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「ねえ、メテオラくん。歩きながら魔法書読む癖、直したほうがいいよ。危ないよ?」

 そんなニコラスの言葉を聞いて、メテオラは歩きながら読んでいた魔法書のページをそっと閉じた。

「そうですよ。それに危ないだけじゃなくて、お行儀も悪いと思います」アネットが追い打ちをかける。

「真剣に読んでいるところ、もしわけないですけど、あんまり魔法書に載っている内容のすべてを真に受けて信じないほうがいいですよ。歴史は常に生き残った者によって改ざんされるものです。すべてが嘘だとは言いませんけど、そうですね……、二割から三割くらいは、虚言が混ざり込んでいる、と考えたほうがいいでしょうね」

 マシューが笑いながらメテオラにそう忠告してくれた。

「二割か三割は嘘……、ですか」

「もしくは、『意図的に都合の悪い部分は記述されていない』、あるいは『行間の間に隠されてしまっている』と言ったところでしょうかね」

「へー、なるほどねー」

 とニコラスが感心してうなずいた。

「あ、あの、じゃあ、私たちはここで失礼します」

 マリンがそう言ってメテオラたちに頭を下げる。とても礼儀正しいマリンだけど、その後ろではすでにデボラとアビーが通路の奥へと、駆け出してしまったあとだった。

「あ、ち、ちょっと、待ってー!」

 マリンはすぐにそんな二人のあとを追いかけていく。それは普段のマリンの苦労がしのばれる風景だった。メテオラたちはそんな三人の姿を見て笑い声をあげる。

 その笑いが一段落したところで、シャルロットがメテオラたちに声をかけた。

「じゃあ、私たちもここで失礼します」

 シャルロットはいつも通り、頭を下げて優雅に挨拶をする。

「それではみなさん。また、のちほど」

 マシューはそう言って、シャルロットと一緒に通路を歩いて移動して行ったのだけど、少し歩いたところでマシューは立ち止まると、メテオラたちの元まで一人で戻ってきて、「そうだ、一つ言い忘れていました。メテオラくん、ニコラスくん、アネットさん。今度、僕の魔法の研究室に一度遊びに来てください。そこでよかったら、三人に魔法樹の苗をお見せしましょう」と言葉を告げた。

「え!?」

 突然のマシューの言葉にメテオラたちは驚きの声をあげた。

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