80話 謎の行動の答えってやつですか?

 城の東側、比較的弱めなモンスターが現れることで有名な区画。


 ファンタジーで言う所の【初心者御用達】ってやつだ。

 その甲斐あってクラスの低い冒険者や非戦闘員である学者さんなどがチラホラと見受けられる。ちなみに学者がやってくるのは実験や研究で弱いモンスターを探したり薬草を探したりといった感じだ。


 実は世のモンスターの発生条件はいまいち解明されていない。普通に考えて食物連鎖が発生する訳だが、何故かこの区画はあまり強いモンスターが来ないのだ。

 現在一番有力説なのは、『ここが魔素の薄い部分のため強いモンスター達は違和感を感じて来ないのでは?』というのが研究の一番の仮説である。


 あんまり魔素が薄いって感じは無いんだけどな・・・。


 俺は(東側一帯を)まとめられた研究成果のペーパーを読みながら頭を掻いた。

 そして、今ここでモンスターを退治しているのが我らがベネッタ嬢御一行様である。理由は知らないがベネッタ嬢はここに来るのがご所望だったみたいだった。


「空に舞う炎の精霊よ。私の力になりその形を矢のように飛ばせ!! ファイアーアロー!!」


 --ボゥ・・・シャシャシャー。


「はぁ、はぁ、はぁ。・・・何でよ・・・。」

「お嬢様。あまり急がれては・・・。」

「良いのよ。まだ、まだ行くわ!!」


 ベネッタ嬢が魔法を放ちモンスターに当たるがあまり威力は無いみたいで、瀕死になりながらも逃げていった。

 騎士さん達が逃げていったモンスターのトドメと木々に当たって燃えてる火を消していった。


 最初、ベネッタ嬢からの依頼を断りもせずに快諾した時は騎士さん達から訝しげな顔でやんわりとお断りムードを出されたが、その際こっそりと冒険者登録のカードを見せつつ、何があっても責任を押し付けない事を書面で書いて渡した所、2つ返事で納得して貰えた。

 寧ろゴブリン程度なら経験がある旨を伝えると、騎士さん達からは安堵の顔が返ってきた。ついでにご学友(喋ったの2回目)という立場からベネッタ嬢の周辺警護を任されていた。

