91話 メイヤード流格闘術。ですか?
修練場には会場の準備を整えたエリーとベネったが2人で柔軟を行っていた。
俺とソフィーが到着するとアレス様御一行が近寄ってきて俺に質問する。
「あっ、その前にソフィーありがとう。柔軟に行ってもいいよ。」
「分かった。また後で。じゃあ、皆もごゆっくり。」
皆に挨拶したソフィーがエリーとベネッタのいる場所へかけていき柔軟の輪に加わる。
「何だ。あの踊りは?」
アメコミ体型アレク君が柔軟についての質問をしてきた。あれも俺が考案したものだ。まぁ、説明するまでも無いと思うが概要だけ。
柔軟は怪我の故障率低下、直ぐに動ける様になる、能力向上等の効果があり良い事尽くめだ。本来ならやったほうがいい事ではあるのだが。
ただ、この世界では『柔軟』と言う概念は薄い。
何故なら、モンスター相手に柔軟している暇は無いし、1対1なんて状況は決闘以外は普段ない。兵士の訓練はあるだろうが、それだって行軍や陣形の訓練がメインだ。
また、回復促進する魔法や薬がある為、とりあえず繋がっていれば問題ないのが一般的だ。
だが、俺たちの相手は人やモンスターとは一味違う。いつ来るか分からない
長期的に見れば、軽い柔軟でより高い効果が得られるのだ。
「あれは柔軟と言って体を柔らかくする運動です。あれをすると怪我率がグッと下がります。」
と、丁度エリーとベネったが股割りをやっていた。180°の開脚に見ている一同が悲鳴を上げた。
「い、痛くないのか?」
「えぇ。慣れれば何の問題もありません。」
「だが、何というかグロイな。」
ただの開脚で何を驚いているのか? 本格的な訓練が始まればこんなの遊びに見えるぞ?
一通り体を温めたエリーとベネッタ。
立ち上がると型を取り始める。メイヤード流武刀術だ。
本来剣を持って打撃格闘を混ぜ込むスタイルなのだが、今日は素手にしている。
理由は、『誰であっても門外不出』がメイヤード様の口癖だからだ。基本的に門下生以外は正確な型を見せられない。
と言っても無手でも魔力を纏わせて戦うのはメイヤード流の秘伝の一つだったりするのだ。
徒手空拳にてゆっくりと型を繰り返す2人。互いの得意な型が終わると時間を止める。
「・・・長いな。」
アレス様が痺れを切らしている。
だが、1対多の場面でも無い限りある程度実力のある者同士はこの様な間合いを取る事はある。俺は、それを伝えるべく・・・。
「いえこれからです。瞬きしてる暇もありませんよ。」
と、だけ口にした。視線は2人を外さない。
2人の間から魔力が膨れ上がる。動いた!!
魔力を纏って対峙する2人。ベネッタは炎をエリーは風を纏っている。
−−シュ。
−−シュシュ・・・シャッ
−−シュ・・・ガガッ。ガキッ・・・。
お互いの急所を狙った手刀や蹴りの嵐。
風切り音や炎の軌道が残像として残っており2人の動きが何となく形になっている。
俺には何の問題もなく2人が見えているが、見学している皆さんは残像のお蔭で何となく動きが分かった様だが凄さに呆けている。
実際2人は相当早い。
速度で言うなら100キロ近いのではないだろうか、モチロン秒速だ。
瞬間、瞬間を100キロで動いている。
普通の人間なら体内の臓器が揺さぶられ下手したら死んでしまうだろうが、魔力のあるこの世界では体に纏えばそういった重力も影響が減らせたりするのだ。
エリーが手刀でベネッタの目元を狙う。
右・左・右・右・・・。
エリーの腕に巻き付いた風がベネッタの視界を細くする。
スウェーでなんとかエリーの攻撃をかわしているが風がきついのだろう。
攻め難そうにしている。
「邪魔よ!!」
--ブワァ。
ベネッタが風を振り払う様に炎を上空に打ち込む。
火柱が上がり風は全てかき消された。
見ている皆が突然上がった火柱に驚きの反応を示した。
だが、残念。これで終わりだ。
エリーがベネッタの首元に手刀を当てている。
確実に成長してる2人を見て手に汗握った。
2人共すごい成長だ。
「ベネ。なかなかやるじゃない。昨日より全然動きが良いじゃない。」
「ハァ。ハァ。この体力バカ。1本目から飛ばしすぎよ。こっちはもうすぐ倒れそう・・・。」
「まだ、もう1本目よ。」
「くぅぅ。1本!!」
「よし。おいで。」
ベネッタはエリーに向かってかけていく。構えるエリー。
メイヤード様の教えは「倒れるまでやる」だ。
やらないと言う選択肢は無いので、動けるなら戦わなければいけない。
見学している皆さんは絶句している。
「もらったーーーー!!」
エリーの頭上から現れたのはソフィーだった。
セティを使ったんだろうが、なかなかの跳躍力だ。
「あまい。」
エリーは精霊を出し風を発生させソフィーを牽制。
突進してきたベネッタがエリーの喉笛に掌底を繰り出す。
エリーは仰け反り掌底をかわす。
そこに距離を詰めていたソフィーが水面蹴りをする。
エリーはそのままバク転してかわした。
「「うっ!!」」
流石はエリー。ソフィーを足で潰し、ベネッタの首筋に手刀を当てていた。
ここまでで良いだろう。
--パンパン。
俺が手を叩くと皆が動きを止める。
ソフィーとベネッタの消耗が激しい。肩で息をしている。
ふむふむ。まだまだだな。戦いの分析をしつつ課題も見つけておく。
ベネッタはなかなか考えているが、魔力の使い方が下手だ。
エリーももう少し細かな動きを増やしてフェイントをかけたほうがいい。
ソフィーは奇襲のチャンスに声を出すとは罰ゲームだな。
さて、皆さんは楽しめただろうか?
