120 魔法の森の新聞記者と偽物の幽霊の容疑者たち 魔法使いたちの冬眠

 魔法使いたちの冬眠


 ……おやすみなさい。みなさん。いい夢を見てね。


 とても寒い冬が訪れて、魔法の森は冬眠する時期になった。

 今年も冬が来て、魔法の森は眠りについた。

 ……魔法の森で暮らしている魔法使いたちも、しばらくの間、森の木々と一緒に、冬眠する時期が来たのだ。

 魔法使いのマリンは、真っ白な雪が降る暗い夜の中を、オレンジ色の明かりの灯った魔法のランプを杖の先端に取り付けた、魔法の杖にまたがってゆっくりと飛びながら、明かりが消えて、いつもの明るい夜とは違い、真っ暗になった魔法の森の風景を見ながら、そんなことを一人、思った。

 マリンはその頭に大きな黒いとんがり帽子をかぶり、体にはいつも着ている魔法使いのローブの上に、今は冬用の厚手の黒色のコートをきていた。たくさんの荷物がいっぱいに入っている、いっぱいに膨らんだ大きなバックを肩から背中のあたりに下げて、首元にはふかふかの真っ白なマフラーを巻いている。

 マリンはしんしんと降り続く、真っ白な雪の中を、(それはまるで雪の妖精のようだった)まるで楽しむかのように、先ほどからずっと、速度を落として、眺めながら、ゆっくりと飛んでいる。

 ……寒いけど、とても綺麗。

 雪を見て、マリンは微笑む。

 マリンは雪が好きだった。

 寒いのは嫌だし、冬が、……凍えるような寒さが、魔法使いたちにとって、天敵であることはわかってはいるのだけど、……でも、それでも、マリンは、このあらゆるものが眠りにつく、神秘的な風景を見て綺麗だと思った。

 真っ暗な夜と、その夜の中に降る、真っ白な雪。

 ……だけど、これから一週間、ううん、あるいは数日も過ぎれば、もうこんなふうに雪を楽しむような余裕はなくなってしまう。

 そこには、完全な極寒の『死の世界』が広がっている。

 外に出れば、二度と家には戻れない。

 怖い。……とてつもなく、恐ろしい。

 不安になって、……寒くて、(保存していた)食べるものも、どんどんとなくなっていく。

 閉塞感。

 外に出ることができない、運動のできない、……そして、なによりも太陽を見ることができない。青色の空が見えない。風の音が聞こえない。

 ……空を飛んで生きる種族である、魔法使いが自由に空を飛ぶことができない。

 そんな恐ろしい真っ暗闇の季節がやってくる。

 ……どんなに気をつけても、準備をしても、厳しい冬の季節の間に魔法の森の仲間の魔法使いの何人かは、冬眠の間に、その命を失ってしまうことがあった。

 夜空に輝く、巨大な星の集まる渦の中に、……根元の海と呼ばれる、魔法使いたちが最初に訪れて、そしてやがて、最後に帰る場所に帰って行ってしまうのだ。

 ……去年の冬の冬眠の間にも、何人かの魔法使いたちが魔法の森を去って行った。(その中には、お年寄りの魔法使いもいたし、まだ子供の魔法使いもいた。……一人は、マリンの教え子の魔法使いだった)

 マリンは雪の夜の中、高度をだんだんと下げていく。

 ……そして、目的地である、真っ暗な地上に、ぽつんと一つだけオレンジ色の明かりがつい先ほどから、突然、灯り続けている場所に向かって、しんしんと降り続く雪の降る夜の中をゆっくりと下降していった。

 ……マリンの長くて豊かな美しい黒髪には、真っ白な雪が、少しだけ積もっている。

 その雪をぶるぶるっと顔を動かして、マリンは大地の上にそっと落とした。


 魔法の森の新聞記者と偽物の幽霊の容疑者たち


 メテオラたちは誰が言い出したわけでもないのだけど、時計の間のときに座った時間と同じ席に座っていた。

 眠っていたマシューはシャルロットが起こした。

 マシューは目覚めると「……やあ、みなさん、お久しぶりですね」と寝ぼけた顔をしながらみんなに言った。

 マシューは十二時の席に座った。

「では、料理を食べながら作戦会議を始めてしまいましょうか? 時間もあまりないですしね」とマシューは言った。

「作戦開始時間は何時なんですか?」アネットが質問する。

「夜の八時です」とマシューは答えた。

 だいたいあと二時間くらいだ。

 デボラが大皿の料理をスプーンでとって口に運んだ。それはポテトとほうれん草のペーストだった。

「みなさんはこの幽霊騒ぎがいつ起こったのか、知っている人はいますか?」マシューが言う。

 マシューの質問に答えるものはいない。

「僕の捜査では幽霊騒ぎは去年の冬の精霊祭の日から噂が流れるようになったようなのです。つまり、最初の幽霊の目撃例が精霊祭だったわけですね」

「そんなに前からなんですね。私、てっきり今年の春くらいからだとばかり思ってました」とマリンが手に持ったパンを食べながらそう発言した。

 マリンの隣ではアネットとニコラスがサンドイッチやクッキーを手にとって食べている。

「春頃から幽霊の噂が生徒たちに広まったのは間違いではないですよ。実は幽霊騒ぎを追いかけていたのは僕一人ではありませんでした。森の新聞記者、ワルプルギスさんも去年の精霊祭からずっと幽霊の噂を追いかけていたのです。そしてワルプルギスさんは実際にその第一弾の記事を春先に魔法新聞パンプキンで発行しようとしたら、なぜか魔法学校からだめだと通告がきました。それでワルプルギスさんは怒ってしまったんですね」

「ああー、なんかわかる」とデボラが言った。

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