28話 混合魔法

 俺が洞窟の天井ギリギリに投げた魔石の弾丸は空中で一度止まると物理の法則を真っ向から無視して向きを変え、余裕の笑みをかましている鎧ゴブリンの頭に向かって次々と飛んでいく。


 魔石の弾丸は鎧ゴブリンに突き…



 …刺さらなかった。

 左手に持つ盾を構えてあっさりと弾き返されたのだ。爆散させても特にダメージが入った形跡はない。



「ゴフ、ゴフ」


 …イラッ。


 俺が大したことない雑魚に見えたのだろう。

 試す技が成功したあかつきに笑う予定だったのだが、逆に笑われる始末だ。


 何をしようとしていたかと言うと、2種類の魔力を使う方法。『混合魔法』を使おうとした。失敗したけど…。


 先程、ホブゴブリンと戦った際に感じた『力不足』。

 せめて属性を付与した攻撃が出来ればまた違った展開に持ち込めた筈であった。


「グヒィ…グググッ」

「くっそ、緑豚野郎が!!」


 何度も失敗している俺を鎧ゴブリンが笑っている…

 こいつは無駄に知識を持っているらしい。


 俺が凝りずに上空に魔石を投げる。

 念じるのは『炎』。バッカスの炎の力を投げた魔石に反映させたいのだ。


 --ゴゥ…プヒュ…


 クッ…。まただ。


 一瞬だけ火は着くんだがすぐに消える。

 そして、魔石が効果も無く緑豚鎧ゴブリンに弾かれ、笑われる…。

 そんな、テンプレと言うかネガティブパターンに入ってしまい流石の俺も意気消沈する。


 どうやれば良いのか精霊の皆からアドバイスが欲しいのだが…

 セティとカズハは皆の護衛で外に向かっている。 

 バッカスとプロメテは俺の初弾の攻撃を合図に既に飛び出していた。


 俺が相手している奴、意外の雑魚を相手取り…


「ほっほー。ソリャ。ワシの鎚を喰らえ」


 --バガン。

 --ベシャ。


 バッカスの一撃は地面を激しく打ち付ける一撃で下敷きになったゴブリンが車に引かれたカエルの様にせんべい状へと形を変え行き場の失った液体だけが低い方へと流れていった。

 更にエグいのがその打ち付けられた地面がクレーターを作るのではなく変幻自在に形を変える事だった。


 バッカスの魔法で打ち付けられた地面は凹んだり尖ったり湾曲したり落とし穴になったり天井にくっついたりと既に訳の分からないことになっていた。


 洞窟にいたらコイツ無敵じゃね? と思ったが魔法を使うたびやたら何かを飲んでいる。何かと思えばアルコールの匂いがしだした。


「ウィ~。ひっく。」


 ほっといたらいつの間にか鼻が赤くなっている。

 なるほど、酒の神様の名前を冠ているのは伊達じゃないのか・・・。


 酒を飲む傍ら地形の変わった洞窟の影響でゴブリン共は片っ端から飲み込まれていったり、串刺しになっていった。が、その変化もパタリと止んだ。


 ん?? どうした。バッカスを見ると…。


「うっ・・・。うぇ□□□□□□□~」


 真っ青な顔をしたバッカスは洞窟の脇で自身が飲んだお酒を断末魔と共に地面に帰していた。

 何というおぞましい声だろう。それどころか匂いまでしてくるので俺とプロメテは距離を取る。


「魔力の元だか何だか知らないが、酒が弱いくせに飲むからだ。あんなのは筋肉の敵だ」


 ボヤくようにプロメテが言っていた。バッカス‥酒弱いのか…。

 なるほど、バッカスの魔法を使う条件が飲酒なのかもしれないな。


 早々に戦力外になったバッカスを精霊界に帰すと俺とプロメテは奥を目指す。

 ある程度はバッカスが仕留めた筈なのだが奥に進むとワラワラ出てくる。

 コイツ等どんだけ居るんだ?


