第28話 ホワイトデー。の、次の日

 ワイワイ・・・ガヤガヤ・・・


 テレビの音声が賑やかな中、ソファの上で、トキは隣にある自分のものでは無い肩に自身の頭を乗せる。そのままスリスリと頬やら耳やらを擦り付け、それに巻き込まれた白い髪が乱れていく。


 ツチノコは、自身の肩に乗せられた愛する人の頭の重みと温もりにくつくつ笑う。そして、重みがない方の腕で白い髪と羽をくしくし撫でる。


「なぁ、トキ?」


「なんですか?」


 そのやり取りの間にも、トキはスリスリ、ツチノコはくしくし。しかし、ツチノコの目線はテレビに向いていた。なんでもない、ただのバラエティ番組が流れている。


「私気づいたんだ」


「はい?」


 ツチノコの言葉に、トキが頭上に疑問符を浮かべる。それとほぼ同時に、ツチノコは目線をテレビからトキに移す。トキと目が合ったツチノコの表情は少し引きつっていて、でも嫌な感じはしない、なにか申し訳なさそうな苦笑いだった。


「最近、ホワイトデーの特集が多かったじゃん」


 テレビについての話題。トキは肯定の返事をする。


「今日、朝からひとっつも特集やってないじゃん」


 もう一度、トキが肯定。


「・・・もしかして、ホワイトデーって昨日?」


 今度はトキの返事なし。ツチノコは相変わらず苦笑いだが、トキの表情がみるみる変わっていく。ハッとした表情だ。


「そうだ!そうですよ!ホワイトデー昨日です!」


「あはは、すっかり忘れてた」


「ふぇぇ、せっかくツチノコに手作りバレンタイン貰ったからお返し頑張ろうと思ってたのに〜・・・ごめんなさい・・・」


「いや、私も忘れてたから。私もトキにお返ししたかったな・・・」


 残念そうにツチノコが言った。当然、トキもツチノコもホワイトデーのお菓子を用意していない。お返しするものがないのだ。


 だがしかし、何かを思いついたようですぐにその顔もやめた。そして、肩に乗っているトキの頭に手をかけて、姿勢を変えてツチノコ自身の頭をそこに近づける。自分の唇が、相手に重なるように。


 ふに。


 効果音を付けるならそんな感じで、ツチノコの頭をは動きを止めた。しかし、その唇は空気にしか触れていなかった。代わりに、ツチノコの頬にトキの手が当てられている。トキの手で、ツチノコはキスを拒まれたのだ。


「・・・ダメ?」


「だから、そんなにチュッチュしてたらありがたみがなくなっちゃいますよ!少し控えましょうって!」


「ここぞというタイミングのつもりだったんだけどな。ホワイトデーのお菓子替わりにって」


「むー、ツチノコはイケない子ですね」


 ツチノコがため息をつきながらトキに近づけた顔を離す。不機嫌そうに、尻尾でソファをぺしぺし叩き始めた。


「・・・そんなにちゅーしたいですか?」


「・・・いい、トキが嫌ならいいもん」


 ツチノコはトキがいない方に顔を向けてしまう。フードのせいでトキからその顔は見えなくなり、ツチノコの視界からもトキは消える。


「ツチノコがそんなにしたいなら、一回くらいなら・・・」


「いい、ありがたみがなくなっちゃうだろ」


「ホワイトデーのお菓子替わりにいかがですか?」


「トキってばイケない子」


 ツチノコが、普通にソファへ腰掛けていた姿勢から、脚を片方ずつ持ち上げて、その踵をソファの上に乗せる。そして膝小僧をキュッと胸に近づけて、体育座りになる。尻尾は相変わらずソファを叩いている。


「もう、ツチノコはキスしたいんですか?したくないんですか?」


「・・・こっちのセリフ」


 トキは軽く頬を膨らませて話しているが、その顔はツチノコから見えない。でも、ツチノコの声が震えているのはトキにもしっかりわかった。


「私はトキが控えたいって言うから我慢してるのに、そんな後から変えるのずるい・・・」


「だって、ツチノコがあんまりしたそうなんですもの」


「私はいっつも本気でしたいと思ってるのに、そんな言い方ないだろ」


 ツチノコが発した言葉に、トキはその羽をピクリと反応させる。トキからしたらいつも通りの会話だと思って話していたが、そうではないらしい。だから、素直に次の言葉が出てきた。


「ごめんなさい」


「・・・?」


「私、ツチノコのこと考えないで色々言っちゃってましたね?ごめんなさい、傷つけるようなこと言って」


「・・・別に。私も、変に拗ねたし」


「キス控えるの、やめましょうか?」


「それはいい、トキがありがたみを大事にしたいならそれでいい」


「・・・でもやっぱり、今日くらいはキスしてもいいですよ?」


「いいよ、また今度でも」


 ツチノコはまだ拗ねたような姿勢でいる。しかし、ソファを叩いていた尻尾は横に揺れていた。


 それを見て、トキは立ち上がる。台所の戸棚から、「ジャパリスティック」を取り出した。プレッツェル型のお菓子で、パークでフレンズを中心に人気がある。その箱を持って、トキはツチノコの前にしゃがみ込んだ。トキが見たツチノコは涙目だった。


「ツチノコ、家にあったやつですけど、ホワイトデーとして」


 トキが箱を開封し、中の小分けの袋から細長いプレッツェルを取り出す。その端を咥え、もう片方の端をツチノコの口の方に差し出す。


「事故でキスしちゃっても知らないぞ?」


「いいですよ、事故ですもん」


 トキが咥えながら器用に返した言葉に、ツチノコは顔を輝かせる。目の前のプレッツェルを咥え、ポリリと少量だけ咀嚼する。すると、目の前のトキの顔がほんの少し近くなった。


 ポリリ。ポリリ。


 二人で時間をかけて一本を食べ終える。最後、思いもよらない事故が起きてしまったが二人とも気にしなかった。


 まだ、プレッツェルは沢山袋に入っていた。

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