第24話 節分の日

「ツチノコ?こちらは恵方巻です!」


 トキがじゃーんと披露するのは恵方巻二本。トキの分とツチノコの分。トキお手製である。巻きすは百均で買ってきた。


 本日は2月3日、節分の日である。


「おおー、美味しそう」


 ツチノコがぱちぱち手を叩く。そして、その手に持った方位磁針で方角を確認し、そちらを指さした。


「今年の恵方は向こうだな」


「わかりました!じゃあ、早速いただきましょう!」


 椅子を恵方を向くようにして並べ、それぞれ恵方巻を手にして座る。


「喋っちゃいけないんだよな?」


「ええ、絶対ダメですよ!」


「ん、了解」


 そんなやり取りの末に、二人でいただきますと手を合わせる。恵方巻を持っていたせいで挟み込むような形になったが、とにかく感謝の念は伝えたのでいいことにした。


 ぱり。新鮮な海苔を噛む音を最初に出したのはトキ。そのまま、はぐはぐと食べ進める。しかし、横のツチノコはまだ口をつけなかった。


「トキ?去年の節分に何やったか覚えてる?」


「・・・」


 トキは恵方巻を食べ始めてしまったので返事が出来ない。とりあえず、目玉だけツチノコに向けてしぱしぱ瞬きをした。


「覚えてなさそうだな?ふふ、絶対喋るなよ?」


 ツチノコが小悪魔的な笑みを浮かべて、恵方巻をかじるトキの頭にツチノコ自身の頭を近づける。そして、その口をトキの耳元に合わせてコソッと囁く。


「っ!?!?/////」


 何を囁かれたのか、トキの顔が急激に赤くなった。ツチノコはそのまま耳から口を離さず、トキはみるみる顔の赤さを増していく。


「〜〜〜っ/////」


「ほらトキ、喋っちゃダメ・・・な?」


 そう言いながら今度はほっぺにキス。


「あはは、かわいい」


 頭をナデナデ。そこまでして、やっとトキが恵方巻を食べ終えた。


「もーっ!何するんですかツチノコ!」


「去年やられた仕返し」


「去年・・・?私そんなことしましたか?」


「してた。ほら、悔しかったら私が食べる時もやってみるか?」


 ツチノコが恵方巻を口に持っていき、一口食べる。ぱりり、と海苔の破ける音。それに続くように、一口、また一口と食べ進めていく。


(さて、トキ・・・来るか?)


 トキがなにか仕掛けてくることを期待しつつ、ツチノコは前を向いて恵方巻をかじる。しかし、一向にトキが動く気配がない。


(どうしたんだろ・・・?)


 ツチノコがそう思っていた頃、彼女の視界の外にいたトキはまたしても赤面していた。


(ツチノコが太い棒を口にくわえて・・・美味しそうに・・・)


 なんかやらしーことを想像していた。


(ダメ!なんかそれはダメです!トキ、見ちゃいけません!)


 と、顔を両手で覆いつつも指の隙間からその様を見ていた。ちなみに鳥類はオスでもブツは持っていません。何故トキが恥ずかしがるのかというのは、フレンズになって身についてしまった知識からである。


(ああ・・・なかなか見られないですねコレ・・・)


