88話 鏡の情報とミサキさんの秘密ですか?
ミサキさんは教えて貰った研究所内にある施設。
はぇー。こんな施設があったのか、流石は研究所。って感じだ。
えっ? 興味無さそうだって? あー。俺って病院が苦手だったからな~。
ちょっとここの雰囲気が似てるせいかもしれない。
と、思う位にここは病院だ。
薬の匂いが薬草の匂いに取って変わっているって以外はほとんど病室と変わらない。
「まぁ。研究所は不夜城だからね。研究スタッフだけじゃ回んないことが多くてね。私生活に関わる色んなスタッフがいるんだよ。当然没頭しすぎてぶっ倒れる研究員も居るからね。こう言う場所がある訳なの。」
「なるほど・・・。」
「・・・だから、施設の破壊なんかより痛いのは優秀なスタッフを失った事だね。」
俺もベットの上で頭を下げる。
俺がもっと早く手を打っていれば・・・
握った拳に力がはいる。
「じゃ、イッセイ。私は行くわね。また、明日来るわ。」
「あ、姉様。ありがとうございます。」
ミサキさんが合図を送ると、姉さまが病室より出ていった。
ミサキさんは姉さまが完全に出てったのを確認すると風の魔法を使い部屋全体に防御壁を張った。
「ふう。これでゆっくり話せるな小さき勇者くん。先程の話はキミがガッカリさせる為じゃないよ、どちらかと言えば私自身に対する戒めみたいなものだ。今後も彼等の研究を引き継ぎ衰退させず向上させつづける事が最高の手向けだからね。その決意表明みたいなものだ。おっと、そう言えばまだ正式に名乗ってなかってね王都研究所所長のミサキ=ワ=オカザキだ。」
驚いたのは研究所の所長の肩書よりその名前。
いかにも【前世】を連想させるその名前に俺は変にテンションが上がった。
しかも【ワ】って倭国の文字りか?
「あの。ミサキ所長はこれが読めたりするのでしょうか?」
その辺にあった紙にサラサラと【ニホン語】を書いた。
「ふむ。どれどれ・・・・。スマン。古語は苦手なんだ。故郷に送れば読める人も居るかもしれないが?」
「あっ、いえ。それなら別にいいです。他に優先したいことがあるので。」
「そうか、それと私の事は今まで通りミサキで良いよ。」
ミサキさんから紙を受け取りながら笑顔を返す。
ちなみに紙に書いた言葉は
「ミサキさんもこの世界に転生ですか?」
これだけ、後は簡単な
俺は質問を変えることにした。
「そう言えば、僕がお聞きする筈だった聖剣の話ってどうなったのでしょう。」
俺がここに来たメインの理由。聖剣の在り処を調べる事。
それを元に鏡の情報を掴むこと。
これで成果が無ければ意味がここへ来た意味が無い。
「あぁ、それの事。何だかこの前乗り込んできた奴もその情報を求めて襲撃してきたみたいだね。」
チッ、やはりか・・・。
舌打ちが出てしまう。
使用者を選ぶ聖剣は【神具】を利用しようとする奴等にとって脅威以外の何物でもない。
早々に聖剣を封印するか、破壊するのが奴ら目標だろう。
確か
「まぁ、奴等今頃大変じゃないかな。」
ミサキさんはすっとぼけた様に話す。
え? 何を悠長に。
俺がそんな顔をしてミサキさんを見るとケケケッと笑うミサキさんは、
「持ち逃げされた資料は君達にお土産で渡すつもりだった過去の伝記とそれにまつわる中間報告書だけだったからね。要はゴミだね。」
なんて事を言い出した。
え? ゴミを渡したの? っていうか俺もゴミを掴まされるところだったの?
