42話 『奴隷村』その後
--パチン
指を鳴らすと、ボス部屋は深い霧に包まれた。って…霧が深すぎる。
マーリーンの魔力なのだがどうも張り切ったようで、出てきたのは霧と言うより煙だ。
「ごほっ、ごほっ…。マーリーンは張り切り過ぎじゃないですか…」
「本当じゃて…。アイツ絶対楽しんどるじゃろ」
部屋に充満した深い煙をかき分けながら部屋を出る俺とバッカス。
エリンシア姫は抱きかかえて出てきた。
この煙は、我が家きっての拷問…もとい自白させるのが大好きっ娘(年齢不詳)のマーリーンだ。
自分が編みだす闇魔法の実験材料を欲しており。相手がより我慢する状況が好ましいんだとかなんとか。因みに実験内容については俺でも内緒らしく、「実験に付き合ってくれるなら見せても良い」と、笑顔を見せられたので辞退した。
魔力の性質から幻覚と洗脳辺りを想像しているが…。
そんなこんなで今、霧の中(ボス部屋)では「ぬあぁぁぁぁぁ」とか「ひやぁぁぁぁぁぁ」とか「ゆるしてくれぇぇぇぇ」や「ころしてぇぇぇぇ」など、爺さんと女戦士の叫びだけが聞こえてくると言う、とてもヤバい場所へと変貌していた。
外には音が漏れないようにセティの魔力を使ってきっちり防音仕様にしてある。
音が聞こえているのは俺と精霊の皆だけ。刺激が強いので姫様にも防音加工して安眠を楽しんでもらっていた。
「まだ晴れないのか?」
プロメテが拳を自分の腕に打ち付けながら霧を見つめていた。
「マーリーンの施術中です。終わったら霧が晴れてくるらしいので、待っててください」
俺が言うとプロメテは霧の前で腰を降ろした。どうやら待つつもりらしい…。
何でプロメテが居るのかと言うと、どうやら彼は『女戦士』と戦いたいらしく、珍しくジッと待っていた。
因みにプロメテには戦士という『
まぁ、戦いたいなら止めないけどさ…。
待ちきれなくなったプロメテは結局シャドーボクシングをはじめた。
体を動かさないと暇らしい。
ただ…、目の前でやられると暑苦しいから端っこてやっててくれないかな…。
更に数分が経過、流石に暇なのでプロメテに小石を指で弾きながらトレーニングに付き合っていたが、薄くなった霧の中から人影が2つほど見えた。目を凝らして奥を見てみるがどんな状況なのかはまだ良く見えない。ただ、マーリーンによる施術は終わったのだろう。どの様になっているのかは姿が見えてからのお楽しみである。
霧が晴れていき人の影が大きくなってきて…
姿を見せた2人は、土下座していた。
「イッセイ様。これまでの行い申し訳有りませんでした。ワシ等は今後王都の兵士様達の指示に従い、これまでの罪を償う事に致します」
「私も心を入れ替えました。犯罪奴隷に落ちようともイッセイ様を敬い、祈りならが日々を生きていく事に致します」
マーリーンが何をしたのかは知らないが、目の前の2人は神を見る司教とシスターの様な感じでキラキラさせた目で俺を見ていた。
はっきり言って、気持ち悪い…。
若干、引き気味に2人と接していると後ろからマーリーンが『やり切ったぜ(キュピーン)』みたいな顔をしていたので、
「…マーリーン。ちょっと良いかな?」
色々お話しをすることにした。
因みにプロメテは戦えなかった事がショックで青色に変化していた。
・・・
「…では、全て話して貰いましょうか」
「…はい。イッセイ様のご命令であれば何でもお応えします」
土下座スタイルから一切ブレる事ない爺さんと女戦士の2人。
流石に話し難いので立って欲しいとお願いしたのだが、
「イッセイ様。私が貴方様の顔を見るなど…おこがましい」
俺の命令でもそこは譲れないらしい。
あんまり掘り下げていっても更に面倒臭い事になりそうなので、取り敢えず今はそのまま話をしてもらっている。