 体の良い押し付けにあった様な気がするが、兵士さん達からのベネッタ嬢が元気が無いので気分転換に付き合ってくれ。と言われれば今日くらい我慢する。


「・・・ファイアーアロー。」


 ーーゴゥー


 今度は意図的に発生本数を減らし、威力を高めたファイアーアローが逃げるモンスターの脇に当たる。


「何で当たらないのよ!!」


 --ゴォー・・・パチパチ。


 ハズレはしたが当たっていればあの程度のモンスターなら一瞬だっただろう。

 森が結構勢いよく燃えている。

 そんな状態に気にもくれずベネッタ嬢は怒りながらラビットスライムを追いかけて行く。単独行動になったので兵士さん達が慌てて追いかけていった。


 俺は行かないのかだって? まぁ、この火を消してからでも良いだろう。


 折角だから火を消している間にベネッタ嬢の攻撃を必死に逃げ惑うラビットスライムの考察をしてみる。


 ラビットスライムとは『うさぎ』に擬態したスライムだ。

 スライムの形をしたうさぎと言っても良い。どちらでも通じる話だ。

 で、普通のスライムはその弱さから何らかの生物に擬態して生活しているものも多い。しかも、擬態した生物の生態まで真似してしまうのだから単細胞と言えない謎生物なのだ。

 スライムは世界各地に居るモンスターで中には恐ろしく強い物も居るようだ。

 中には木や水、毒蛇やモンスターなどありとあらゆる物に擬態するので誤って飲んでしまったり戦ったらめちゃくちゃ強かったりと意外にも苦戦を強いられる場合もあるようだ。


 そして、【はぐれ・・・】という寂しさのあまり銀色になったりは、しないようだ。感情と呼べるものがあまり無いようで同族でも気にしない生物のようだ。


 ちっ、銀色の足の早いスライムは是非仲間に入れたかったのだが・・・・。


 そんな事を考えている間には、燃えていた気は"プスプス"とほのかに香る木の匂いを放ちながら鎮火していた。少し焦げているが数週間で元に戻るので大丈夫だろう。


 辺りを見渡して皆が進んでいった先を見てみる。


 −−ゴゥー・・・パチパチ。

 −−ゴゥー・・・パチパチ。


 ・・・・。


 彼女が通った後は、まるで道しるべの如く森の木が良く燃えているので、それをたどって行く事で解消されるようだ。

 このペースなら今日中に森の木は全部燃えてなくなるだろう。俺も気合を入れて鎮火しよう。

 もしもしくじりでもしたら、次にこの森に来た冒険者や研究員が泣いてしまうだろう。それに新人冒険者が全く育たなくなってしまう。

 だから、そうならない様に木に引火した火を消していくのが今日の俺のミッションだ。


 伊達に桜坂◯防隊で腕を磨いていない。


「ベネッタ様。お待ち下さい。皆が遅れています。」

「何よ!! 今忙しいのよ。あのすばしっこく逃げるモンスターに魔法を当てるんだから!!」


 ベネッタ嬢は兵士さん達の注意を気にせずモンスターに一心不乱に執着している。


「この!! この!! 当たれ。当たれ!!」


 無駄に魔法を乱発しており、今では辺り一面が火の海になっている。

 だが、大丈夫。俺が鎮火するから。しっかりと自然の摂理に従って燃えているものには特に苦労しない。


 桜坂◯防隊は普通にありえない状況になったからなぁ・・・。


 アクアの力を借りて消化活動に勤しむ。


 --プシュー。


 勢いよく吹き出すアクアの力をふんだんに使った水のショットガン。

 ご機嫌な効果音を放つ細かくなったアクアの水は凶悪にメラメラと燃える炎を確実に仕留めていく。

 ふっ。インパルスが使えねえって言わせねえよ。


 ポエムっぽい事を口走ってみたが俺のキャラじゃないな・・・。


 そんな事を思いながら火を消していく。

 次の場所を特定するべくベネッタ嬢の動きを観察しているとあることが気になる。


 それは苦手属性の事だった。

 この世界では属性に得意、不得意があり火は風に強く、水に弱いという元素の流れがある。簡単に説明すると『風←火←水←土←風』のサイクルで劣優となっている。

 複雑な絡み合いで属性変更が行えるのだが、今は一方通行だと考えて欲しい。


 ベネッタ嬢の状態へと話を戻すと、今回水属性のスライムに火属性で攻撃する事はあまり意味がない。 

 ダメージは入るが致命傷にはなりにくい。

 命中制度の訓練をしているのだろうか? いや、それなら威力を上げて放つ意味は無い・・・。むぅ。彼女に何の狙いがあるのかが分からない。


 そこら辺に火を付けまわって帰ってきたベネッタ嬢が疲れた様に呟く。


 いや。まずは燃えてる木々を気にしようぜ・・・。


 俺がまだ消していない木を見つけて、そのままキャンプ地にするようだ。

 ベネッタ嬢は騎士さん達が作った腰掛けにへ垂れ込むよに座る。

 どうやら魔力切れが起こりはじめた様だ。


 俺は、簡易ながらもお菓子を持ってきているので、それを皆に配る。

 姉さまが持たせてくれた。特性のクッキーだ。

 バターが効いていてとてもなめらかなクッキーだ。サクサクと言うよりしなしなな感じ。◯ントリー◯ームみたいな食感だ。


 あの(山猿みたいだった)姉さまが手作りクッキーとはあんしん◯メイめ、なかなか姉さまを上手く教育しているじゃないか。


 よほど美味かったのか、皆モシャモシャ食べている。

 ベネッタ嬢もお菓子を食べて回復してきたのか、先程の成果に愚痴を漏らす。


「あぁーもう。何で効かないのよ。」

「土魔法なら簡単に倒せるのでは?」

「この前ならあんなスライムごとき私の炎で炭焼きに出来たのよ。」


 愚痴に対して俺が質問を入れるとベネッタ嬢がさらなる愚痴を溢す。

 ベネッタ嬢の話からするとどうやら以前何かが違うようだが・・・。

 なるほど。それで、火の魔法を使い続けていたのか・・・。

 恐らく何らかの拍子で落ちた魔力を取り戻すためここで特訓を積んでいるのだろう。で、そのバロメータにスライムを使っている。っと、言ったところだろう。


「前の私?」


 俺は、その一言が非常に気になってしまい、事もあろうに口にだしてしまった。

 そして、その一言が完全な地雷だったという事に今気づいた。

 

 "どんより"と下を向いてしまうベネッタ嬢。

 バロウさんがすかさずフォローを入れてくる。


「お嬢様。せっかくの獲物が逃げていきます。宜しいのですか?」

「あっ、そうだった。待てーーー!!」


 モンスターの存在を思い出したベネッタ嬢はまた森の中を駆け出して行った。

 え? もう一周するの?

 俺も桜坂◯防隊ごっこをもう一回やるの?


「あっ、イッセイ様。すいませんが少し宜しいですか?」


 いやいやながらに付いて行こうとすると、バロウさんに呼び止められた。


「は、はい。大丈夫ですよ。」


 やべぇ。嫌そうな顔バレちゃったかな?


「ベネッタお嬢様についてです。」


 ほっ、そっちか。ベネッタ嬢の2週目について行くのを嫌そうな顔がバレたのかと思ったぜ。


「えぇ。何でしょうか?」

「お嬢様が懸念なさっている事についてです。」


 あぁ、さっきみたいにならないように釘を刺しておこうって事ですね。

 確かにNGワードは今から聞いて置いたほうが良いだろう。


 俺はバロウさんの話を聞くことにした。

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