第30話 リサーチの日

 とある休日、トキとツチノコはショッピングモールに足を運んでいた。二人でデートしようということになったのだ。


(今日でトキが欲しいもの見つけよう・・・)


(ツチノコはお誕生日に何がいいんでしょうか?)


 と、言うのも二人ともここに来る目的はあった。もう数日後に控えた自分とパートナーの誕生日に、プレゼントするものを探しに来たのだ。これだけ物がある場所なら、「これ欲しい」という言葉は出てきてもおかしくない。それを把握しておいて、後日買いに来ようという魂胆だった。


 二人とも、考えていることは一緒だった。しかし、どちらも鈍感な部分があるので相手が考えていることは全く想像しない。


「ツチノコは見たいお店ありますか?」


「そうだなー、先にトキが見たいところでいいかな」


「あ、それじゃあ・・・」


 そんな会話をしながら館内図が描かれたパンフレットを手に取り、店の奥へと歩き始めた。二人並んで歩くのに、肩がやけに近いので手と手が軽くぶつかる。そのまま、顔を合わせずにツチノコがトキの手に指をひっかけた。


 きゅっ。


 はぐれないように、ちゃんと手を繋いで。





「トキが見たいのって、ここ?」


「はい!」


 二人で手を繋いでやってきたのは、服屋。ショッピングモール内の店舗なので、たくさん物が置いてあるわけではないがかわいい服はたくさんあった。


「トキ、服が欲しいのか?」


「いえ、そんなに欲しいわけでもないんですけど・・・でも、これからの季節あったら便利そうですし!」


 ツチノコがきっちり確認を入れるが、トキの答えは否。誕生日プレゼントとしてあげるのはないな、とツチノコの中で確定して、トキが店内をうろうろ歩き回るのについて行く。


「ツチノコは欲しいお洋服ありますか?」


「うーん、ファッションとかわからないからなぁ」


 ツチノコが頭を掻きながら答える。すると、トキが歩くのをやめ、ツチノコの方を振り返ってこう微笑んだ。


「ツチノコは美人さんだからなんでも似合いますよ?」


「トキだって可愛いから、何着ても良さそうだけどな」


 ツチノコも即座に返す。二人で服選びをしても、お互いのことを褒めることしかしないのでなかなか本当にいいものが見つからない。しかし、間違いなく二人の目にはパートナーが何を着るのも素敵に映っているのだ。


「そういえば、このフレンズの服ってどういう原理でできてるんだろうな」


「さあ、難しい話はわからないです」


 そんな話をしながらも、トキは既に何着か服を手に取っていた。そして、笑顔でそれをツチノコに渡す。


「ツチノコ、着てみてください!」


「え、ええ〜?私こういうヒラヒラしたの似合わないと思うけどな」


「私はツチノコのヒラヒラも見たいですよ?」


「う〜、じゃあ着るだけ・・・」


 ツチノコはしぶしぶ試着室に入っていく。トキは、ツチノコが出てくるのをワクワクと待つことにした。





 シャッ、と試着室のカーテンが開く。ツチノコがトキから目を離し、赤面した顔を隠そうとフードを深く被ろうと頭上で手を動かした。しかし、残念ながら今はそのフードもない。手は空振りするだけだった。


「やっぱり、ツチノコ可愛いじゃないですか!」


「お、落ち着かない・・・」


 トキが渡したのは、白のワンピースと茶色のカーディガン。世間一般での「似合う」に属するのかはわからないが、少なくともトキの目にはとても可愛らしく映った。


「それでそれで!ツチノコってヘアピン持ち歩いてましたよね!」


 ツチノコのパーカーのポケットをまさぐるトキ。黒いヘアピンを一本取り出してツチノコに一歩近づいた。ツチノコは、ナウにもらったヘアピンを携帯しているのだ。使うことはなかなかない。過去に使ったのは、一日限定おでこ露出トキを作る時だけだ。


「はーい、髪留めますよー?」


「わわ!?そ、それも恥ずかしい・・・!」


 トキは少々興奮した様子。ツチノコの微力での抵抗を無視して、その若干鬱陶しそうな前髪を横に避けてしまった。おでこが綺麗に見えるようになる。


「うーん?髪留めはあってもなくてもいいですね?」


「もう!私が恥ずかしい思いしただけじゃん!」


「ツチノコは可愛いから恥ずかしくないですよ」


「〜っ!!ぬ、脱ぐぞ!」


「照れてるんですか?」


 トキが訊いてみたが、ツチノコは答えないでカーテンを閉めてしまう。そこから三十秒くらいで、元のパーカーに戻り、試着した服を綺麗に畳んで出てきた。相当な早業である。


「トキは時々いじわる・・・」


「い、意地悪じゃないですよ!ツチノコに似合うと思って・・・大体、ツチノコも時々意地悪ですよ!」


「あれ、バレた?」


 そう言ってにへらと笑うツチノコは、既に何枚か服を抱えていた。それを、トキに押し付ける。


「はい、トキの番!」


「へ・・・?はい、わかりました」


 トキはすんなりと試着室に入る。そして、ツチノコから受け取ったものを全部広げてみる。


 白い、レースの袖の服。袖と胴の長さが合っていない、これでは袖が普通のサイズとして着てもお腹が見えてしまう。そして、デニム生地のホットパンツ。めちゃくちゃ短い。お尻が少しはみ出しそうだ。