マーリーンめ…、後で覚えていろよ。
お外でお話しようとしたら、爺さんと女戦士の2人に抱きつかれ。
マーリーンはその間に逃げてしまったのだ。
後で捕まえたら説教してやろう。
まずは、こっちの話からだ。
土下座した2人から話を聞くと、この村で受けていた依頼は誘拐してきた姫様とエレンハイム様を亡き者にし、その死体をモンスターに食わせろという惨たらしいものだった。ただ、この村では度々そういう依頼は内緒で横流ししていたらしく、今回も王都に住む
叔父さん(国王)の仕事がどんどん増えていくが、今日は宿屋でゆっくり休みを取っていたから…大丈夫だな。休み明けにバリバリ働いてもらいましょ。
それと、今回の依頼人の話しは聞けなかった。
まぁ、『ボス』と呼ばれるヤツが窓口で商売していたようなので全てを知っているのは、そのボスの事を聞くことにした。
「では、"ボス"の名前と種族を言ってもらいましょうか?」
「はい。ボスの名は…ボ…ボボ……」
「お爺さん。大丈夫ですか?」
「村長。しっかりして」
ボスの情報を確認しようとしただけだが、爺さんの様子がおかしい。
急に苦しみだした。
「ぐげええええええええ」
「そ、村長!!」
「こ、これは…」
爺さんには何かの呪いが掛けられていたらしい。
"ボス"に関しての何かを言おうとした瞬間、白目を剝いて”ガクガク”と震えた後で魂が抜け落ちた様に生気を失ってしまった。
その後、涎をだらしなく垂らし俯いたまま動かなくなった爺さん。
「村長! 村長!!」
女戦士が必死に話しかけるが爺さんの反応は無い。
そして、もう二度と誰の呼びかけにも反応することは無かった。
「口封じか…」
こうなる事を予測しての動き、敵は相当に用意周到だ。
俺たちが逃げるのを考慮して待ち伏せしている可能がある。
気持ちよさそうに眠っているエリンシア姫様を見て、街に戻るまでの警戒を強くする事を決めた。
・・・
「イッセイ様。道中警護すら出来ない咎人の私をお許しください」
女戦士に深々と土下座され俺と姫様はリアクションに困っていた。
別に馬車に乗って山道を下り『ジャングルシティ』を目指すだけなのだが、おっさんA,Bの他に数名が護衛に付くことになった。やっぱり逃げたボスの残党が襲撃してくる可能性があるため護衛が必要との事で付いてくる事になったのだが…。
「いや…。この人数は目立ちすぎると言うか」
ザッと集まったのは30人の村人達だ。既にマーリーンによる再教育も終了しているが、村の半分は帯同することになった。
全員で行くわけにもいかず国王軍がここに来るまでの間、新たな村長に就任したのが女戦士だった。
戦士の格好からシスターの様なローブを着はじめたので、戦士というのが正しいのか迷う所であるが…。兎に角、彼女が俺達の護衛を募ったらこれだけの人が集まったのだ。
因みに捕まっていた人達なのだが、当然檻からは出されている。
それなら奴隷村の連中と殺し合いになるのでは無いか? っと思われがちだが、マーリーンの教育は捕まった人達にも
檻から出た後は奴隷村の人達と共に抱き合って泣いていた。
で、教育された結果。
「イッセイ様、エリンシア姫様。襲撃が有った際はコイツラを殺してでも逃げ延びてください。仮に生き延びた者が居ても街で兵士に突き出せば適当な罪で放り込ませます。なぁ、野郎ども!!」
(全員)「「「「ハッ」」」」
奴隷商を担っていた村の連中が20名程集まり…
「我々もお供します」
「おぉー。同士よそなた等が来てくれるなら我らも心強い」
「何、お主らとは最早家族同然だ」
--ガシン!!
奴隷被害に合った人達も10名ほど志願してきた。
腕を組み互いに引き寄せ合う姿…◯ポビタンDのCMかな? いやいやいや。これは何の状況だ?