皆の方を見ると口を開けて放心していた。
はて、そんなに激しい内容では無かったはずだが・・・。
「な、何だ今の動きは?」
「全く見えなかった。」
「なんか知らないけどカッケー。」
「す、凄い。」
「武人として手合わせしてもらおうかと思ったが、これでは相手にならない。俺では力不足だ・・・・。」
アメコミ体型のアレク君が膝を付いている。
何故そこまでオーバーなリアクションを取るのだろうか。
うん。放おっておこう。
「「「どうだった?」」」
その後も数本の組手を消化した3人が駆け寄って来る。
俺が3人の良い点と悪い点を指摘していく。
ベネッタ「ぐぬぬ。火力メインなんだからしょうがないでしょ・・・・ちょっと調整してくる。」
エリー「コンパクトか、コンパクトね。えっ!! あと一歩って結構な手数よ。」
ソフィー「うっ。イッセイ君あれは気合を・・・・はい。走って来ます。」
3人がトボトボと散って自主トレーニングに励む。
「と、まぁ。こんな感じですね。」
俺が皆の方を向き直ると皆は、
「いっつもこんな感じなのか?」
「見えなかった・・・。」
「カッケー。」
「凄すぎる。」
驚きの声を挙げていた。
アレス様だけは流石だ。ちゃんと状況が見えている。
「こんな状態で敵との差はどんな感じ何だ?」
相手がしっかりと見えた上で話をしてくれている。しかも真剣な表情でだ。
だから正直に答えることにする。
「僕が戦った時の参考ですが、今なら3人で同時にかかっていって3人とも数分で死亡でしょう。」
「そんなにか!?」
俺の答えにアレス様が目をむいていた。
仮にダメージを与えられたとしても3人の実力ではまだあしらわれるレベルだ。
俺の話を聞いていた他のメンバーもショックを隠せなかった様だ。まぁ、無理も無いだろう7歳そこらに命の話をした所で現実味は無いし、ショックなだけだ。
死すら理解出来るか曖昧でもある。
「ザックはそんな奴等に連れて行かれたのか・・・」
グレフ君は察しが良いのか直ぐに気付いたようだ。
他の面々も同じ様な表情をしていた。
この辺が潮時かな。
もういいでしょう。この茶番はお開きにしよう。
「それでは「我々は後方支援しよう。」」
はい? 引き下がるって話じゃないんですか?
「えぇーっと。ザックさんの情報はちゃんとお届けしますよ?」
「いや。今決めたよ。私は父の跡を継ぐ道に進み君達をサポートする組織を編成する。」
「俺も近衛の軍団で何か出来ないか探ってみる。」
「「俺達もお手伝いします。」」
「私は・・・。」
おっ。彼女達の熱気に当てられた男共が躍起になっている中、ローザリッテ様は冷静に否定しそうだ。
彼女だけでも関わらないほうがいい。
俺は否定し形になるかも分からない組織から手を引く事を期待したが、
「薬師を目指すわ。ここに入省して皆を救う手立てを確立させるわ。」
コケた。
一番まともに見えたローザリッテ様だったが、目が
なにせ目に『本気』って書いてあるからだ。
「いや。皆さんちょっと冷せい「いや。その粋や良し!!」」
カチッっと音がすると強い光が差し込んで来た。
そこには各々のポーズを取る数人のシルエットが映し出されていた。
うわぁ。また変なのが出てきたな・・・。
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