「最初から仕組まれてたんだ。君以外の人間に聖剣の事を話すつもりが無かったからね。だって、国の最高機密だよ?」
確かによくよく考えれば、口の軽い子供にベラベラと粗いざらい話す筈がない。
「なるほど。確かに・・・。」
「で、君は聖剣の在り処を聞きたかったのかい?」
「そうです。ここに来れば何かヒントがあると聞いて来ました。」
「なるほど。何処かから情報が漏れてると言うことか・・・セキュリティなんて強化すればするほど、ここにお宝が有るって言ってる様なもんだね。」
「ははは。」
まさかそのハッカー的な存在の正体が神様だとは言えないな・・・
愛想笑いで逃げる。俺の愛想笑いに諦めたミサキさんは肩をすぼめて、
「聖剣の破片はこの国にあるよ。」
と、言った。
「!?」
マジか。まさかの一発で引き当てる事が出来たのだろうか? 胸の鼓動が高まってきた。
「けど、連れていけない。」
え? なんで?
「先程も言ったが国家機密もトップ中のトップ。ぶっちゃると先程の君の助けが無ければこの話もしなかった。」
「では、何故? 適当にあしらわなかったのですか? 何か意図があると思えてくるのですが。」
「君は本当に7歳かい?」
俺を見るミサキさんの目は冷え切っていた。
「君に話を振ったのは質問したい事があったからだ。」
俺、では無くヴィルを見ているミサキさん。
まるで虫を見るかのように視線が冷たい。
「君はソイツをどうやって手に入れた?」
「ヴィルをですか?」
ベットの脇に立て掛けてあるヴィルを見る。
俺の足と共にブラフに封印されてしまったので先程と同じ様に琥珀の中の虫みたいに黒いクリスタルに封印されている。
俺が魔力を使えればカズハの力を借りて治せると思うが、俺は今ミサキポーションの副作用か何かの影響で魔力が使えない状態になっている。
「コイツは家宝のナイフだったんですよ。」
「ナイフ?」
「えぇ。前回の大戦時にこの国を救った勇者から預かったとからしいですが、実際は魔力切れを起こして化石みたいになってたみたいです。」
「では、どうやって戻った?」
「【外来種】と言っても通じませんね。先程のブラフの様な連中が遺した遺跡がこの国にあったんです。それをヴィルで破壊しました。」
「そうか、そういう事か!」
何かに気づいたミサキさんはその辺にある紙に物凄い勢いで殴り書きしていく。
暫くミサキさんのペンを走らせる音だけが響いた。
・・・
−−コトン。
ペンを置くミサキさん。ポツンポツンと話し出す。
「先程の連中だが、君の敵なのか?」
背中越しにこちらに話しかけてきたミサキさん。
何となくここの答えを間違えてはいけない雰囲気を持っている。
「えぇ。あいつ等は僕の敵です。」
「君があいつ等と何故敵対しているのかは知らないが相手は強大だよ。狡くて裏から侵食してくるんだ。」
「それでも僕は戦いますよ。」
「何故?」
「それが、とある人を守る為ですから。」
鞄の中から【日記】を取り出す。
ミサキさんはその日記を見た途端に目を見開いた。
「あ・・そ、それ・・・・ど、何処で・・・?」
ヨロヨロと千鳥足でこちらに近づいてくる。
そ、どうしたんだこの人?
「たのむ。
既に俺の傍まで来ているミサキさん。
日記を渡すと涙を流しながら読んでいた。
・・・
日記を読み終わると俺に返してくれたミサキさんは飲み物を飲んでいた。
「やはり。
涙を拭っている姿を見れば内容を理解したと分かる。
「あぁ。そうだね。転生とか言うのは知らないが、驚いたよ。いきなり【ニホン語】の紙を渡して来るんだから。」
「スッカリ騙されました。」
「あの場合はあれが限界だった。まだ君の素性も知らなかったしね。しかし、英梨奈の知り合いとあっちゃ話は別だ。」
え? 今なんて?
「いや。英梨奈がこんなに純情だったとはね。あの時からずいぶん硬いなとは思ってたけど。なるほどなるほど。」
あのー? ミサキさん?
「しかも、想い人ってのは君かな?」
「・・・・。」
想い人って言われると顔が熱くなる。
俯いたまま顔が上げられん。
「あー。こっちもなかなかだ・・・。」
ミサキさんがつまらなそうに言う。
我に返った俺はミサキさんに色々聞きたいことがあった。
「あの。」
「うん?」
「鏡に会ったことがある口ぶりですが・・・。」
先程からミサキさんは鏡と面識があるような口ぶりで喋っている。これってどういう事だ?
