第十三話 どうして泣いちゃったの?
……やっぱり、お話は続いちゃった。
確か、第十四話だったかな? 先生の
それから一週間が
「ねえ、昨日何があったの?」
「えっ、何のこと?」
その子は、この前の自習の時間、みずきちゃんを助けようとしてくれたの。第一話から見てきたけど、初めてのことだった。……いじめられているみずきちゃんを見て、泣いちゃった子も、それまで
あっ、まだ会話の
「お昼休み、この校舎の三階よりも上……つまり屋上の方から、あなたが下りてくるのを見かけたの。もしかしてあなた、あの……」
「そ、それ。た、た、他人の
「いいえ、絶対あなた」
と、その子は、明らかに疑いの目で……
「ううん、空似だったら空似」
みずきちゃんは一歩も
それもそのはず。……昨日あの場所で、初めて自分の意志でマジカルステッキを左手から出して、マジカルエンジェルに変身して戦ったの。相手はクラスの男の子を
それを、見られちゃったみたいなの。
それが
「声も聞こえたよ。確か『マジカルなんたら……』って。いつもと
って、だんだん
わあ! 本当に大ピンチだよ。
ええっと、どうする? あ~ん、どうしよう。
「……た、探検! そうそう探検してたの。この旧校舎にはね、まだまだ七つ以上の不思議があるの。だからパパ譲りの、
その子は、目を丸くして、
「ぼ、僕?」
「そう、僕。
「はあ?」
と、その子は声を出したけど、ぷっと笑っちゃって、
「なあに、それ?」
と、さらにお腹まで
「ほんと
見ての通り……思い切り笑われちゃった。
もう!
と、心の声によって、みずきちゃんはふくれ面。
「でも、まあ、いいか……」
笑いすぎて、ちょっぴり
「仲良くしようね、みずきちゃん」
と、その子は、ニッコリ笑った。
「こ、こちらこそ……よ、よろしくお願いします……」
と、ご
「ダメダメ
……
じゃあ、次は笑顔で、
「よろしくね、さとちゃん。……かな?」
「うんうん、『よくできました』の桜マーク付きよ!」
その子は、さとみさん。……今日から『さとちゃん』になった。
この前の自習の時間、まだ他のクラスでも授業しているにも
それでまた……
同じトイレつながりで、こんなことがあった。
さとちゃんが「一人じゃ危ないから」って、トイレまでついて来たの。教室に戻るのも一緒で席まで行くと、机の上が
それで
『バ~カ』
『あほ丸出し』
『キモイ』『いつもヘラヘラしてんじゃねえ』
その他にもEtc(エトセトラ)……
その中には『死ね』という言葉まであった。そして周りを
「ひど~い!」
と、その中でも、大き目の声が耳元で聞こえたかと思うと、『死ね』と書かれた、
その広げて見ている紙を、サッと取り上げられた。
びっくりして
「さとちゃん」
が、べったり後ろにいたの。
「もう
ふうふう……と、荒い
「ま、待って!」
と、足を止めた。
「みずきちゃん?」
振り返るさとちゃんの顔が、鬼ではなくなってきて。
……その顔が、ちょっとにじむようにぼやけてきて。
「……ありがと。でも、いいの。本当はもう死んじゃってて、痛み感じないの。ここにあるのは天国に行けなかった
とうとう喋っちゃった。
魔法少女であることは、絶対に秘密なのに……
それでも、みずきちゃんは、
「だから、心配しないで。さとちゃんのその気持ちだけで
と、
すると、ぎゅっと
「さ、さとちゃん?」
「みずきちゃんのバカ。ダメじゃない、そんな悲しいこと言っちゃ。もう頑張らなくたっていい。思いっ切り泣いちゃえばいいのよ。もっと
「もしかして、
「当たり前じゃない。大切なお友達にそんなこと言われたらショックよ」
……大切なお友達。
ここに来て、初めて聞いた言葉だった。
ぽろぽろと、
「……ごめんね」
と、一言……そして、ここが教室であるということを忘れて、周りにはクラスのみんながいることも忘れて、まるでダムが
「……もう魔法少女なんてやだ」
「うんうん」
「
「うんうん……」
さとちゃんは、何も訊かなかった。
