90話 あの日の思い出と立ち上がった勇者達ですか?

「そう。あれは君が復学してきた日だったと思う。」


 友達を思う彼は一言一言思い出すように語り始めた。



 ・・・回想シーン


 −−ドカッ!!


 たまり場にしている教室。

 物置小屋として使われている場所で物が陳列されていた。

 恐ろしく几帳面な人が管理しているのかもしれない。


 今、置かれた机が蹴り倒されたため物は散乱してしまったが・・・

 まぁ、ホコリも被っていたし今は使われていないのだろう。


 そして、荒々しく机を蹴った奴が怒りに任せて口を開いた。


「折角、あのクソ生意気なイッセイ=ル=シェルバルトが何処かに行ってくれて、後はアレス様をお呼びするだけだったんだのに・・・。」


 俺の目の前の男は拳を掌に打ち付け愚痴を溢す。

 コイツは俺と幼馴染だ。彼が子爵の子と、俺が男爵の子と言うことで身分の差はあるが、それ身分の差を超えた友情で結ばれた仲間だ。

 俺とコイツともう一人のやつが生まれた日、生まれた場所が一緒という奇妙な繋がりがある奴等だ。

 名前は、ザブクーロ=レ=ロニーコ 通称:ザック だ。


「おぉー。そいつはカッケー考えだ。いつお呼びするんだ?」


 俺の横でザックに相槌を打っていたのは、ドミニク=ロ=マクガイヤ 通称:ドーム だ。彼は俺と同じ男爵の子で、こいつも同じく同じ日、同じ場所で生まれた。幼馴染だった。