と、こんな感じで犯人と被害者が互いに手と手を取り合うというよく分からない状況に陥った。
俺と姫様はこのよく分からない状況にすっかり混乱してしまい、相手に言われるがまま従っている。
そして、大所帯になった馬車は街に向かって進みだした。
・・・
馬車の中は俺と姫様の2人だけ、貴族の女子と2人っきりで馬車に乗るってのはあんまりいい話を聞かないけどエルフ族は大丈夫なのだろうか。…などと考えてはいたが姫様は特に気にしていないようだ。
まぁ、それなら俺も助かるのでそのまま知らん顔することにしよう。
それよりも
ここまで統一性のある思考に仕上がるのなら潰すのではなく利用するほうが王国としてもメリットは多いはず、そして何よりここの人達を殺す事に抵抗を覚えるようになってしまった。
「と、言うことで姫様。今後の段取りですが私が叔父に説得をし、姫様は王妃を説得頂くという事で宜しいですか?」
「……」
俺の提案について考えているのか、エリンシア姫様は黙りこくっていた。
提案というのは先程も言ったとおり。『奴隷村』の住人+α(被害者)の扱いである。可能なら王国とエルフ族の共同基地にしたいとも思っている。
そのためには何としても姫には協力して貰わないと辛い。
なのでウンと言って欲しい所だが…。
「姫様‥?」
あまりに長く考えているので、名前を呼んでみる。
だが、反応は帰ってこない。って、そんなに深く考える内容か?
「…敬語」
「はい?」
ケイゴ? って何ぞ。警護しろって意味か? 今やってるだろ?
急に姫が言いだした謎の言葉に混乱する。
「姫様。ケイゴって何のことでしょうか?」
「その鬱陶しい喋り方止めてくれない」
おぉう…。警護じゃなくて敬語ね。
でも何で今のタイミング?
「えぇっと…、姫様?」
「会ったときから思ってたのよね。アンタ私とそんなに変わらないくせに敬語使われるとやり難いのよ」
え? だって、姫さんの相手にはもっと年上の人で敬語使う人も居るでしょ?
「それは…身分の違いと言いますか」
「だから、そんなの気にしないで話し掛けても良いって言ってるのよ!(助けてくれたし)」
「は、はぁ…」
なんだか知らないけどめちゃくちゃキレられた。
しかし、怒っているわりに顔色は赤い。どういうこっちゃ。
「で、何かを感じていたようだけど?」
「そ、そうですね…「敬語」」
姫さんに再度怒られた。
そう簡単に切り替えれる程、親しくないでしょ?
だが、それを許さいないと言いたげな目は向けてくる。
はぁ…。やるだけやってみるか。
「やはり先程のお爺さんにかけられた呪いは気になり…なるね」
チラリと姫さんを見ると満足げな顔をしていた。何これ、面倒くさいんですけど。
爺さんを思いだす。最終的に椅子に座らせられた爺さんは下を向いたまま動かなくなっていた。あれはまるで魂が抜けたような状態だった。
遠隔式にしろ起動式にしろこちらに姿を表さずにあそこまでの力を発揮するのは相当の使い手だ。
精霊の皆にも聞いてみた。
やはり同じ様な力を感じると反応したのは、マーリーンだった。
どうやら闇属性のちからは感じるようだ。
「うーん…。ただ、変な力は感じた」
「別の属性ですか?」
俺が質問するとセティが答える。
「他の属性なら僕たちが気づくよ」
「そうですね。あれは属性と言うよりは…」
「憶測はその辺にしておくんじゃ。何れにしても直ぐやれるなら等にイッセイ達は狙われておるじゃろう。ここに居る連中も無事な内は問題なかろうて」
カズハも見解を広げようとしたが、そこはバッカスが止めてくれた。
流石に、話が飛躍しすぎると収集がつかなくなるからな。
王都に戻ったら金◯様にでも聞いてみるか。
「了解。一旦はここまでにしますか」
眠っている姫さんを確かめると俺も周辺警戒にあたった。