 トキにはしゃぶらせるものが無いため、レアな光景である。ツチノコは素敵な尻尾があるので、そこそこ見ることもあるだろう。


 そのままトキからは何もせず、恵方巻タイムが終了。ツチノコは若干不満そうだったが、トキは万々歳であった。


「美味しかったですか?」


「うん、恵方巻美味しかった・・・」


 味はよかった。





「さて、お豆撒きますか」


「そうだな、掃除大変になっちゃうから家の中は玄関だけでいいかな?」


「そうですね・・・仕方ないです」


 玄関を開けると、夜の暗闇が目に入ると共に真冬の冷たい風も入ってきた。二人でくっついて暖を取りながら、袋の炒り豆を握りしめる。


「それっ!鬼はーそと!」


「鬼はそとっ!」


 パラパラパラパラ、と撒いた豆が地面にぶつかる音がする。その様子を見て満足し、扉を閉めた。


「福はーうち」


「福はうち〜」


 家の中に優しく豆を投げる。同じように、床と豆のぶつかる心地よい音がした。


「さて、お豆食べますか!」


「そうだな」


 リビングに戻り、二人で炒り豆を袋から数粒取る。それをトキがそれをポリポリ食べる間に、ツチノコはいくつかの豆をテーブルに並べてなにやら考え込んでいた。


「どうしたんですか?」


「・・・私たちって、何歳なんだろ」


 ツチノコの素朴な疑問。


「そういえば・・・私はナウさんに聞けばわかりますけど、ツチノコはどうなんでしょう」


「とりあえずトキが何歳かだけ聞いてみたら?」


「そうですね、電話掛けてみます」


 トキが電話機のボタンをポチポチ押す。やがて、コール音がトキの耳元の受話器から聞こえ、それもやがて止む。次に聞こえたのは、ナウの声。


「んー?どした?」


「もしもし?えと、私が何歳か知りたくて・・・」


「トキちゃんが?あー、節分だから・・・えっとね、少し待ってて」


 受話器からオルゴールのような音楽が流れ始め、ナウの声が聞こえなくなる。その間に、ツチノコがトキに声をかけた。


「どう?」


「今調べてくれてるみたいです、ナウさん覚えてくれてていいのに」


 そんな会話をしてるうちに、ガチャっと受話器を上げる音がしてからまたナウの声。


「えーとね、記録が正しければトキちゃんは今年で六歳。4月2日生まれだね!」


「へええ、ありがとうございます!あれ、そしたらナウさんは・・・」


 ガチャ。つー、つー。


「切られちゃいました」


「あれ・・・何歳だって?」


「六歳です!ろく!」


 トキが両手を三にする。合わせて六だ。ちなみに、フレンズ化してからの年齢であってその前は分かっていない。それに、フレンズは年齢によって姿が変わることはないためトキは零歳からこの姿だし人間的にも今とほぼ変わらない。人生経験が六歳分というだけだ。


「ツチノコも何歳かわかればいいんですけどね?」


 豆をポリポリしながら話すトキ。トキは合計七粒、数え年+一粒を食べ切った。豆の数は諸説あります。


「・・・わからないこともない」


「えっ!?本当ですか!?」


「ああ、でも・・・一昨年のカレンダーってある?」


「はい?うーん、カレンダーは捨てないで残してあるはずですけど」


 トキが顎に指を当てながら返事する。彼女は一人暮らしを始めてから、あまり物を買わなかったために押し入れにしまうものがなく記念としてカレンダーを捨てずに置いておいたのだ。引越ししてきた時にもそれらは持ってきた。


「本当!?あ、それと・・・行かなきゃいけない場所があって」


「ばしょ?」


「うん、私が住んでた洞窟・・・あそこに、私が日にち数えた跡があるから、それを数えれば・・・」


「本当ですか!?行きましょう、数えましょう!」


 ツチノコが自信なさげに話すのに対し、トキは羽をバサバサさせながら興奮したような声を出す。


「でも、時間・・・」


 ツチノコが指さした時計は、午後七時を指している。今から洞窟まで行って数えるのは大変だ。それに寒い。


「でも、今行かないと節分に間に合いません!今日中に調べなきゃ!」


「え、え〜?わざわざ行かなくても大丈夫だぞ?」


「ツチノコが行きたくないならいいですけど・・・私は知りたいです!私気になります!」


「でも、本当に寒いぞ?アイスクリームかってくらい。私も、確かに気になるけど・・・」


「じゃあ決定です!行きましょう!」


「後悔しても知らないからな?」


 ツチノコの洞窟に行くことが決定し、二人は出かける準備を始めた。洞窟探検の準備である。





「着きましたね!」


 トキが空を飛び、辿り着いたのはもちろん洞窟。かつてツチノコが暮らしていた場所である。


「だな。しっかし、真っ暗だな・・・懐中電灯つけるか」


 あらかじめ持ってきた懐中電灯をパチリとつけ、その明かりを頼りに洞窟に入る。あまり真っ暗なのでツチノコも昔こんな所で生活出来ていたことを不思議に感じていた。と、その腕に誰かが掴まる力と温もりを感じる。