「むははは。雑魚が!!」


 次に前に出たのはプロメテだ。両腕に付いている爪を擦り合わせてタイミングを計ると飛び出してくるゴブリンを切り刻んでいった。


 --ブシュ…ゴゥ。


「グオ…? グオ!!? グオォ!!! グォオォォォォ…」


 切った切り傷からは炎が生まれ傷を焼いていく。


 おぉ…すげえ。


 火が付いたゴブリンは自分の体から発火したことに驚き転げッ回って消そうとするが、プロメテの魔力で燃えている火は消えることなくゴブリンを焼いた。


 コンガリゴブリンの丸焼きだ。…ドブ臭い。


 ゴブリンも炎は苦手らしく、死んだ仲間を踏み潰すゴブリンもブスブスと燃えていく仲間の姿と未だ消えない炎を交互に見比べて進撃を躊躇していた。

 そして、二の足を踏んで動かないゴブリンには俺が弾丸を当てて仕留めていく。

 威力は大分高くなってきているが幼少の頃から磨いている俺たちのコンビネーションだ。息が合わないわけがない。


 結果、目に見えてゴブリンの数が減っていった。


「もうすぐ、本体まで行けそうだ」

「がはは。お前たち大したことないな!!」


 プロメテは俺の話を聞いていないようだ…。

 そのまま、敵の居る方へだが俺が向かう予定の場所とは違うどこかへと行ってしまった。


 …プロメテ。強く生きろ。


 俺はバッカスとプロメテを『そっと』しておく事にした。


 そうなると残っているのは、アクアとマーリーン。

 二人ともそこそこ癖のあるキャラだが…一応、聞いてみるか。


「こ、混合魔法ですか……?」


 アクアは、困惑気味に答えた。

 と、言うか何故困惑気味だったのか? 普段から使ってる…って、俺から目を逸しやがった。恐らくこいつ混合魔法を使ってないんじゃないか。


 マーリーンは、


「混合…魔法?」


 そもそも、混合魔法を知らない!?


「マ、マーリーン。混合魔法って…」


 アクアがマーリーンに耳打ちしていた。

 それを聞いてマーリーンが『おっ』って顔をしていた。お前、何で混合魔法で通じないんだよ…

 って、あれ? アクア混合魔法のやり方知ってるんじゃないか?


 アクアが顔を赤らめている意味が分からない。


「あぁー。まだやってない? 器は、持ってる…。なら、イッセイこっち来て」


 マーリーン言われたので近寄っていくと…


 ゴスッ…。


「いてぇ!」


 マーリーンに頭突きをくらった。

 って、何でだ。と言うより何だ?


 そう思った瞬間に『ズブズブ』とマーリーンの魔力が俺へと侵入してきた。どんどん侵食されて来る。


「ぬっ…ガッ!?」

「もうちょっと…。待って」


 完全に沼にハマったのを感じる。イメージを伝えるなら右腕だけ沼から出ている状態だ。…それも今全部浸かった。

 マーリーンの闇の属性魔力が俺の魔力に交じるのを感じる。侵蝕の方が近いのか、何れにしても俺のオリジナルの魔力にが付いたのは確かだ。


「…ふぅ。終わった」

「な、何を…した…?」


 俺はその場にしゃがみ込む。

 何でかって? 当然、頭が割れそうだからだ…。

 因みに鎧ゴブリンはアクアが相手をしてくれているので、俺が襲われる心配はない。


「うぐぐ…」


 時間が、かかりそうに思えた頭痛も意外と直ぐに収まってきた。

 立ち上がり両手をかざして魔力を出してみる。


 右手には今まで通り。

 左手には…紫色の混じる今までの俺とは別の魔力が形成されていた。


「おぉー。イッセイは筋が良い。もう私(の魔力)をモノにした」

「な、なんですって!!?」


 マーリーンのボケにアクアが反応した。

 あっ、他所見すると…


 --パカン!!


