第30.5話 ちょっとお買い物の日

「じゃあ私、夕飯の買い物してくるよ」


「はい、メモに書いた通りお願いします!」


 買い物袋を下げて玄関を出ようとするツチノコに、トキが小さなメモ書きを渡す。買い物は当番制でやっているし、二人で行くこともあるのだが料理はトキの仕事である。だから、ツチノコが買い物の時はトキがその日の献立に合わせてメモを渡すのだ。


「この材料だと・・・カレー?」


 ツチノコが受け取った紙切れを眺めて、トキに問いかける。


「そうですよー!」


「お、お手柔らかに・・・」


「何がですか?」


「辛さ・・・」


 トキが、そんなに辛くはしないと手を振りながら笑う。ツチノコも笑って返すが、いつもひいひい言いながら食べている自分を脳内に浮かべると今回もそうだろうと言う気がしてきた。でもなんだかんだ、辛くても美味しく食べるのだ。


「帰り道に見たい店があるから、少し遅くなるかも」


「わかりました!」


 そんなやり取りの末、やっと「いってきます」と「いってらっしゃい」をする。玄関がしまった直後、ツチノコが駆け始める。いつもはゆっくり歩くところだが、今日は大急ぎだ。


(ショッピングモールって意外に遠いからな・・・頑張らなきゃ)


 理由はもちろん、トキの誕生日プレゼント購入のためである。急いで行って、急いで帰ってこないと不自然な時間になってしまうのだ。


(やっぱりあげるなら腕時計かな?私も欲しいけど・・・トキが喜んでるのを見れた方がいいな)


 ツチノコが、サプライズでじゃーんと腕時計を渡す。トキが、両手を合わせて、羽をパタパタさせながらそれを喜ぶ。


 笑うだろうか?トキだから、嬉し泣きしてくれるかもしれない。


 そんなことを考えていると、ツチノコの方がニコニコしてしまった。





(さて、ツチノコも行きましたね・・・)


 ツチノコが出た直後、トキは家を出る支度をしていた。ツチノコが家の前にいないことを確認して、トキも家を出る。


(チャンスは今くらいですかね、行っちゃいましょう!)


 バサッ、とトキは自身の羽根を動かす。靴が地面からゆっくりと離れていく。トキが数十センチ浮き上がった状態ができあがったところで、一気に上空まで飛び立った。


(サッと行って、サッと買ってきましょう!)


 向かう先はショッピングモール。もちろん、ツチノコのために腕時計を購入するためだった。





 一時間後。

 ツチノコは、ニンジンやら何やらが入った買い物の袋をぶら下げて道を歩いていた。もう片方の手には、小さな紙袋も下げている。トキにあげるための、大切なものが入っていた。


(・・・喜んでくれるよな)


 その顔を想像して、つい尻尾が揺れる。頬をパチンと両手で叩き、自信のニヤけた顔を直した。そうすると、別のことをふと思い出す。


(でも残念だな。また今度私の分が買えれば、色違いで同じやつ持てたのに)


 さっき、この時計を買った時のこと。ツチノコがトキへ買った時計は、もともとツチノコが気に入ったものの色違いだった。昨日、トキが「これもいい!」と言っていたやつだ。それは無事に購入できたのだが、隣にあったはずのツチノコが気に入った時計がガラスケースから消えていたのだ。つまり、もう売れたのだろう。


「おそろいもよかったのになー・・・」


 ちょっぴり残念だった。





 その頃、トキは家の中をうろうろしていた。手には、ツチノコが今下げているのと同じ紙袋。先程、ショッピングモールまで飛んで買ってきたのだ。そして今、それをどこに隠しておこうかと悩んでいる。


「うーん、キッチンに置いておくわけにはいかないし・・・クローゼットだと見つかっちゃうかもしれませんしね?どうしましょう」


 最終的に、寝室のクローゼットの裏にすることにした。ホコリがないことを確認して、左側からそっと置いておいた。





「ただいま」


「おかえりなさい!」


 ツチノコが帰ってきたのを、トキは出迎える。ツチノコは自分の背に時計の袋を隠して家に上がった。


「買ってきたもの、これで合ってる?」


「んーと、バッチリです!」


 トキが買い物袋の中をチェックして、それを台所に持っていく。ツチノコは、トキにトイレに行ってくると告げて廊下に出た。そして、紙袋を背中からお腹に持ってくる。


「どこに置いておこうかな・・・」


 ふと、寝室のクローゼットの影を思いついた。最近掃除したばかりだから、トキもそこを見ることはないだろう。早速寝室に上がり、クローゼットの右側から紙袋を置いておいた。


「これでよし!」


 やっぱり、無意識に尻尾が動いてしまった。





 その頃、トキもカレーの準備をしていた。その時考えていたのは、時計のことだった。


(ツチノコ、どんな風に喜んでくれるでしょうか)


 満面の笑みで、尻尾で地面をはたくかもしれない。もしくは、照れて顔をフードに隠してしまうかもしれない。


 トキの羽がパタタと動く。


「トキ、なんか嬉しそうだな?」


「わっ!?ツチノコ、いつの間に横にいたんですか?」


「ふふふ。なにかあったか?」


「いーえー?何もー?」


 本日も平常運行。これが日常です。

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