「あのー、ツチノコ?これ、私にサイズ合ってないかも・・・」


 カーテンからひょっこり顔を出して、トキが外のツチノコに声をかける。すると、ツチノコは大して表情を変えずに淡々と答えた。


「敢えて一回り小さくはしたけど」


「ええ!?普通のに替えてくださいよ!」


「大丈夫だって、着てみて」


「くぅ〜・・・」


 トキが試着室に戻り、自分の服を脱ぎ始める。ツチノコに受け取ったものを着てみると、やっぱりお腹が涼しい。バッチリおへそが見えている。ホットパンツのお尻問題はトキ自身じゃ確認できなかった。ついでに、少しサイズが小さめなので胸が強調されてしまう。


 カーテンを恐る恐る開く。ツチノコがそれを見て、感心したように拍手してくれた。


「似合ってます・・・?」


「うーん、流石にちょっと小さすぎたかな・・・?私としてはベストだけど、あんまり他の人に見られたくないかも」


 顎に手を当て、首を傾げながらツチノコが言う。クールな表情だが、鼻血が垂れているので台無しだった。トキは羽をバサリと動かしながら、ツチノコに抗議する。


「一番見られたくないのは私ですよぅ!」


「私もダメ?」


「・・・ツチノコなら、別に・・・」


 今度は急にしおらしくなる。羽をパタンと寝かせ、顔を赤くしてツチノコから目線を逸らした。


「かわいいな?」


「もう、上手ですね・・・」





 結局、服は買わなかった。どっちも、本人が着るのに抵抗があったのが原因である。


 次の店に向かう途中、トキがトイレのために少しツチノコと離れることになった。ツチノコはその場で待つことにしたが、退屈なので近くの売り場のものを見ていた。


「・・・少し欲しいな」


 ツチノコは自覚していなかったが、顔つきは真剣になっていき、人目を気にせずにその商品を食い入るように見た。そこそこのお値段に、喉の奥から変な唸り声が出そうになる。


「ツチノコ、何見てるんですか?」


 そんなトキの言葉が聞こえて、ハッと我に返った。今まで自分がしていた事を少し恥ずかしく思い、慌てて歩き出す。


「ななな、なんでもない!」


 口には出したが、トキにはなんでもなくないのがバレバレである。ツチノコは急いでトキの手を引くも、トキはちらりとツチノコが真剣に眺めていたものを確認してしまった。


(バストアップブラ・・・)


 ツチノコが慌てて歩くので、トキの歩く速度も自然と早くなる。


(気にしてるんですかね?でもお誕生日プレゼントって感じじゃないなぁ)


 トキが一瞬だけ、ツチノコよりも早く歩く。それで二人の肩が並び、やっとツチノコもゆっくり歩くようになった。


(揉んであげたりした方がいいのかな・・・)


 ツチノコに目線を送ると、恥ずかしそうにうつむかれてしまった。なので、トキはにっこり笑って言葉を発する。


「何見てたんですか?」


「いや、ちょっとね・・・動きやすそうな下着」


「ふうん?」


 ツチノコがほっとした顔を見せたので、トキもほっとする。ツチノコは、トキに何を見ていたのかをバレてないと思ってるらしい。トキは、今日のお風呂で少し試してみようなんて考えていた。





 途中、向かっていた店とは違う場所でツチノコが止まる。見てみたいとの事だったので、二人で高級感があるそのブースに足を踏み入れた。


「腕時計のお店なんて初めてです」


「私も。こうやって色々見ると、キレイだよな」


 入ったのは腕時計専門店。どこかのブランドの店舗という訳ではなく、色んなブランドのものを揃えているようだ。


(高くても三万円とすこし・・・私でも買えそうですね。ツチノコが気に入ったのがあれば・・・)


 様々な形の腕時計に、ツチノコはキラキラとした目線を向ける。


「ツチノコはどれが好きですか?」


「うーんと、どれだろう・・・これ、かな?」


「あら、綺麗ですね?」


「うん、トキは?」


「他に気に入ったのがあったんですが、ツチノコと同じのが好きになっちゃいました。でも、色はこっちの方が好きですかね」


「はは、でも何の記念でもないのにこんな高いもの買えないな」


「そうですね?見送りましょうか」


 そんなやり取りをして、ブースを出る。二人とも、バッチリ把握した。





 その後もいろんな場所を回り、ショッピングモールを出る。結局、ツチノコの口から「欲しい」という旨の言葉が出たのは時計だけで、トキも同様だった。


((明日あたり買いに来よう))


 そんなことを、お互いの顔を見つめながら考える。そうすると、当然目が合うので二人で笑った。


「どうしたんですか?」


「トキこそ。どうした?」


「いいえ、なんでも!」


「ははは、私も」


 本日も平常運行、これが日常です。

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