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 モリー先生はまたにっこりとメテオラに笑いかけた。

 それからメテオラになにかを言いかけて、モリー先生はそれを言うことをやめた。

 その言葉をメテオラは聞きたかったけど、もうメテオラにはモリー先生の声や思いは、先ほどいた封印の間の中のようには、はっきりとは届いてはこなかった。

「……ながかった。九年。ほんとうにながかったです」モリー先生は天井を見つめながらそう言った。

「モリー先生」メテオラが言う。

 それからモリー先生がメテオラを見る。

「……う」という声がする。

 メテオラの背後の空間では、ニコラスたちや魔法学校の先生たちがその意識を取り戻し始めていた。

「……メテオラくん。アスファロットをたおすことにきょうりょくしてくれてありがとう。でも、これで、アスファロットがかんぜんにいなくなったわけではありません。これからも、アスファロットとのながいたたかいが、まほうつかいたちとのあいだでおこるでしょう。それはアスファロットの呪いなのです。

 ……でも、とうぶんはだいじょうぶ。ふふ。メテオラくんのおかげですね。ありがとう、メテオラくん」モリー先生は言う。

 メテオラはモリー先生の話をじっと聞いている。 

 でもその体は、いつでも飛び出せる勢いを維持したままだった。

「……わたしはもうつかれてしまいました。だからすこしだけおやすみします。むせきにんかもしれないけれど、さきほどのたたかいで、すこしはもりのやくにたてたとおもいます。みんなには、メテオラくんからそうつたえてください」

 モリー先生は杖を振り上げる。

「いまからこのステンドグラスをはかいします。そうすれば、アスファロットのけっかいもかんぜんにとけるはずです。ほんらい、このステンドグラスは十三階にある封印の間をまもるけっかいとしてきのうしていました。

 でもそのきのうをアスファロットにぎゃくにりようされてしまったのです。魔法具の知識にかけては、九年たったいまでも、わたしたちはアスファロットの知識におよんでいないのですね。すこしくやしいですが、まあしかたのないことです。あいては悪魔のようなひとですから」モリー先生は言う。

「モリー先生。でもそれじゃあ、モリー先生が下の階に落っこちてしまいます」とメテオラが言った。

 でも、その問いかけにモリー先生は答えてはくれなかった。

 代わりに行動として、モリー先生は杖を振り下ろして、そのままステンドグラスを粉々に打ち砕いた。

 同時に、モリー先生の杖の先端にある蛇の彫刻も粉々になった。

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