「トキ?どうした?」


「真っ暗で、ちょっと・・・こわいです」


「大丈夫、オバケに出くわしたことはないから平気・・・でも、はぐれないようにこうしてた方がいいな」


 コツコツと二人分の足音が聞こえる中で、ツチノコの記憶を頼りに洞窟を進む。ひやりとしているが、風がない分、外より寒さはマシだった。


「ここだ、私が寝泊まりしてた所」


 やがて、目的の場所に着く。洞窟の中でも、少し広くなった空間に少し汚れた絨毯が敷かれている。


「よし、じゃあトキ?ロウソク出してもらっていい?」


「わかりました!」


 あらかじめ持ってきたロウソクを取り出し、ライターで火を灯す。ほんの少しの明かりにはなった。


「私、日にちの痕調べてくる。トキはカレンダー見ててもらっていいか?」


「バラバラになるんですか?」


「大丈夫、トキが終わったらこっちに来て。すぐそこの壁だから」


 ツチノコがロウソクとトキを残して近くの壁に移動する。そこには無数の傷、一本一本独立した縦の傷がずらりと並んでいる。


「大変だな・・・」


 ツチノコが、特に意味もなく刻んでいたこれらの傷は言わずもがな一日一本のものである。つまり傷一本で一日だ。軽い趣味のような感じで付けていた。それも、フレンズとして目覚めた時から。


「いち、に・・・」


 それらを数えていく。十本ごとに印をつけて数えやすくしていく。



 一方トキ。

 一昨年のカレンダーの11月16日の欄に赤文字で記された「ナウさんがくる」の文字。これはトキとツチノコが出会って数日たった日の日付だ。

 そこからひとつずつ、記憶を元に日付をずらす。11月15日。ツチノコが色んなことを勉強した日。11月14日。トキのアパートを出ようとするツチノコを引き止め、二人で肉まんを食べた日。11月13日。二人が出会った日。


「ツチノコ〜!私たちが初めて会ったの、一昨年の11月13日でした!」


「そっか、ありがとう。そしたら、こっち手伝ってもらっていいか?」


「はい!」


 ロウソクをそのままにして、トキが懐中電灯を付けているツチノコの元に歩み寄る。やはり、静かな洞窟だと足音が大袈裟に聴こえる。


「なんだか、二人っきりって感じですね」


「・・・だな、そう思うと悪くない」


 洞窟だと、外界の音はそうそう聞こえないし、ここまで深ければ光も入ってこない。完全に孤立した空間に感じる。そこにトキとツチノコは二人きり、他に世界には誰もいないくらい静か。


「うん、結構いいかもな」


 そういうツチノコだが、そんな空間にかつては一人ぼっちで生活していたのだ。そう考えると、外に出て本当によかったと感じる。


「で、私は何をすればいいですか?数えるんですよね?」


「うん、ここから後ろを数えてもらっていいか?」


 ツチノコが壁の傷達の間に、また傷を足す。全部縦の傷に対し、斜めに刻まれたのでわかりやすい。


「わかりました!」


 そうして、二人並んで傷を数える。どこまで数えたか、いくつまで数えたか忘れてしまってはいけないので二人とも無言だ。


 とても寒い。ツチノコは空気感に慣れているから、わざわざ気にはしないもののトキには堪えるだろう。ツチノコ程ではないが、トキも特別暖かそうな服装はしていない。いつもは袖に収めてある綺麗な手も、数を数えるために外気に晒している。


「ななじゅうに、ななじゅうさん・・・」


 ツチノコの邪魔にならない声量でトキは数え続ける。途中、息を吹きかけてかじかむ手を温めていた。

 ツチノコは、そんなトキの様子を見て、傷を数える手が止まる。


(なんで、トキって私のためにここまでしてくれるんだろ?)