 俺の名前は、グレース=ロ=F=ニッチャー 通称:グレフ と呼ばれていた。


「いや。お断りされた。学園を休学して少し今の暮らしを満喫したいんだそうだ。」


 ザックはガッカリした顔で話をしていた。

 なので俺がフォローする。


「へぇ〜。それならいつもの如く3人でアレス様の所へ行ってお手伝いするか?」


 謹慎を食らっていた間、領地の農業を手伝っていた。

 アレス様は、その時から農業にハマってしまい謹慎が解けたあとも学園を休学して農業開拓を手伝っている。

 学園を辞めて領地経営に乗り出そうという勢いだ。。

 元々、俺達は家の命でアレス様に近付いた面子だ。

 成人し国に関われば手駒がいる。どんな仕事でもこなす。忠実な駒が・・・


 だが、アレス様はその跡取りの椅子を放棄しようとしているのだ。そんな事になれば俺達の今までの数年は完全に無駄になる。実家からすれば完全にハシゴを外された形だ。


 明らかに焦っているザック。家の事情は知っている。

 あまり上手く行っていないようだ。


 押してダメなら引いてみろってな。


 焦る彼のストレスを減らすため。

 そんな程度のつもりで話したのだが、


「グレフ。何を言っている。アレス様が出世しなければ俺達は終わりなんだぞ!! なぁ、ドーム。」

「なんかカッケー事になってるけど、多分そうだ。」


 マジギレされた。


「あいつだ。あいつが帰って来たからだ。あいつが近くにいると俺達は不幸になる。」

「そんなの濡れ衣だろう。」


 実際は、アレス様はシェルバルト家の三男。イッセイに感謝していた。

 やり甲斐があり自分の頑張った分だけ見返りがある。

 時には自然が立ちはだかるが、それも長年の知恵で解決可能、更に発展の余地が凄くある。

 まだ、かじった程度であるがアレス様はそんな世界に生き甲斐を感じていた。

 確かに自分の地位確立やその後を考えてもアレス様が学園に戻ったほうが良いとは思う。

 だが、俺は今のアレス様の方がお仕えする価値があると思ったんだ。


 何となくザックの怒りが子供の駄々の様に聞こえてきて、場が白け始めたそんな時、


 ヤツが現れた。


「その話、僕にも聞かせて貰えませんか?」

「だ、誰だ。」


 突然聞こえてきた子供の声。甘ったるい喋り方なのに妙に声が通っている。無視したくても耳にスッと入ってきて頭の中で渦を巻く。


「僕もその人に怨みを持ってるんです。どうですか? 手を組んで一緒にあいつを倒しませんか?」

「おい、何だお前。イキナリ入ってきて。」


 ゆっくりと姿を現したのは、小さい男の子だった。

 しかも容姿淡麗、中性的な顔立ち、そしてさっきの甘い声だ。俺はイキナリ現れた得体のしれない男の子に怒鳴る。


「あぁ・・・。僕はブラフと申します。僕もあいつには怨みがあるので。」

「おぉー。そうか、君もイッセイ=ル=シェルバルトに怨みがあるのか。」

「お、おい。ザック。」

「何。俺達が手を組めばあいつなど直ぐだすぐ。」


 ブラフと名乗る得体の知れない子に心を開くザク。

 そのブラフは気味が悪い位のいい笑顔でこちらを見ている。

 ここは一回話を切るか・・・


「はぁー、やめだやめ。こんな事誰も望んで無いだろ? もう止めようぜ。」


 俺はそう言って立ち上がろうとしたがザックのやつはブラフとずっと話続けている。

 どの道俺達が居なければ何も出来ないと思っていたので、俺は席を立った。


「やってらんねーな。俺は抜けるぜ。おい。ドーム。お前はどうする?」


 先程から固まっているドームの肩を揺さぶる。


「う、うーん。こんなカッケー盛りもう食えねえ。って、あれグレフ。どうしたの?」


 うせやろ? コイツ今まで寝てたんか!?(白目)


 俺は1人で席を立った。


「うわー。待ってくれグレフ。」



 ・・・・回想終わり。



「・・・と言う感じでザックとはその後話していない。気にはしてたんだがその間もアイツはずっとブラフと言う奴と行動を共にしていたみたいだ。そして、魔導図書館が襲われた前日にザックは姿を消した。頼む。君に怨みを持っていると言うブラフと言うやつについて教えてくれ。」

「頼むよ。ザックは怒りっぽくて直ぐ顔が赤くなるやつだけどカッケー良いやつなんだ。」


 いろいろツッコム所はあるが・・・。

 顔が赤くなったら幾らか早くなるとか色々聞いてみたい。

 だが、今はブラフの事だな。


「話は分かりました。と言っても僕があまりお力になれる事はないと思いますが。」


 グレフとドームの顔に不安そうな色が見える。

 絶望している顔だ。


「誤解を解く意味で先に言いますと、今後、体が動けば協力はしますし、情報の出し惜しみはしません。実際に怨みを待たれてるみたいですが、僕もこの前遭遇したのが初めてです。」

「あいつに会ったのか?」


 グレフ君が食い気味に聞いてきた。

 会ったどころの話ではない。こんな体になったのはヤツのせいだ。


「正直カリを返したいのは僕の方かもです。ただ、僕は奴等の事を知らない。どこに居るのか、何を目的に動いているのか。それすら知らない。唯一知っているのは地下の王国でクーデターを起こした事位です。今はその程度しか知りません。」

「そう・・・か・・・。」

「落ち込むなよグレフ。カッケー方法を考えれば上手くいく。」


 カッケー方法とは一体何なのかこの場にいるドーム以外の全員がそう思っただろう。


 いや、もう一人を除いて。


「うおおおお。ドーム分かるぞ。俺もその意見に賛成だ。イッセイ。俺からも頼む。何か格好いい方法を考えてくれ。」


 考えるの俺かよ・・・。と、言ったってなぁ。

 このメンバーでしかも子供に何が出来るんだろうか。

 今出来る可能性を考えてみる。


 ふっ。・・・何も思いつかん。


 ふと、顔を上げると皆が期待を込めた目でじっと見ていた。


 えっ、今すぐ何か欲しいの?

