特別話 ハロウィンの日

 ハロウィン




 ※最近更新が遅くて申し訳ない限りです。諸事情が重なっているもので……。まだトキノコはキャンプ中(9月中旬)ですがハロウィンに乗っからない手はないので番外編としてハロウィンをねじ込みさせていただきます……

 ほんとおサボりしまくってすみません……







「ツチノコ、とっても似合ってます!」


「そう……?というか、トキは仮装しないのか?」


「私も仮装しちゃったらツチノコがお菓子ねだる人がいないじゃないですか」


「ええ?確かにそうだけど……トキの仮装も見たかったな……」


 10月31日。ハロウィン。

 元は秋の収穫を祝う祭りだったが、現代ではその意味合いはほとんどなく、仮装をしてお菓子ねだりあって楽しみましょうみたいな祭りになっている。

 それがいい事か悪い事かはさておき、そうなってしまったからにはどうこう言ってもしょうがない。ごちゃごちゃ言うよりそれに乗っかって楽しむのも手である。


 で、トキとツチノコも仮装して遊んでいるということである。


 だが、もちろんそれに乗っかれない人だっている。理由は様々。単に嫌という訳ではなく、忙しくてという人もいる。例えば、茶髪の結構偉いフレンズ飼育員とか。

 ほかの理由としては、「そもそもハロウィンって何?」という状態だとか。フレンズにはこれが多い。特に、野良として生きているフレンズは尚更だ。



 トルルルルルルルル……



 携帯電話のコール音が鳴り響く。茶髪の女性が机にぐだっと突っ伏しながらそれを手に取り、耳に当てる。コール音が止んだ直後に、気だるそうな声を電話に向ける。


「はぁい、戸田井です……」


 対照的に、電話から聞こえる声は元気そうだった。それと同時に、若干焦っているような声色も。


『おお!?本当に声が聞こえる!お話できてるー!?』


 スマホを握るナウ。困惑。


 誰だ?

 まともに相手の番号見ないで電話取っちゃったからなぁ、マズいなぁ……。


 そして、すぐにその答えは返ってきた。


『あのね、私!覚えてる!?アラスカラッコ!』


 アラスカラッコ。その名を聞いて、ダラダラと電話に当たっていたナウが飛び起きる。


「ひ、久しぶり!むしろ僕のこと覚えててくれたの?」


『もちろん!お宝王があなたみたいな可愛い人忘れるわけないじゃない!考えてみたら名前知らないけど!』


 あれ、こんな娘だったっけ……?


 アラスカラッコ。

 彼女とナウが出会ったのは昨年の夏だ。トキとツチノコ、ナウの三人で海に遊びに行った際に、スイカ割りをしたいのにスイカがどうしても割れないという問題に立ち向かっていたトキ達に手を貸したのがアラスカラッコだ。(夏編五話)

 アラスカラッコは野良としてフレンズ生を満喫している。洞窟暮らしだった頃のツチノコと同じようなものだ。そんな彼女に、ナウは「困ったことがあったら連絡してね」と、小銭と自分の電話番号を渡したのだった。そして今、その電話がかかってきた。


「いやー、会ったのもう一年以上前だったからさ?で、何かご相談?」


『わははっ、私はそんな悩まないタイプだからそうじゃないよ!相談というか……助けてほしいというか……』


 急に弱気な声になるアラスカラッコに、ナウが心配そうな顔をする。電話でそれが伝わるわけではないが。


『……なんか今日、浜辺に変なのがたくさんいて怖いんだよ~〜!!!なんで!?なんで夏でもないのにこんなにヒトがいるの!?助けてよ〜〜!!!』


 ナウはそれを聞いて、ほぁあと変なため息をつく。彼女には50円しか渡してないから、電話できる時間は極わずかだ。丁度、最低限の仕事も終わった。


「っあ〜〜……行く、そっち行くから待ってて?」





 ビーチ。夏でもないのにやたらと賑わっている。

 が、そこにいるのは水着のヒトやフレンズなどではない。お化けの格好や、お化けには関係ない仮装、普通のヒトの格好をしたアニマルガールやアニマルガールの格好をしたヒトなど様々だ。


 普段は海の波に揺られているアラスカラッコも、この人々の波に揉まれてクラクラしている。そんな彼女をナウが見つけ出せたのは幸運だった。


「飼育員さん久しぶり〜!」


 アラスカラッコとナウは出会うなり抱擁を交わし、ハロウィンのお祭り騒ぎから少し離れた、静かな雰囲気のカフェに避難した。ラッコはこの時期になっても水着で、見ていて寒々しいのでその辺で上着を買って着せた。