「フフッ。やっぱり君は英梨奈と一緒の世界の住人なんだね。」
「正確には記憶が残ってる。が、正しい表現かと。」
「まぁ、そこら辺はどうでも良いけどね。私は英梨奈と前の対戦を戦ったモノだね。」
「!!?」
驚いた。前の時代の生き残りだって?
500年も前の話だぞ。
「私の容姿で驚いてるようだね。私の本当の姿は違うからね。」
「まさか、精霊?」
「驚いた。もうそんな所まで気づいたの?」
「まぁ、色々と消去法で考えた結果ですが。」
「そうだね。君みたいに精霊と一緒にいればそう言う考えに行き着くか・・・。」
ミサキさんの全身は炎に包まれる。
一瞬、炎が全身を包むと次の瞬間現れたのは、炎に包まれ鳥のような衣装を纏った女性だった。
って、ウサミミはどうした! ウサミミは。
「ふぅ。数百年ぶりだなこの格好も・・・私は鏡と契約していた神獣なんだ。」
神獣!? 俺は耳を疑った。
そして、思った。
・・・あのウサミミは何だったんだ。
「ほほっ。流石のイッセイ君も私を見て驚いたようだな。」
あぁ、ビビったよ。
何でウサギの亜人のモノマネをわざわざ選んだのか? とね。
「ふむ。声も出ない所を見ると神獣も初めて見るのかな?」
「え?」
ミサキさんが変な事を言ってきたので素っ頓狂な声を出してしまった。
「え? 初めてじゃないのか?」
「あぁー。」
この場合、知らん顔が良いのかな? よしすっとぼけよう。
「神獣のミサキ様は何故僕にそのお姿を見せて下さったのですか?」
へりくだって話す。神の冠を持つ奴は横柄なのも多いのでね。
だが、ミサキさんは違った。
「いやいい。私にその様な言葉遣いは無用だ。むしろ虫唾が走るから止めてくれないか?」
「良いのですか?」
「良い。英梨奈も対等に付き合っていた。」
なるほど。それだけ親密だったのか。
「それなら今まで通りに。」
「それで良い。」
「ミサキさんが神獣なのは理解出来ました。だけど何で人族のフリなんて。」
「ふむ。
「もちろん。僕がここに居る理由も半分はそれが理由です。」
「ふむ。奴等は最後にはまたこの地に戻るような予言じみた事をほざいていた。英梨奈はそれを嘆いていたよ。大戦で人族に蔑まれても一生の傷を追ってもな。」
「まさか、最後を?」
「あぁ。私が看取った。と言って魂魄となり聖剣に吸われていく様を見守るだけだがな。」
そうか、良かった。鏡は一人で逝ったわけでは無かったんだな。
俺は自然と頭を下げていた。
「ありがとうございます。鏡は寂しく無かったと思います。」
「すまんな。私等が付いていながら禄な戦果も挙げれなかった。」
「いえ。元々は彼女も僕と同じこの時代で【外来種】を倒す予定でしたので。」
「そうか。」
ミサキさんは納得した様に頷いた。
「英梨奈が惚れる訳だ。」
「ブホッ。何を急に!?」
「ホホッ。照れるな照れるな。日記にも書いてあったろ? 『好きでした。』ってね。」
「グハッ。」
そこをイジられると辛い。
「さて、冗談もここまでだ。お前さんなら聖剣を見せても良かもな。でも、怪我は直せ。これは医学に携わる者として命令だ。それが落ち着いたら続きを話そう」
謎のウサミミを装着し、亜人の姿を変装するミサキさん。
アレの意味は何なんだ? そして、なんでうさぎ?
今はいいか・・・。しかし、医学か・・・。
この世界では聞かない言葉だった。だが、完全な回復魔法が存在しないこの世界ではきっとこの先必要になる技術。
懐かしいが心地がいい。
部屋を後にするミサキさんを見送った俺は不思議と眠気に襲われた。
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