 無茶ぶりに期待を向けられるってこれ程キツイこと無いよ。


 この何とも言えない空気に包まれ。

 俺は居心地が悪かった。



 −−ダダダダダダダッ


 廊下から走る音が聞こえる。この足音は、帰ってきたかな。


「イッセーイ。聞いて聞いて。」

「こら、エリー病院内は走らないの。」

「ベネだって走ってたじゃん。」

「私走ってないもん。イッセイ君。走ったのはエリーだけよ。」

「待ってよ。二人とも走るの速すぎ・・・ハァ。ハァ。」

「「ソフィーは、遅すぎ。」」


「ベネッタ。お前最近見ないと思ったらここに出入りしてたのか?」

「え? 姫様。何でここに?」

「何だ。そのカッケー格好は?」


 イキナリ現れた学園の美女3人組。

 服装は稽古し易い様に上下スウェットのスーツに袖無しの上着等を着てもらい、下はハーフパンツを履いてもらっている。元の世界に良くいたマラソンスタイルの格好だ。

 この世界に無い発想だったが、これも俺が提供しこの図書館で作ってもらった物のだ。


 動きやすく鍛錬着にはもってこいだ。最悪ひと目についても珍しく思われても怪しまれない。それよりも売れるかもしれないし・・・。


 実際、俺の病室に来ていた皆はその格好と面子を見て鳩が豆鉄砲食らった様に目を丸くしていた。まぁ、格好だけじゃなくメンツにも面を食らっていた様だけど。


「あら。みんな来てたの? って、ローザじゃない。久しぶりね。」


 ポニーテールにしたベネッタが皆に気づいたのか声を掛ける。


「ベネッタちゃん。良くここに来るの? 宮廷魔術師の勉強は良いの?」

「うん。今はメイヤード様に鍛えてもらってるの。宮廷魔術師の方は免除されてる。」

「私が指示したの。今はこっちで鍛えた方が効率が良いもの。」


 続けて声を発したのはソフィーだ。トップでお団子にしている。


「姫様まで・・・?」


 アレス様が驚きの声を挙げていた。


 それをエリーがすかさずフォロー(?)する。

 因みにエリーの髪型は、この前の戦闘でボブカット位までバッサリと切る羽目になった。ブラフの変態小僧がエリーの髪の毛の一部を切って持っていったため整えたのだ。


「今のソフィーは強いわよ。恐らくこの国の兵士が束になっても敵わないわね。ま、私達3人の中じゃ1番下だけど。」

「ちょっと、エリー。その話は聞きづてならないわ。」

「ふふーん。フラッグを一回でも取ってからほざくのね。」

「うぐっ。」

「ソフィーは基礎体力が相当低かったからしかないわ。最近やっと完走出来るようになったし。」

「ベネの意地悪・・・」


 3人がワイのワイのじゃれ合っている。

 どうやら地獄・・・特訓を通じて友情が芽生えたようだ。

 今では3人はすごく仲がいい。


「随分、仲が良いんだな。」


 アレク君が呟いた。


 それもそのはず。

 彼女たちはメイヤード様の言いつけでこの一ヶ月血がにじむどころかそれすら砂塵化する程の地獄と言うか『イジメか』と言いたくなるような特訓をしていた。

 あの婆さん曰く、「どうせお前達は既に規格外だ学園に来る意味ってあるのか?」だってさ。


 いや、あんたが来いって言ったんだろ。


 で、この場所でやるのも「あそこがバレたんなら。こっちでコソコソやるより、そっちで堂々とやるほうが良いだろ。」って言われたらしい。

 俺にも「一から鍛え直してやれ。」とだけ書かれた紙を渡された。


 このメンバーが集まったのもベネッタが一番最初に名乗りを上げた。

 外来種にコケにされたのが悔しかったらしい。

 続けて手を挙げたのが、ソフィーだった。


 最初、ソフィーが参加するって言い出したのはビックリしたけど、実はメイヤード様の門下生だったんだとか。

 更に「もう。皆に守られながら暮らすのは嫌なんです。」と、力強く言われてしまっては断れない。

 なんだかんだで魔力制御は彼女が1番上手い。コツを掴んだ彼女の実力はグングン伸びている。今では1番の成長株だ。


 そして、意外に一番最後に手を挙げたのがエリーだ。