なんとなく人の気配が増えてきたので、外を見てみると馬車は大通りに出ており街の入り口付近に来ていることが伺えた。空は明るくなり始めており、流石に俺も眠い…。
だが、まだ眠るわけにはいかない。
この後の事を考えると俺は一回街の中に忍び込んで叔父さんと王妃様を連れてこないといけないからだ。そうしないと俺と姫さんが攫われた事が公になる。
もう既に公かもしれないがそれでも発見が街の外と内では意味が大分違う。
護衛の人に話したら、「私達は自首します」なんて言い出した。
それじゃあ意味が無いんだっつーの。
仕方がないので、俺の計画を少し話したら皆が膝を付いて祈りだした。
辺りを歩いている商人さん達が何事かと寄ってきて一騒動起こりそうだった。
「…ちょっと出てきます」
商人さんたちと揉めた件を引き合いに怒ったら皆さんシュンとしていた。
この位な方が安心出来るので言いたいことを言って良かった。
それに俺1人なら何の問題も無い。マーリーンの力を借りて姿を消せばどこからでも忍び込める。
「セティ、マーリーン」
2人を呼ぶと直ぐに力を貸してくれた。
マーリーンは姿を隠してくれて、セティは俺の体を軽くしてくる。
木で出来た外壁を飛び越えると魔道具などを売っていた市場の裏路地に着地した。
後は、適当な言い訳を考えるだけだ。ん?
表通りに向かって歩こうとしていたらどこかで見覚えのあるおっさんがゴロツキを連れて何か打ち合わせをしており、俺には全く気づいていない。
「!(ピコーン)」
虫人のおっさんを見た瞬間に良いことを思いついた。
--ドウッ、ドウッ。
「うっ」
「がっ」
「おい?! お前たち急にどうした」
焦った顔をして狼狽える虫人のおっさん。
確かに仲間が急に倒れれば不安にもなるだろう。騒がれても面倒なのでゴロツキの2人には眠ってもらった。
「こんにちは、オジサン」
俺が爽やか笑顔でおっさんの前に出ると一瞬考えたおっさんは一気に顔色が悪くなった。虫人で◯面ライダーみたいな顔でも表情や体調はわかるものらしい。
「ど、どど、どうしてお前…」
「いやはや、色々終わらせるのに一日掛かってしまいました。僕もまだまだですね」
逃げようとする気配を感じたため殺気を込めて笑顔を見せるとおっさんはその場にヘタレ込んだ。皆が納得する良い口実なので逃しはしないよ。
観念した虫人のおっさんはガックリと項垂れていた。物分りの良いおっさんに俺は考えた計画を話し始める。
俺がこのおっさんを見て考えついたのは、別におっさんをどうのこうのしたい事じゃない。当然、オークション会場となっている料理屋と、そこに通うVIPには潰れてもらう必要があるが、おっさんや店の人達は引き続きリクルートするつもりだ。
何、取引相手が変わるだけでやってることは大して変わらないんだから。
「お、おい。マジかよ」
「はい。既に村の方では了承を得ており。今回は30人ほど説明役として同行してもらっています」
虫人のおっさんはかなり警戒していた。が、逃げ場が無いことも理解しているようだ。どちらにしても叔父さんに会ってもらう必要があるので肚は決めてもらわないと。
「逃げるんなら今ですよ。もっとも王国軍が見逃すかどうかは知りませんが」
「そんな言い方されたら逃げれねえだろう! 分かったよどこにでも連れて行けよ」
俺の口が三日月型に変わるのを自分で感じた。
どうやら人間事が上手く運びそうな時はこういう笑顔になるらしい。
と、言っても別に危ない橋は渡っていない。
俺も叔父さんに事の説明と今後はこの虫人のおっさんが窓口になる事を伝えるだけだ。
「流石、理解が早くて助かります」
「けっ、もう好きにしろ」
俺は、虫人のおっさんと一緒に叔父さんと王妃様達が居る宿屋へと向かった。
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