 鎧ゴブリンにぶっ飛ばされていた。


「…アクア。強く生きろ」


 まぁ、アクアに離れて貰う手間は省けたが、鎧ゴブリンはこっちに向かって走ってきている。

 俺は2つ出来た魔力の内、左手に出来た闇属性の魔力を魔石に注入し空に投げる。

 空中で闇属性の魔石になった。それを右手の魔力を使いホーミングさせる。

 今度は闇属性が解けることもなく鎧ゴブリンに向かって飛んでいく。


「グフ、グフ」


『またか』と、言わんばかりに盾を構える鎧ゴブリン。

 俺の投げた弾丸は、盾をすり抜けてゴブリンの頭に当たった。


 --パン


「ご…」


 全てを口にする前に鎧ゴブリンは頭を破裂させて絶命する。


 おっし、いけそうだ。

 マザーゴブリンへ一気に追撃を行おうと繭の近くまで行くと、


 --ブリッ、ブリッ…


 あまり聞きたくない変な音が聞こえる。ゴブリンの脱◯音かと思う位生々しい。

 マザーゴブリンは、ホブゴブリンを生み出していた。


「また、こいつが出た!!」


 俺はたまらず声に出してしまう。

 手を抜いていると次々とゴブリンを生み出されていってしまう。

 しかし、こいつには俺の攻撃は効かない。

 バッカスとプロメテは近くに居ない。アクアも鎧ゴブリンにふっ飛ばされて動けない。マーリーンはそもそも戦闘系では無いし…。


 ホブゴブリンは俺を見つけると手に持つ棍棒を振り上げコチラに向かって走ってくる。


 精霊の誰かが来るまで時間を稼ぐか。

 そんな俺の心を理解したのか、マーリーンが教えてくれた。


「大丈夫。イッセイ。先程の攻撃パターンを逆にして」


 パターンを逆? 何の???


「さっきは、闇魔法の属性を魔石に込めた。次は逆にする」


 あぁ、なるほど。そういう事。


「了解」


 マーリーンの言う通り左右に魔力を作り。今度は、俺のオリジナルの魔力を魔石に込める。そして、その弾を闇属性の魔力で飛ばす。


「えっ!」


 飛ばした弾は『フォン』という音をさせると姿が見えなくなる。

 次の瞬間、


 --パチュン!!

 

 と音を立てるとホブゴブリンはその場で横に倒れた。


「はい?」


 何この威力…


「イッセイ。出来た」


 マーリーンが俺の肩に座っており話しかけてきた。


「ありがとう。マーリーン。しかし、あの威力なんですか?」

「あれは、『バニッシュデス』即死魔法の一種。因みに最初の魔法は混乱系の一種『フリアク』」

「なるほどな」


 どっちも強力な技だ。しかし、同じ混合魔法でも使う順番によって2種類も意味を持つなんてな。今後も上手く活用させてもらおう。


 活路を見出した俺は残った大物マザーゴブリンに目をやる。

 相変わらずゴブリンを大量に生産しては、バッカスとプロメテの餌食になっていた。

 どうやってあんなに無尽蔵にモンスターを生成出来るのやら…


 ん?


 あいつがゴブリンを生成する際、下のほうがやたらとピカピカ光るのに気づいた。

 どうやら下に魔法陣っぽいのがあり。ゴブリンを生み出す度に光っている。

 魔力供給しているのかもしれない。


 タイミングを見計らい俺もマザーゴブリン退治に参戦する。

 どうも数が減ると自動で生成するシステムらしく、ほぼ永遠といえるタイミングでゴブリンを生成し続けている。

 一気に大量に処理すると時折ラグが発生する事があるらしく、生成にスキがある。ゲームかよって思ったけど、そのラグのお陰で何とか近づけるのだ。


 --リィーーーン、リィーーーン、リィーーーン


 そして、なにより俺ン家の家宝が五月蝿い。さっきから、『リン、リン、リン、リン…』興奮した犬や猫かっていうくらいに音がなり続けている。

 明らかに下にある魔法陣に反応しているのは理解出来るのだが、アラームのON/OFF機能位はつけてほしい。


「おらぁ」


 --ドッ、ドッ、ドッ。


「グゲェェェェェェェェ!!」


 固定されていて動けないマザーゴブリンは、俺の投げた魔石を受け断末魔の声を挙げる。

 