 彼女はエルフ族初の【森の勇者】としての称号を持っていたし、これまで一番修練を積んでいた。なので相当自身もあったのだが、コテンパンに崩された。

 その事が理由でだいぶ塞ぎ込んていた。戦いから離れる可能性もあったのだが、なんとか再度奮起してくれた。


 で、3人には外を走って来てもらった。

 と言ってもただ外を走るだけでは面白くもない。なので俺がやってた障害物マラソン建物乗り越えマラソンをやってもらったのだ。

 王都の中にメイヤード様が毎朝何処かにフラグを仕掛けてくれるので、それを取りに行かせている。


 当然、魔力を使い壁や街を駆け巡る。手の使用は禁止だ。

 まぁ、3Dのビーチフラッグだと思って貰えば簡単だろう。


 で、ピラピラと取ったフラッグを見せつけているエリーが本日の勝者なのだろう。これでエリーは3連勝目だ。


「エリーはズルいよね。精霊を使ってサーチするんだもん。」

「いいじゃない。この子だって私の一部だよ。ベネッタは神獣じゃない。」

「サンはまだ子供よ。そんなに頑張らせたら可愛そうでしょ。」

「二人ともズルい。」

「「ソフィーはイッセイの精霊を借りてるでしょ。」」


 3Dマラソンに組手、魔法修練に素振りもろもろを含めたら1日中修練している事になる。

 あの婆さんは朝と夕方しか来ないのに。


「はぁ。何だかこの3人に全部持っていかれたな。」

「そんな感じですね。」

「イッセイの感心が向こうに向いてしまったな。。」

「この3人カッケー・・・。」

「・・・ズルい。」


 疎外感を匂わせるお見舞いに来てくれた5人。


「じゃあ、3人とも次は魔力制御しながらの組手ですね。」

「魔力制御しながらの組手?」


 アレク君が興味をそそられた様だ。


「折角だから見てもらったら?」


 俺は3人に言う。


「ここで?」


 エリーはおかしな事を言う。

 既に人が多すぎてパンパンの部屋で何をしたいって?


「修練所に決まってるじゃないですか。」

「知ってるもん。」


 べっと舌を出して部屋を出ていくエリー。


 はぁ、まったく。

 まぁ、大分元気は取り戻してくれた様だ。


 エリーを先頭にぞろぞろと皆が部屋を出ていく。

 最後に残ったのは俺とソフィーだった。


「イッセイ様。」


 そして、出てきたのはカズハ。俺の膝の上に乗る。月の精霊で呪いなどに非常に詳しい。

 そして今、彼女は俺の体に起こっている異変の調査をしてくれている。


「よっこいしょ。」


 俺は、ここで作って貰った車椅子に乗って修練場へと向かう。


「後ろ押すね。」

「ありがとう。ソフィー。」


 カズハは俺の体を一生懸命に見てくれていた。


 ソフィーが何故か俺の精霊たちとリンク出来る。


 理由は分かっていないんだけどね。

 だが、ソフィーが居ると俺の精霊達が力を発揮出来る。


 今は、それだけで十分だ。


 俺と魔力の差があるので一度に呼べる人数は少ない。せいぜい1人か2人だ。


 そんな事もあってかソフィーのから中で精霊たちが会いたがって騒いでると教えられると。

 なんかむず痒い。


「ふぅー。」


 カズハが汗を拭う仕草をする。

 苦労しているのが分かる。


「カズハ。ゆっくりでいいよ。」

「そんな。イッセイ様。早くお体を治さなければ・・・」

「いや。大丈夫。そんな気がするんだ。良くは分からないけどね。」


 何でかは知らないが上手くいく。

 そんな気配が俺の中であった。

 このままカズハに見てもらえば良くなる。そんな、気配があった。

 ま、カズハは納得して無かったんだけどね。


「カズハ。ここはイッセイ君を信じましょ。」


 ソフィーがカズハに優しく話しかけていた。

 カズハは一瞬うつむいたが頷いて俺に背中を預けてくる。

 ソフィーも嬉しそうに車椅子を押してくれた。


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