第42.5話 汗とにおいの日

 八月にも入り、暑さも本格的なものになった。

 それでもトキはツチノコの腕に絡みついて寝るという日課をやめなかった。


 当然、暑い。


「なぁトキ、ちょっとそれ暑くないか……?」


 ベッドの上で、するりとツチノコの腕に自身の腕を回すトキにツチノコが訊いてみる。


「あ、ごめんなさい……ツチノコは寝苦しいですよね」


 トキが腕を離す。しゅん、という音が聞こえてきそうなほどのトキの落ち込み方に、ツチノコが慌てて言葉をかける。


「いや、こんなこと言ったらアレなんだけど……」


 トキはツチノコの腕に密着して寝る時、ただ腕を絡めるだけではなくおでこを擦り付けたり頬ずりをしたりする。ツチノコはそれを気にしていた。


「あの……汗、臭わないかなって……」


 ツチノコが珍しく顔を赤く染める。その様子を見て、トキがツチノコの体に顔を近づけ、すんすんと鼻を動かす。


「へ、あ、トキ……?」


 すんすん、くんくん。腕や胸だけでなく、腋や髪などもくまなく嗅ぐ。ツチノコはみるみる顔を赤くさせるが、抵抗はしないでひたすらトキに嗅がれていた。

 そして、一通りチェックし終えたトキが一言。


「ツチノコは汗もいい匂いがしますね?」


「……トキの変態……」


「ツチノコに言われたくはないですよ」


 短いやり取りの後で、トキがまたツチノコの腕に絡みつく。流れるようにツチノコの耳元で、こそり。


「熱帯夜ですけど、もっとあつくしちゃいますか?」


「……」


「汗かきながらも楽しいかもしれませんね?」


「トキってば……」


 トキがツチノコのパーカーのチャックを下ろしてみても、ツチノコは抵抗しなかった。


 これは珍しく優位とれるかも、などと考えたトキだったが、普通に逆転されました。


 本日も平常運行、これが日常です。H常です。

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