第5話 タロットは告げる

翌日、晃太は瑞樹と恭彰に引っ張られるようにして、オカルト研究会の部室に向かっていた。




文科系の同好会や研究会は体育系の部活に比べて地味な印象はぬぐえない。




野球部などの花形の体育系部活は更衣室や休憩室に用具室そして洗濯部屋まで整備されているくらいだ。




それに比べて、オカルト研究会が占有しているのは数年後に取壊しが決まっている旧校舎の一室だった。




新校舎に使わせる部屋はないが、そこだったら取り壊すまでは使っていい的な雰囲気。




しかし、オカルト研究会の部屋はやたらと気合を入れてインテリアの改装が行われていた。




遮光カーテンをかけて外部と隔絶した上に、DIYショップで購入したと思われるパーティションで通路と小部屋が演出されている。




晃太たちがメンバーの一人に案内されて入った小部屋は、薄暗い中にお香みたいなにおいが立ち込めていた。




バックグラウンドにはかすかにインドネシアあたりの民族音楽が流れている。




中央には学校の机ではなくて、ちゃんとしたアンティークのテーブルが置かれ、中東風の衣装に身を包んだ女子生徒が鎮座していた。



モスリムの女性が顔を覆うヒジャブとかいう布まで巻き付けて目だけのぞかせている様子はもはやプロのタロット占い師のようだ。




「いらっしゃいませ。ここではタロットを使ってあなたの運勢を占ったり、悩み事への答えを見つけたりすることができますよ。」



テーブルに乗せたタロットを示す様も堂に入っている。その時瑞樹が口を開いた。




「すごいわね理香子、本職のタロット占いの人みたいよ。」




「ちょっと、せっかく雰囲気出してるんだから本名を呼ばないでよ。ここではミカエルと呼んで。」




瑞樹は晃太に向かって肩をすくめて見せた。




「それではミカエル様、ここにいる晃太ちゃんは水泳部員のくせに水が怖いらしいのです。どうか原因を教えてくださいませ。」




そんな言い方しないでくれよと晃太は心の中でぼやく。穴があったら入りたい気分だった。




ミカエル様はテーブルに積んであったタロットカードを素早く並べ始めた。




晃太が並んだカードの種類で運勢を占うのだろうかと見守っているうちに彼女は何か判断したらしく顔を上げた。




「あなたの今の状態にはあなたのお母さんが深くかかわっています。お母さんは死んでいませんね。」




晃太は愕然とした。




「どうして僕の母が死んでいるってわかるんですか。」




「タロットが教えてくれるのです。あなたのお母さんが水にかかわることで何かをあなたに伝えようとしているのです。」




恭彰も驚いたように晃太の顔を見る。




「それでは、僕はどうしたらいいんですか。」




晃太の問いにミカエル様は再びカードを操って見せた。




「心配することはありません。お母さんはあなたに水泳で頑張るように言っているだけなので、たとえ何かを感じても自分を強く持っていれば道は開けます。」





何だかわからないが、パニック発作が起こっても気にしないでいろってことだろうか。




晃太はこれまでもそうやって乗り切ってきたことを思い出した。彼女が言っていることは当たっているのかもしれない。





「それでは、発作が起こっても気にしないでいろってことなんですか。」




「その通りです。意志を強く持てば発作はいつか起きなくなるはずです。」





晃太は何となく納得しつつあった。




「ほら、練習に専念したらきっと発作も起きなくなるのよ。あなたはクロールチームを外されてうろたえていたのよ。」




晃太は瑞樹の言葉にうなずいた。




「よろしいですか。それでは瑞樹さん今日のお題はビットコインで私のアカウントに送ってくださいね。」



「はいはい。」



瑞樹はうなずいた。




「支払いがビットコインってしゃれていますね。」




「学校内で現金でもらうわけにはいかないのよ。」




恭彰の質問にミカエル様はちょっと下世話な雰囲気で答える。




あっさりと問題が解決した雰囲気だったが、晃太はどうしても聞きたいことがあった。




瑞樹と恭彰がもう帰ろうとしているときに、晃太はミカエル様に唐突に質問した。




「教えてください。僕の母は自殺だったんですかそれとも事故死だったんですか。」




それは、子供のころから晃太の頭を悩ましていた疑問だった。




ミカエル様はだしぬけの質問に少し慌てた様子だった。




「そ、そうですねもう一度聞いてみるからお待ちいただけますか。」




ミカエル様は再びカードを並べ始めた。そしてその結果を見てしばらく考え込む。




その時、晃太たちを案内して来たオカルト研究会のメンバーらしき男子生徒がポンとミカエル様の肩に手を置いた。そして彼女の耳元で何かささやいた。




「わかったわ大輝。」




大輝と呼ばれた男子生徒は無言でうなずいた。





ミカエル様はタロットカードに目を落として次に晃太に目を向けると言った。




「あなたのお母さんは足を滑らせて増水した川に落ちたのです。事故死ですね。お気の毒なことです。」




晃太は固まっていたが、やがてミカエル様に向かって言った。




「本当なんですね。」



ミカエル様は無言でうなずいた。




オカルト研究会を後にして旧校舎の廊下を歩きながら恭彰は尋ねた。




「晃太、どうしてあんなことを急に聞いたんだよ。」




「前から気になっていたんだ。」





晃太はなぜか吹っ切れたような顔をしている。





「お母さんお気の毒ね。」




「足を踏み外すなんてドジなんだよ。」




「ちょっと亡くなったお母さんにそんな言い方はないでしょ。」




瑞樹が咎めたが、晃太は意に介さなかった。




母親がまだ小さかった自分をおいて自殺したのか、それとも事故死したのかは晃太にとって大きな違いがあったのだ。



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