアアアアアアアアアアア!!」
火だるまがベネに飛びついた。
「ピュルルル!!」
ピュイっと飛んできたサンがモンスターからベネを守る。
サンの体当たりがモンスターに当たり互いに跳ね返った。
「サン!!」
「・・・ぴゅるるる。」
だが、相手は手練。サンでは少々力不足だったようだ。
抱き上げたベネの腕の中で気を失ってしまった。
だが、ナイスだ。
モンスターが回転して地面に着地し、再度ベネを狙ったがサンが稼いでくれた時間のお蔭で俺が追撃出来る位回復(痒みが取れた。)した。
「プロメテ!! バレット!!」
火の玉を生成し直ぐにモンスターへと放つ。
「ギャワ!!」
ベネに意識が集中していたのだろう。
俺のバレットが着弾し戦意を削がれたモンスターは俺達と一旦距離と取ろうとして、昨日エリーとベネが入った山の方へと逃げていった。
一応、撃退したのか。
赤く光った敵の表示が遠ざかるのを確認してから戦闘態勢を解除する。
もちろん警戒は解かないが、
「一応、撃退出来た・・のかな?」
エリーが言った。
サンを抱きしめながらベネがソフィーから回復魔法を掛けてもらっていた。
「・・また、来そうだけどね。その時はサンの敵を取らせてね。」
もっともな事を言った。そして、かなりお怒りだった。
その後、皆と話した結果。一旦、馬車に戻る事にする。
置いてきた馬達が襲われる事も考えてだった。
・・・
馬車まで戻ったが、馬達は呑気に草を貪っていた。
--ゲェ~プ。
お帰りの挨拶も含めてだ。
そんな挨拶いらねぇ。
でもまぁ、俺たちが出ていった時と何も変わっていなかったので胸を撫で下ろす。
「そう言えば皆はモンスターを見たんだよね?」
ソフィーが言った。それに俺とエリーが答える。
「うん。白くて大きい虎みたいなモンスターでしょ?」
「そうそう。目が赤く爛々としてたよね。イッセイを殺そうとしてた。」
先程の場面を思い出しても何とも良く生きられたものだ。
今までのモンスターとは比べ物にならない位の力だった。
「そうなんだ・・・。」
「??? ソフィー何か引っかかるの?」
ソフィーの返事にベネが質問を返していた。
どうやら何か違和感を覚えたようだ。
「うーん。・・・いや勘違いだと思う。それより、ベネが言ったもう一回来るって言うのは何かあったの?」
「ううん。特には無いよ。昔戦って逃した獣系のモンスターに夜襲撃されたことがあっただけ。」
「そういう事。」
俺はベネの言葉に準備が必要だと思った。
「それならキャンプついでに簡単な罠も必要かもね。」
俺の言葉に皆が頷いていた。
既に国に戻る事と公爵家に助けを求めるという選択肢は無くなっていた。
何故なら俺達がここまで苦戦しているのに兵士を呼んだ所で無駄に死者を増やすだけだと思ったからだ。
最初から1000人を超す兵力を寄越してもらい数日警戒すればモンスターは姿を消すかもしれない。
だが、軍の維持費を考えて現実的じゃないし、最初からそんなに兵を派遣してくれるわけもない。
せいぜい10人かそこらだろう。
そんな程度の兵力じゃ、無駄に死体が増えるだけだ。
そんな俺の考えに皆も納得してくれたみたいで、
「「「そうだね。(・・・。)」」」
ソフィー以外はスッキリした返事が帰ってきた。
??? 何かあるのだろうか。後で時間が出来たら聞いてみよう。
・・・
夜、見張りの番をソフィーと一緒になるようにした。
昼間の言動が気になったからだ。
野営時は特に話すことが無い場合はどちらか一方を仮眠させておく事は多い。
火の近くに居るのは一緒なのだが、まぁ、実際の火の守りは1人で良いって事だ。
