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そんなメテオラの感情を察したのだろう。
アスファロットは次の瞬間とても愉快そうにその顔をほころばせた。その氷のような冷たい笑顔を見て、メテオラはさらにアスファロットに恐怖を感じた。
それからアスファロットはその足を一歩、前に踏み出してメテオラに近づいてこようとした。
メテオラは恐怖で後ろに下がりたい気分になった。だけどメテオラの足は動かない。足だけではない。手も動かないし、口も動かせない。金縛りにあったようなそんな奇妙な感覚をメテオラは覚える。それでもメテオラがなんとか体を動かそうと努力している間にも、アスファロットはその足を止めなかった。
メテオラの全身がぶるぶると震えていた。
ゆっくりだけど確実に一歩ずつ、アスファロットはメテオラに向かって近づいてくる。
メテオラはそんなアスファロットの行動に恐怖を感じながらも、同時に唯一自由に動く頭の中で封印の部屋の外にいるマグお姉ちゃんやニコラスたちのことを考えていた。
顔が動かせないから確認できないけどみんながまだそこで眠っているということは動きのない気配でわかる。だからこそメテオラはみんなのことが心配だった。
……ニコラス、アネット、シャルロット、みんな早くここから逃げ出して……。マグお姉ちゃんたちも早く逃げて。アスファロットから少しでも遠くの場所に、今すぐに駆け出していって……。
メテオラはそんなことを強く願った。
だけどメテオラの思いとは裏腹にニコラスやマグお姉ちゃんたちは動かない。
……いや、きっとみんなもメテオラと同じで動けないのだ。
すでにメテオラたちはアスファロットの結界の中にいるのだ。
十三階に漂っていたあの冷たい感じは、アスファロットの張ったこの結界のせいだったのかもしれない。
台座の前に立っていたアスファロットは、すでに魔法樹の枝木の前にいるメテオラのすぐ目の前にまでやってきていた。
メテオラは姿形だけではなくて、アスファロットの息づかいのようなものまで感じられるようになった。なのにアスファロットはどこか影のようにぼんやりともしていて、つかみどころがなくて、まるでそこに誰もいないような、とてもちぐはぐな感じを受けた。
それは本当に、本物の幽霊を見ているような現象だった。
しばらくして、メテオラはその原因に気がついた。
森で暮らしている魔法使いたちにはあって、アスファロットにはないもの。
それは『魔法力』だった。
目の前にいるアスファロットからはまったく魔法力を感じない。それがメテオラにアスファロットの存在をどこか薄く感じさせているのかもしれない。
……幽霊、という言葉はあながち間違いではないのかもしれない。
魔法力を持たない魔法使い。
それはまるで、自分の魂や体を半分だけ失っているような状態だった。
そして、その事実は目の前にいる魔法使いが本物のアスファロットである確たる証拠でもあった。魔法力を持たない魔法使いなんて、アスファロットのほかにいるはずがないからだ。
「私が、……怖いかい?」
とアスファロットが言った。
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