第23話 甘えんぼの日

「・・・なあ」


「はい?」


「どうした?」


「どうもしませんよー?」


 トキも完全に本調子になった、もう一月も残すところ十日ほどのある日。二人はいつも通りに過ごしていた。いつも通り、そう、いつも通り。


(の、割には甘えん坊だな・・・)


 なんだかトキが甘えんぼさんなのであった。ツチノコが座れば横にぴっとりくっつき、歩けば着いてくる。トイレに行くのにも着いてきた。


「あの・・・トキ?私、トイレ」


「へ?あ、そうですよね!待ってます!」


「待ってなくてもいいけど・・・?」


 などというやり取りが行われたのだ。ツチノコは、なにか変だと思いつつもトキの頭を撫で回していた。


「ツチノコに撫でてもらうのは気持ちいいですね・・・」


「そうか?」


「好きな人だからですかね・・・」


 いつも通りと言えばいつも通りである。しかし、トキがこうもべったりというのはなかなかなかった。


「トキ?なんかあった?」


「なんでですか?どうもしませんよ?」


「うーん、そっか」


 体育座りする股にトキを挟み、後ろから羽を揉む。いつもよりも高めな声を出し、気持ちよさそうにするトキが可愛いと同時に不思議にツチノコの目に映った。


「テレビ見てもいい?」


 ツチノコが撫でる手を止めて、トキに呼びかける。


「えー、それより私を見てくださいよぅ」


 トキは不満そうな声を出しながら、後ろに仰け反り逆さの顔でツチノコのことを見た。髪は全て重力に引っ張られ、全部下を向いておでこを見せている。


「えぇ〜?もう、今日は一体どうしたんだ?」


「だからどうもしないですって、ツチノコこそ何回も聞いてどうしたんですか?」


「いや、トキがなんか甘えん坊だなって」


「そーですか〜?」


 ツチノコはトキが可愛いので全然苦ではないが、気になるものは気になる。急に、トキがツチノコの股を抜け出し、くるりと半回転してツチノコと顔を合わせて座り直した。


「ツチノコ、キス」


「ん?トキがストレートに言うの珍しいな?」


「いいのっ、キス!」


「はいはい、どうぞ」


 ツチノコが受けの姿勢を作ってみせる。ところが、トキは首を左右に振った。


「違うの!ツチノコにして欲しいの!」


「別にいいけど・・・大丈夫か?酔ってる?」


 やっぱりなにかおかしい。とりあえずトキの要望に応えたツチノコは、ふと思い当たることを思い出してトキの後ろに回った。そして、そのサラサラの髪を掻き分ける。


「あー・・・なるほど」


 トキの白い髪の一部で、黒く変色している箇所があった。時期的にもぴったりだ。フレンズでは稀なケースらしいが、トキは昨年のこともあったので有り得るだろう。


(前回は、一回したら治ったんだっけ)


 そこまで思い出して、ツチノコが問う。


「トキ?寝室とお風呂どっちがいい?」


「もう、ツチノコったら♡まだ昼間ですよ?」


「まぁそうなんだけど・・・どっち?」


「キッチン!」


「・・・冗談だよな?」


「そうですね、ベッドがいいです!」


「ん、行こ」


「はい!」


 二人がリビングに戻った頃には、トキの髪色も戻っていたそうな。

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