 マザーゴブリンの叫び声は複数の声が重なった様な叫び声だった。

 この世のものとは思えない気色の悪い声だった。だが、手応えはある。

 闇属性のお陰でダメージが通る。これは行ける。いけるぞ。

 マザーゴブリンが断末魔を挙げながらのたうち回っている。


 よし。このまま押しきろう。


 追撃の魔石を投げようと振りかぶった所で、


 --ブォン!!


 ミミズの大きいような形の触手が目の前に現れ俺を振り払うように横凪ぎされた。


 咄嗟にベビーロールで触手をかわす。

 触手は俺の鼻先をスレッスレで通っていった。


 因みに通り過ぎた触手には小さな棘が無数付いていてウネウネ動いていた。


 あっぶな…。あんなのに噛みつかれたらそのまま絡め取られてしまう…。


 こんな時こそ謙虚に行こう。『安心、安全、慌てずに。』3Aだ。

 我が家の家訓『ダンジョン攻略』は、うちに帰るまでがダンジョン攻略です。


 距離を取り、魔石を投げる。

 触手が俺に向かって襲いかかってくる。


 移動しながら魔石を投げているが、地面を抉られているので徐々に走る場所も無くなってきた。


(・・・・・・を・・・・・・げろ。)


 ??? もげろ?


「グギャアアアアアアアアアア」


 よしっ。またクリーンヒット。

 ホーミングする投擲って実にとっても便利。投げる向き、位置を考えなくて良いのは本当に楽だ。


 壁を蹴って天井へ、更に壁を蹴って地面に降りる。

 フロアー内を縦横無尽に駆け回るがそうするしか無い。

 マザーゴブリンは俺にされるがままだった。


(・・・れを・・・げろ!!)


 !? レオゲロ??? ってあっぶな!!


 また何かが頭に声がよぎった。完全な内容は聞こえていないが声の一つ一つがはっきり聞こえた。気を取られたせいで動きが『テレフォンパンチ』になった。

 その一瞬の油断のせいで触手の餌食になった。


 思ったより痛ぇ!!


 俺の体に絡みついた触手。無数の口に付いた歯が俺に噛み付いてきた。

 抵抗しようとしたが、動けば動くほど歯は食い込んでいく。


「ぐはっ」


 触手によって洞窟の端っこにそのままぶつけられてしまった。

 

「イッセイ!!」


 バッカスが叫ぶが追撃が来ている。マザーゴブリンの顔が4つに裂けその中から触手が1本新たに伸びてきていた。


 バッカスとプロメテは触手を相手どり苦戦していた。


 俺は咄嗟に家宝のナイフを握り、絡みついている触手を振り払った。

 ナイフが当たった部分は驚くほど簡単に触手を切り裂いた。


「グギャアアアアアアアアアア」


 『ビチビチ』と跳ねながら帰っていく触手。

 って、お前も叫ぶんかい。


 しかし、なんだ? このナイフ。

 何となく違和感を感じるのだが、威力は申し分無かった。

 これならば最初から使っておけばよかったと思った位だ。


(おれを突き刺せ。あそこに投げろ。)


 今度はハッキリと聞こえてきた。

 辺りを警戒するが、まさかの手に持ったナイフが輝き出した。


 お前。自分を投げろって言うのか? あそこって…あそこ?

 ナイフは何も言わないが妖しく光るその輝きが答えを示しているようだった。

 俺は、ナイフを信じてマザーゴブリンに振りかぶった。

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