『モルスの初恋』
9
園田咲良の死体が足元に転がっている。
真ん丸の大きな瞳は虚空を仰ぎ見、艶やかな茶髪をまとめたサイドテールがしんなりと床に垂れていた。好きな彼にはとても見せられない姿だ。あまりに醜い。
首を絞めたらあっさりと、園田咲良は死んだ。目を剥いて、手をばたつかせたものの、最後には力尽きた。淡白な死だった。容易な殺人だった。人ってこんなに脆いんだ、と『私』は思った。
────これ、もらうね。
『私』は咲良の死体の首元に手を置き、そっと咲良の首を断った。
ごぼり、と、咲良の華奢な首の切断面から、勢いを無くした血液がどぼどぼと溢れ出てくる。どこも損壊していない、綺麗な生首だ。
真っ黒な影の腕でその生首を持ち上げ、自らの顔に重ねる。
こうして、死である『私』は顔を手に入れた。
これで、より人間的に、あの人に笑いかけることができる。真っ黒なままでは、きっと怖がってしまうだろうから。怯えて、恐怖し、嫌われてしまうかもしれないから。
「ふ……ふふ、えひっ☆ あはっ……きゃはっ♥」
死は笑う。『私』は嗤う。
首のない園田咲良の死体を足元に、自然と身体は動き始めた。昂る感情のままに、くるくるくるくると、踊り始めた。サイドテールがぴょこぴょこ跳ねる。まんまるの目が楽しそうに細められる。紅い唇を笑みに歪める。
あんまり嬉しかったものだから、死は笑い、笑い、次の次の日が来るまでずっと、その場で踊り続けた。手に入れたばかりの生首の表情を笑顔に歪ませ、楽しそうに、楽しそうに。
さあ、影に肉体を与えましょう。
そうすることで彼女は、『私』は、人間になれる。
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