第42話 七夕の日

※休止?知らん知らん!七夕だけは書かなきゃ行けない気がしたんだ!考えてみればまだこのネタ使ってなかったんだ!











「つ、ツチノコ……もう少しゆっくり……」


 七月七日。トキはツチノコにぐいぐいと手を引かれていた。あまりにツチノコが早足で歩くので、トキがついて行くのが辛くなり、弱々しく声をかける。

 すると、ツチノコがピタッと急に止まった。そしてトキがいるはずの後ろを振り向き、「ご、ごめん!」と一声。しかし、そこにトキの姿はない。


「大丈夫ですけど……何をそんな急いでるんですか?」


 斜め前から聞こえたその声に、ツチノコはまた振り向く。トキの手は掴んだままだ。どうやら、ツチノコが急に立ち止まったのでトキが勢いあまって前に出てしまったらしい。


「えっと……イベントがあって……」


「それでわざわざここに?」


 トキが首を傾げる。今二人がいるのはショッピングモール。フロアの廊下でツチノコがトキのことを引っ張っていたのだ。


「ツチノコがそういうのでアツくなるのは珍しいですね!なにがあるんですか?」


「えっと……あれ」


 ツチノコが遠くの方を指さす。トキがそちらに目線を向けると、笹が飾ってあるのが見えた。短冊が何枚も下がっており、近くの机で短冊に願いをかけるようになっているらしい。


「アレですか?」


 トキが不思議そうにツチノコの顔を見る。正直、早足になるほどのものでもない。ツチノコがそれを楽しみにするのはいいが、そんなに派手なものでもないのでびっくりしてしまったのだ。本当に短冊なのかという疑いまで抱いてしまう。


「あ、短冊じゃなくて、もうひとつ向こう」


 案の定、ツチノコが指したのはそれじゃなかった。


 もうひとつ向こう。またトキがツチノコに手を引かれ、そのブースに近づく。


 短冊の奥で開かれていたのは……


「織姫さまコスチューム……?」


「無料レンタル、写真撮ってもOK」


 ツチノコがキリッとした顔で、ただし目はキラキラに輝かせてそう言い放つ。


「詳しいですね?」


「下調べしたから」


 ツチノコが嬉々とした顔でカメラを取り出す。レンズが付いてる所を伸ばしたり縮めたりして、ちゃんと動くことを確認する。


「でも、やっぱり珍しいですね?ツチノコがあんなヒラヒラした感じのに興味持つなんて」


 着物のようなコスチュームだった。全体的にピンクで、花柄、袖はぶかっとした感じ。今は金髪でお耳がちょーかわいいフレンズが着ているようだ。てれてれとした顔を、灰色の丸い耳のフレンズに向けている。とても見覚えがある感じだが、二人で楽しそうなのでトキとツチノコは声をかけないことにした。


「でも、ツチノコ似合いますよ!前に試着したワンピースも可愛かったですし!」


 話はコスチュームに戻る。しかし、ツチノコは「へぁ?」と素っ頓狂な声を上げた。まだカメラを伸ばしたり縮めたりしている。


「じゃあなんで私がカメラ持ってんだ?」


「え……なんでって、それで織姫さまの服着た……あ」


 ツチノコが満面の笑みでトキにカメラを向けた。ツチノコが興奮気味にここに来たのはそういう意味かと察したトキは軽くため息を漏らす。トキ自身も、ツチノコがトキのことを大大大好きなのは知っていた。


「私を、撮るんですね?」


「織姫トキ……!!」


 ツチノコが着る気はないらしかった。





「じゃあ、お着替えするのでツチノコは待っててください」


「はーい」


 結構な列ができていたので、トキの順番が来たのはしばらく経ってからだった。トキがカーテンで仕切られた場所に消えたあと、ツチノコはその周辺をぶらりと散策しはじめる。


 ふと、笹に吊るされた短冊が目に入る。


(なんか書いとくか……)


 マジックを手に取り、キュッキュと音を鳴らし始めた。





 数分後、トキは先程のお澄まし狐みたいにてれてれしながらカーテンを出てきた。いつもの服と形が似ているからか、よく似合っていた。


「お、織姫さま……?」


「ツチノコ?私ですよ?」


「え、えっと……トキ……あの……美しい」


「えへへ、嬉しいですけど……なんか変な感想」


「だって美しい……」


 トキはてっきりツチノコから色んなポーズを要求されて写真を撮られるのかと思っていたが、そんなことはなかった。ツチノコがトキの姿に唖然としてしまい、幻でも見ているかのような顔でトキをまじまじと見つめていた。トキも満更でもなかったが、少し気まずくてツチノコに声をかける。


「私が織姫さまなんて、大変ですね」


「トキが織姫さまだったら、私は彦星?」


「ツチノコは女の子じゃないですか」


「いや、そうだけど……」


 そう言って、ツチノコは口を閉じる。顎に手を当て、俯いて何かを考え始める。そして、唐突に言い放つ。


「私、トキと一年に一回しか会えなかったら死んじゃう」


「あはは、大袈裟ですね?」


 ツチノコが大真面目な顔でそういうものだから、トキは笑ってしまった。織姫と彦星は、なんやかんやあった罰として七夕の日にしか会えなくなってしまったのだ。愛し合う仲なのに。その事を考えると、トキも笑っていられなくなった。


「……私も、ツチノコと会えなかったら死んじゃうかも……」


 ぼそっとした一言だった。妙にしんみりとした気持ちになってしまい、トキは意識していなかったが、とても悲しそうな顔をしていた。


「……トキ、織姫さましてくれてありがとう」


「もう普通のトキに戻っていいですか?」


「もちろん」





「トキだ、織姫トキじゃなくてトキだ!」


「え、えーと……」


 いつもの服に戻ったトキの腕に絡みつくツチノコ。ぎゅーっとくっついて離れない。トキは少々困惑してしまったが、織姫のことを考えるととても幸せだと感じる。


「お買い物して帰りますか」


「うん!」


 ゆっくり歩いて、織姫コスチュームのブースから離れていく。ふと、通り過ぎようとしている短冊コーナーにトキは目を向けた。


 様々な短冊。


『私の気持ちに気づいてほしいのである』

『生まれ変わったらパン屋さんを』

『王子様が振り向きますように』

『どうか僕にイイ男を』

『先輩がピュアなパン屋さんになれますように』

『新人ください』


 たくさんの願い事が並ぶ中に、見覚えのある文字を見つけた。達筆ではないが、シンプルで読みやすい文字。愛する人が綴る文字。


『ずっと幸せでいられますように』


 試しにツチノコに問いかける。


「幸せってなんでしょうね?」


「……私はトキと一緒なら」


「じゃあ、ずっと一緒にいましょうね」


 きゅっ、とトキからもツチノコに絡みついた。

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