第40話 着せ替えっこの日~つづき~

 ツチノコが目を覚まして数時間後。

 トキも既に目を覚まし、いつも通り家事に勤しんでいた。ただし、着ているのはツチノコのパーカー。相変わらず下着が半分くらい見えている。


「トキ、そろそろ服戻さないか?」


 ツチノコは洗濯物を畳みながらそんな提案をする。しかし、トキは首を横に振るのだ。こんなやり取りを既に五回ほど繰り返した。


「ツチノコの匂いが心地よくて……」

「着てて気持ちいいので……」

「なんだか幸せな気持ちになれて……」


 などと、毎回違った理由をつけてトキは服を脱がない。ツチノコとしてもトキの服を着ているのは楽しかったが、ヒラヒラがどうも慣れなくて正直いつものパーカーに戻りたかった。しかし、


「ツチノコは私の服だと嫌ですか……?」


 と、腕に抱きつかれてしまってはツチノコも弱る。ヒラヒラが慣れないのもあるが、性欲を刺激する格好をしたトキが視界にチラチラ入るのと、常にトキの可愛らしい香りがするのがどうも耐えられない。発情期に入ってしまったのかと錯覚するほどにツチノコはムラムラしていた。

 それではいけない、とツチノコは今すぐにでもいつもの状態に戻したかったのだが、先述の通りトキがそれを拒む。


「そんなに気に入ったか?」


「はい!私用に一着欲しいくらいです」


 トキが笑顔でそう言った。それを聞いてツチノコはふと思い出す。そういえば、ずっと前に話したっきりしてなかったなぁ、などと。


「……トキが欲しいなら、もう一着やるか?」


「……どういうことですか?」





「じゃあ、絶対見るなよ?」


「ホントに見ちゃダメですか?すごく気になるんですが……」


「な、なんか恥ずかしいんだって!」


 数分後。ツチノコはトキからパーカーを返してもらい、いつもの服装になった。トキはツチノコが脱いだ服を着ることはなく、お風呂上がりのようにバスタオルを体に巻きつけていた。


「じゃ、ちょっと待ってて」


 バスタオル姿のトキを廊下に残し、ツチノコは脱衣所に入ってその扉をゆっくりと閉めた。ふぅ、と一息ついてから作業を開始する。


「地上に出てから初めてだから、相当久々だな……」


 そんなことをつぶやきながら、今着ているパーカーを軽くチェックする。所々に綻びや汚れがあり、そこそこの期間お世話になったなと思いを馳せる。


「じゃ、やるか」


 まずはフードを下ろす。いつも被りっぱなしだが、今は特別だ。そして、深呼吸。意識を集中さて、自分に暗示をかけるように心の中でとあることを念じる。しばらくして、全身にモソモソとした感覚がまとわりついてきた頃に、パーカーのチャックを下ろさずに袖から腕を抜く。


「とりあえず成功した……かな?」


 そのまま、モゾモゾと体をくねらせたり手で引っ張ったりしながら、パーカーの肩に当たる部分を下にずらしていく。少々無理矢理な脱ぎ方をしているので、チャックが勝手に開いていき、徐々に体が通るようになってくる。


 そのまま、頭を出す部分から肩、腕、胸、腹、腰と順番に体を出していく。最終的に、スポンと足の先からパーカーが脱げた。


「……よしっ!」


 その場に残ったのは、ツチノコが無理矢理脱いだので所々伸びたパーカー。そして、新品のようにピカピカのパーカーを身にまとったツチノコ。


 脱皮。


 節足動物や、爬虫類などがするアレである。フレンズ化した爬虫類の動物も、意識すればそれが可能である。詳しいことは研究中だが、強く念じることで衣服を再生成し、古い衣服を脱ぎ去ることで擬似的に脱皮ができるのだ。実験上では脱皮をしない動物でも可能だったらしいが、思い込みなどが関係するのか爬虫類や両生類かつ、野性味の強いフレンズで成功しやすいらしい。


 そんなことはツチノコ自身も知らないが、洞窟暮らしの頃に何度も脱皮を経験していた。洗濯の文化がなかったので、破れたり酷く汚れたりしたら脱皮をしてパーカーを新調することでしのいでいたのだ。


「久々にやってみてもできるもんだな」


 新しいパーカーのフードを被り、満足そうに頷くツチノコ。足元に落ちている古いパーカーを拾って、脱衣所のドアに手をかけた。そして、ふと気づく。


 しっかり閉めたはずのドアに隙間がある。


 もしやと思い、恐る恐るドアを開ける。


 隙間から、少しずつトキの顔が出現する。


「……見ないでって言ったよな?」


「……言ってました」


「恥ずかしいって言ったよな?」


「……ごめんなさい」


 何故なのかはツチノコ本人もわからないが、脱皮を見られるのがたまらなく恥ずかしいのだ。だからトキには見るなと念を押していた。しかし、トキはそれを破ってドアの隙間から見ていた。


「……」


「……」


 無言で見つめあう。申し訳なさそうな顔をするトキはやはりバスタオル姿だ。ツチノコはその手を乱暴に掴み、ぐいっと脱衣所に引き込む。トキが小さく悲鳴をあげたのには特に反応せず、トキの代わりに古いパーカーを廊下に投げ出した。そして、ドアを閉じる。


「本当は、トキに脱いだ方のパーカーあげようと思ったけど」


「ご、ごめんなさい」


「ちょっとおあずけだな」


 トキはへたりとその場に座り込む。ツチノコがギラッとした獲物を狩る時のような目をトキに向ける。


「どうしても脱皮の仕方が気になって……」


 ツチノコが一歩トキに近寄る。トキが座ったまま後ずさりする。しかし、すぐに背中が壁にぶつかった。


「でも私は『見るな』ってちゃんと言った」


「ほ、本当にすみません……」


 ツチノコがトキのバスタオルに手をかける。


「お仕置きが必要だよな」


 ツチノコがニイッと笑った。









「え、ツチノコ、まだお夕飯も済ませてないのに、ちょ、そんなに乱暴に脱がさないで……へぁ!?そんな急に、あ、あ……♡」


 本日も平常運行、これが日常です。

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