 そんなことを考えながら、黙々と数を数えた。





「終わった!」「終わりました!」


 二人がそう声を上げたのは同時だった。思わず顔を見合わせて、くすくす笑い出す。


「で、いくつ?」


「えーっと・・・」


 トキがツチノコに数を教え、ツチノコがそれをメモ用紙に書く。それを計算して、何日生まれの何歳かを求めるのだ。ツチノコが地べたでペンを動かし、トキがそれを懐中電灯で照らす。


 数分、そんな時間が続いてからツチノコがガバッと立ち上がった。


「何歳でした?」


「何歳だと思う?」


「えー?ツチノコはしっかりしてますし、私より上ですかねー・・・でも、時々子供っぽかったりするのでなんとも言えませんね?私は同い年がいいなぁって思いますけど」


 もちろん、そうじゃなくてもいいですけど。と、トキが付け足してにっこり笑う。薄暗い中でも、その可愛らしい表情はしっかり確認できた。


「じゃあ、答え合わせ。私も今年で六歳!同い年!」


 ツチノコがにかっと笑い、それを見てトキはパァッと顔を輝かせる。


「本当ですか!?」


「ふふふ、計算があってればな。で、誕生日が・・・」


 手招きをするツチノコに、トキが近づく。そのまま耳を貸して、ツチノコがごにょごにょと教えた言葉を聞き、信じられないと言う顔をする。


「赤い糸ですか?運命ですか!?」


「ははは、だろうな?」


 ツチノコは、あらかじめ持ってきた炒り豆を七粒噛んだ。ポリリ、という音が例に漏れず静かな洞窟に響く。


「これから、4月2日は大事な日ですね!」


「だな?トキにとっても私にとっても大事だし、私にとってもトキにとっても大事だ」


 なんだかおかしくなって、二人で笑った。


「あはは・・・なんだか、眠くなっちゃいました。おうち帰りますか?」


 目を擦りながらトキが質問する。


「明日休みだし、トキが嫌じゃなきゃここに泊まってもいいぞ?」


「それも楽しそうですね?でも、風邪とかひいちゃいませんか?」


「私はここにいて風邪なんてひかなかったけど・・・それに、二人でくっついてれば寒くないかなって」


「それじゃあ、今日はここにお泊まりしましょう!」


 ツチノコからしたら懐かしい感じ、トキには新鮮な感じで二人ともワクワクしていた。洞窟暮らしのネックだった寂しさも、二人なら平気だ。


「ここの絨毯に寝転がって?さっきの恵方巻みたいに、グルグル巻き付けるから」


「ツチノコはどうするんですか?」


「もちろん、トキと一緒に巻かれるぞ?トキノコ巻!」


「あはは、なんですかそれ。じゃあ今夜は離れられませんね?」


「ふふ、毎晩私の腕から離れないくせに」


 そんな会話を交わしながら、絨毯の端に二人くっついて寝転がる。器用に二人一緒にグルグル巻かれ、無事トキノコ巻が完成した。密着度が高いからか、いつもより暖かい気がする。


 懐中電灯は消し、明かりはロウソクのみ。トキとツチノコは向かい合わせで巻かれているため、ほんの少し首を動かせばキスが出来るくらい近かった。ロウソクの橙色の明かりで照らされるお互いの顔を間近で見る。


「あ、トイレ大丈夫だった?」


「大丈夫ですけど・・・どうすればいいんですか?」


「ちょっと歩いたところに、深いところに繋がってる穴があるんだ。お皿くらいの大きさなんだけど、それをトイレにしてた」


「なるほど・・・ごめんなさい、私もう限界・・・」


「うん、おやすみ?」


「おやすみなさい」


 トキがそう言った後で、ツチノコはその唇に自分の唇を合わせて、トキと同じように目を閉じた。

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