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 モリー先生はその美しい長い銀色の髪をいつも通り無造作に空中に垂れ流している。その体にはいつもよりもシックな飾り気のない真っ黒なローブを着て、頭にはいつもよりも大きな、先の少し折れ曲がった真っ黒なとんがり帽子をかぶっている。手にはよくみたれた、先端に蛇の彫刻のある杖を持っている。

「……モリー先生。モリー先生が偽物の幽霊さんの正体だったんですね?」メテオラは言った。

「にせもののゆうれい?」とモリー先生は首をかしげる。

 それから少しして、「ああ、デボラくんたちがつかまえようとしていたゆうれいのことですね?」とにっこりと笑ってメテオラに言った。

「そうね。たしかにわたしはにせものですね。……そして、ほんもののゆうれいはここにいるわ。メテオラくんも、あうのははじめてじゃないですよね?」モリー先生はそう言って、隣に立っている背の高い顔の見えない魔法使いさんのことを見た。 

 その瞬間、窓などないはずなのに、なぜか部屋の中にかすかに風が吹いた。

 ……とても冷たい風だ。

 その風の吹く先の場所にメテオラは目を向ける。

 そこにはいつか星組の教室で見た、あの背の高い顔の見えない魔法使いさんがその場所には立っていた。

 魔法使いさんはその場からじっと、メテオラのことを見つめている。顔は見えないけど、なぜかメテオラを見ていることがたしかにわかる。

 それはメテオラの見間違いではない。

 ここには黒いカーテンもない。

 間違いなく、魔法使いさんはたしかにそこに立っている。

 背の高い顔の見えない魔法使いさんはくいっと大きなとんがり帽子のつばをあげて、それからわずかに顔をあげる。

 すると闇が晴れていくようにして、大きなとんがり帽子の影になってよく見えなかった魔法使いさんの顔が、魔法樹の枝木から差し込む光によって、徐々によく見えるようになった。

 ……淡い七色の光が、魔法使いさんの闇を払っていく。

 その闇の中からあらわれた顔。

 それは紛れもないメテオラの知っている顔だった。

 最近、メテオラがずっと読み続けている魔法書。

 大魔法使いアスファロットの伝説に挿絵として描かれているアスファロットの顔。

 背の高い顔の見えない魔法使いさんの顔は、間違いなくその顔と同じ顔をしていた。

「……久しぶりだね、……メテオラくん」

 くぐもった声が聞こえる。

 あの伝説の悪の大魔法使いアスファロットが、メテオラに言葉を投げかけているのだ。

 メテオラはその姿に……、その声に恐怖した……。

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