何か問題が起こればもう1人を起こして警戒し、更に問題があれば残り2人を起こすって感じだ。
だが、今回の番は俺もソフィーも眠りにつかない。
「ソフィー。昼間のモンスターについて何か知っているんじゃないの?」
「・・・・。」
俺の質問に沈黙が返ってきた。
そうか・・・何か知っているのか。
「言えないなら良いんだけど。困ってるなら力になれるかな?」
「・・・・。」
また、沈黙が返ってきた。
ふむ。何か知っているけど埒があかないな・・。
俺とソフィーが向き合ったまま無言の時間が流れる。
ソフィーはこのままだんまりかな・・・。無理に聞いてもしょうが無いし諦めるか。
そう思っていたのだが、ソフィーは静かに喋りだす。
「私に契約する神獣がいたって話したの覚えてる?」
俺は一瞬考えたが、直ぐに思い出した。
「あぁ、ミサキさんを含む4体の神獣との契約だよね。確か前の世界じゃ4聖獣と呼ばれていることがあった何処かの国の守護獣と同じだった。」
「そう。私が名付けたの。ミサキの朱雀、その他に玄武、青龍、白虎が居たわ・・・。私と契約してくれていた神獣達だった。」
寂しそうな顔をして話すソフィー。そう言えば襲ってきたのも白い虎みたいだったな。
ん? 私が名付けた?
「私が名付けたってどういう事?」
「神獣っていうのは召喚した本人が強いイメージしたものに由来するの。」
「強いイメージって、形とか?」
「そう。変な話大仏とか龍とかイメージすれば神獣はイメージ通りに形創るの。」
ソフィーが言ったことは結構とてつもないような事だと思う。
神獣を降ろしたって事は即ち神を創造したって事じゃないの?
馬車で寝ているベネの方を見た。
俺達の仲間内で神獣を呼べるのはソフィーとベネだけだ。
「じゃあ、さっきのモンスターがその一匹だったと?」
俺が聞くとソフィーは顔を左右に振った。
「分からない。けど、懐かしい気配はしてた・・と思う。」
なるほど。そこが分からないから曖昧な返答だったのか。
「ッ!?」
いつの間に詰められた?
昼間に感じた殺気がまた俺達に当てられる。
しかも、俺達2人に的を絞ったのだろう。
これだけ強い気配を受けても馬車の2人は反応が無かった。
ーーガサ、ガサッ。
草の根をかき分ける音が聞こえたと思ったら暗い空間に2つの赤い光が爛々と輝いていた。
「ギョオオオオオオオオワ!!」
皮膚が逆立つほどに大きな声が地響きを興す。
こんな声がすれば流石にエリーとベネも起きてくる。と思ったが、
「結界を張られたみたい・・・。」
「まじか・・・。」
「ギョオオオオオオオオワ!!」
威嚇の咆哮を上げつつ近づいてきたモンスター。
昼間の傷が言えていないのか体の所々が黒く焦げた虎が姿を現した。
「やっぱり・・・ユキマル。」
ソフィーが神獣の名前を呟く。
やっぱり、鏡の契約した神獣だったようだ。
ただ、ソフィーの表情と虎の神獣からも分かる通り話が通じる感じはない。
「ギョオオオオオオオオワ!!」
返ってきたのは威嚇の咆哮だ。
咆哮の影響で空気がビリビリと痺れる。
「そんな、ユキマル。私だよ魂の色で分からない?」
「ギョオオオオオオオオワ!!」
「きゃ!!」
近寄るソフィーに神獣は爪を振り下ろす。
「ソフィー!! もう下がれ。」
俺はソフィーと神獣の間に入ると造った槍を使って振り払う。
「ギョオオオオオオオオワ!!」
ソフィーから神獣を引き剥がす。
バックステップで俺と距離を取る神獣は体勢を低くして俺目掛けて殺気を放ってくる。
「ソフィー下がってろ。」
「うん。」
俺と神獣の2回戦が始まった。
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