「で、なんでこんなに変なのが沢山なの?ヒトってよくわからない……」


「僕もそう思う。ヒトってよくわからない……」


 二人でコーヒーを啜りながらそんなことを話す。ラッコはどこかでコーヒーの味を知ったらしく、好きなんだと話していた。ただ、ミルクとガムシロップを大量投入していたが。


「おかしいなぁ……私が知ってるコーヒーってこんな苦くないのに……黄色と黒の入れ物に入ってるやつなんだけど……」


 もはやコーヒーではないコーヒーを挙げられてしまってナウは苦笑い。甘いコーヒーに苦笑い。

 ちなみに、アラスカラッコはハロウィンの説明をナウから聞いて苦笑いしていた。


「でも、楽しそうだね」


「そうね〜、私は若くないからやろうと思ってもできないけど」


「若くないとできないの?」


「ヒトにも色々あるのよラッコちゃん……」


「わははっ、大変だね」


 そんな話をして窓の外を見れば、仮装をしたフレンズやヒトが楽しげに歩いている。


「そういえば、あの二人は?可愛い二人」


「トキちゃんとツチノコちゃん?知らないけどあの二人も遊んでるんじゃないかな?」


 もしくは問題行動を起こす輩が出ないかパトロールとか警備してるか。そんなことをぼんやり考えながらコーヒーカップを傾ける。それと同時に鳴る、入店時のベル。


「ひゃー、人多い!」


「去年より盛り上がってますね……ちょっと息苦しいです」


 ナウにとっては聞きなれた声。ラッコにとっては印象に残っている声。噂をすればなんとやら。


「あれあれ、トキちゃんとツチノコちゃんじゃん」


「お?久しぶり!私のこと覚えてるかな?」


 手を振るラッコとナウ。


「へ、ナウさん!?……と、確か……」


「ラッコ?なんでこんな所に」


 意外そうな顔をするトキとツチノコ。





「いやー、ツチノコちゃんの仮装気合い入ってるねぇ!」


 ツチノコの仮装は悪魔だそうだ。いつものフードの黒バージョンに、ヒラヒラとした黒い服。真っ黒な翼を背中に生やしている。


「デビルツチノコです!どうですか!?」


「トキちゃんが作ったの?」


「そうですよ!力作です!」


 可愛らしい悪魔衣装を身にまとって若干恥ずかしそうなツチノコの横で胸を張るのトキ。


「ツチノコちゃんは可愛いけど……トキちゃんはなにしてんの?」


「元々仮装するつもりなかったんで、急きょ……」


 トキはいつもの服。に、プラスして首に包帯を優しく巻いてあるだけ。


「トキのフレンズの仮装するミイラの仮装です」


「うーん?トキちゃん時々よく分からないこと言うね」


 そんなやり取りを眺めていたアラスカラッコが、ツチノコにぽんっと問う。


「……ほしい」


「へ?」


 ラッコが勢いよく立ち上がる。ツチノコの肩を掴む。


「かわいい!欲しい!」


 お宝王アラスカラッコ復活の瞬間である。

 ナウは唖然。ツチノコは困惑。アラスカラッコはニコニコ。


 トキは?


「うふふ、すっごいわかります!欲しくなっちゃいますよね!」


 めっちゃ笑っていた。

 ナウは唖然。ツチノコは困惑。アラスカラッコも困惑。トキはサラッとツチノコの肩を掴み、ラッコから引き剥がして連れ戻す。


「はい、ツチノコ!Trick or Treat!」


 急にそう問われたツチノコは目をぱちぱちさせる。


「お、お菓子持ってない……」


「あら?可哀想……じゃあ私がお菓子あげますね!」


 そう言って、トキはポケットからチョコレートを一粒取り出す。それを、自分の口にヒョイ。


 その口で、ツチノコにちゅっ。


 ツチノコが驚いているうちに、有無を言わさずチョコレートをツチノコの口にねじ込む。


「はい、イタズラも兼ねてです!」


 トキがツチノコに眩しい笑顔を向ける。ツチノコは顔を真っ赤にしながらその場にへたへたと座り込む。そのまま口をもぐもぐ。


「でもラッコは諦めてください!それでは!」


 トキは笑顔を絶やさず、ツチノコの手を引いてそそくさと店を出ていく。ナウは唖然。アラスカラッコも唖然。


「……ああいう子達なんだよ……ラッコちゃん、世界は広いって知れてよかったね」


「……お宝だね……」





「ねえ、ねえトキ」


 ツチノコがそう言うまで、トキはツチノコの手を引き続けた。もうハロウィンの喧騒が聞こえないくらい遠くまで来てしまった。


「なんですか?」


「私たち、カフェで何も飲まなかったな」


「あ……お店の人には申し訳ないことしちゃいました」


「なんでまたあんなことを……」


 立ち止まってそんな会話を交わす。急に、トキがツチノコの腕に両手を絡みつかせた。ぎゅうっと力を込めて、頬をツチノコの肩に擦り寄せる。


「なんだか、怖くなって」


「……? どういうこと?」


「……いや、なんでもないです」


 そう言ってトキは腕を離す。普通に手を握り、指を絡ませる。


「帰りましょう?」


「……そうするか」


「……なんか、ハロウィンっぽいことできませんでしたね」


「いいんじゃないか?別に」


「そうですね」

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