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モリー先生の動きは風のように速かった。
二、三歩の跳躍で、モリー先生はアスファロットとの間にあった距離をすべて、埋めてしまった。
メテオラがなにか言葉をかけることもできない間に、モリー先生の杖の、その蛇の彫刻がされた先端部分がアスファロットの体に、その左胸の心臓の部分に、本当に正確に突き刺さった。
いや、突き刺さったという表現は正確ではない。
今、メテオラの前にいるアスファロットはどうやら実体を持っていないようだった。その証拠に、アスファロットの体はまるでかげろうのようにゆらゆらと揺れ動いて、モリー先生の杖を握った。
時折、半透明になるアスファロットの体の内側には、モリー先生の杖の先端部分である蛇の彫刻の姿が、二人の勝負の行方を見守っているメテオラの目にも見えていた。
半透明になったアスファロットの体が動いて、自分の体に突き刺さっているように見えるモリー先生の杖の先端から離れようとしていた。
「にがさない」
モリー先生はそう言って、左手でアスファロットのローブをつかむと、そのままアスファロットの体を引っ張って、後ろに回りこみ、アスファロットの背中に抱きつくような格好になった。それからまた、モリー先生は杖をもう一度、アスファロットに無理やり突き立てた。
しかし、その杖をアスファロットはまた、半透明になり回避した。
実体を持たないアスファロットには、モリー先生の攻撃は効かないのだろうか? メテオラはそんなことを疑問に思った。
「きゃ!」
モリー先生がスフィンクスと同じように、封印の間の壁に向かって吹き飛ばされた。しかし、モリー先生は体を空中で回転させると、両足で壁に垂直に着地をして、そのまま反対側に跳躍し、再びアスファロットに向かって、突進して行った。
「モリー先生!!」
メテオラは叫んだ。
アスファロットには不思議な余裕があった。
そして、モリー先生の顔には焦りが見えた。……おそらく、アスファロットの体に杖が刺さらないという現象は、モリー先生の予想外の出来事だったのだろう。
それから次の瞬間、メテオラは自分の心の中にモリー先生の強い思いを感じ取った。
それはモリーの覚悟であるが、先ほどよりもその思いは明確な形を伴ってメテオラの心の中に、それはモリーの声の幻聴となって、届いた。
『……アスファロットは倒す。たとえ、わたしの命に変えても』
モリー先生はどうやら、自分の命と引き換えにアスファロットをこの場で倒すつもりのようだ。
メテオラは焦った。
そんなことは絶対にさせない!
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