みずきちゃんが魔法少女ということも、日々、サターンと戦っているマジカルエンジェルということも、言葉を
その一部始終を見ていたみずほさんを中心とする女の子三人組は、この後どの様に、みずきちゃんたちをいじめるのか、計画しながらも、
「キモっ、まるで
「もっと面白いもの見せてくれると思ってたのに」
「……ほんと、白けちゃったね」
と言って席を立ち、そのまま教室を出て行った。
そして周りを見ると……
何事もなかったように、お喋りの続きをする女の子たちがいれば、「おい、ドッジボールやろうぜ」と言って、ここから元気よく外へ、飛び出していく男の子たちもいた。それとは無関係に、大人しくご本を読んでいる真面目っ子もいて……と、様々なの。
一見バラバラでまとまりがないようだけど、どの子にも共通点がある。それは、自分たちのクラスで起きている『いじめ』に対しては見て見ぬふり……だけではないの。どの子もみずほさんに加担し、みずきちゃんをいじめているということだ。
そして、どの子も、
『自分でなくて良かった』
と、きっと、そう思っている。
でも、その中でも、さとちゃんだけは違っていた。
今こうして、みずきちゃんに
実は、このお話が第二十五話。劇場版に入る前のお話だった。
この物語のお話の数は全部で二十六話……になる予定だった。
このクラスの児童は、全員で二十四人。そして、この物語には、その人数と同じ二十四種類のお話が用意されている。第一話と第二話が主人公のみずきちゃんのお話で、第三話で魔法少女になって、ついにマジカルエンジェルの戦いが始まった。
第四話からは、みずきちゃんを除いた一人一話ずつのお話で、毎回、何らかの
でも、現実は
とはいっても、これもまたアニメの世界で……。一度サターンに操られた子が、また操られるというケースがあったり、最近では三人、五人単位と複数で、みずきちゃんを
それだけではなく、サターンに操られていないクラスの子が、まだ十人もいる。
その十人の中には、一番サターンに操られそうなみずほさんを
八月六日の登校日、それは起こった。
ついにみずほさんがサターンに操られ……というよりかは、まるで『ラスボス』が乗り移ったように、残りの九人を操り、他の子も
明らかに、みずきちゃんを狙っている……としか思えない設定だけど、
「やめて!」
と、夢から覚めそうな大きな声で、さとちゃんのところに向かって、みずきちゃんが走る。この
ササッと左手から、マジカルステッキが出た。そのままフェスティバルに出場するマーチングバンドみたいに、くるくると回す。すると
「マジカルチェンジ・セットアップ!」
と、マジカルステッキをお空に
真っ白な光に包まれながら、お洋服が
その姿こそが、
「やっぱり、あなたがマジカルエンジェルだったのね……」
と、ぽつり、さとちゃんが力なく言った。
ハッとしたみずきちゃんは、
「……ごめんね、これがわたしの正体なの」
と、
みずきちゃんの涙の理由は、自分が魔法少女だと知られないようにしようとして、さとちゃんが身代わりになってしまったこと。そして自分が、もう普通の女の子に戻ることのできないマジカルエンジェルだと、知られてしまったからなの。
……するとね、
「マジカルエンジェルが、みずきちゃんで本当に良かった……」
「さとちゃん?」
「だって、みずきちゃんがクラスの中でも一番に普通の女の子だから。わたしね、みずきちゃんのお友達になれて、本当に良かったと思ってる。何があっても、わたしは、あなたの味方だから……お友達に、『さようなら』なんてないんだから……」
きっと、周りにいた女の子たちも同じだったと思うの。わたしが映画館で泣いちゃったのは……これまでのエピソードたちとの思い出があるように、この二人の思い出がカタカタと動く八ミリ映像みたいに、心の中を流れるからだったの。
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