12-5 レッツゴー青系パーティー!

「じゃあ……ディルスを探せばいいんだね……」


 甲板に着地したタガナから飛び降りて、気の抜けるような声でノエルが言った。


「あぁ。でも、その前にフィルを見つけないと。

 ここには三体も悪魔がいるんだろ? しかも全員上級」


 言いながら、その隣に同じように降りる俺。

 俺達が今いる場所は、フィルと入った要塞の入り口のちょい手前。もちろん、要塞に近付く前に青い塊達(ビーム撃ちまくってたやつ)がいないことは確認済みだ。あんな大量にいたのに、どこいったんだろうな?


「うん……」


 ノエルはこっちを向いて小さく頷いた。鳥のように翼をたたんだタガナがその横に移動する。地につけたタガナの足が、位置も形も鳥っぽいと気付いたのはこの時だ。違うのは、指先まで毛でもっさもっさしてるところ。


 俺も一人と一匹(一体か?)の方へ向き直り、


「ヤッバイよなぁ……うまく隠れられてりゃいいけど……」

「あー……フィルなら大丈夫だよ……」

「なんで?」

「危なくなったら……助けるから……」

「助けるって――お前が、じゃないよな。ノエルの相方がか?」


「うん……多分ね……もう会ってるんじゃないかな……

 三日前にはここのシステム乗っ取って……いろいろ細工した後に……監視カメラを使って様子見てるはずだから……」

「そんなこと出来るんだ、そいつ」

「科学技術がかなり発達した国の出身だからね……」

「ふーん……」


 ついでに聞いた話だが、世界ってのは時間軸上は同じでも、人間が生まれたり文明が出来たりするまでに時間差があるんだと。フーリが日本と違って、機械なんて一つもなさそうなファンタジー全開の街や村だったのはそのおかげだったってわけだ。


 つまり、シン達が今よりもっと未来で生きていたといっても、そこがすげー科学が発達した世界だとは限らないってことらしい。そもそも、星が出来るまでにも差があるから、必ずしも人間という種族が生まれるわけじゃないようだし。大本が同じだから人間が生まれやすいってだけで、グレイヴァみたいな種族がいる世界もあれば、タガナのような生物しかいない世界もあるってことだ。


 だから主護者の中には、科学技術に慣れた人はもちろん、機械の存在すら知らなかった人もいるんだと。但し、妖魔のせいで科学が進んでいない世界、時代がほとんどのため、慣れた人の方が稀らしいけど。

 まぁ確かに、同じ地球人でも、国によって差があるもんな……それと同じってことか……


 うんうんと納得して頷いて、それからふと気付いた。


「あ。つーか、千里眼でわかるんじゃないの? みんなの居場所」


 超ナイスな閃きに、しかしノエルは首を横に振り、


「んー……ここは……無理かな……異空間がいっぱい繋がってるから……」


 無理な理由を説明してくれたのだが、やっぱりおっそいので要約。これやってるだけで頭良くなる気がする。


 曰く。千里眼ってのは思ってた通り、どこでも(別世界も異空間も、さっきみたいに空中もオーケー)見ることが出来るハイパー便利な技だった。邪な奴は絶対に持ってはいけない能力だな。


 見え方は、まるでその場にいるかのような感じで、視点移動も自由自在。実体があるわけじゃないから宙に浮けるし、壁とかの物体もすり抜け放題だって。だから高速で飛ぶビーニド達を追えたんだと。


 但し、見る――つまり『目』の出現場所を指定するためには条件があって、その場所を知っている(見たことがある、または位置情報を知る)か、もしくは"印"がなければ駄目らしい。


 で、印がなんなのか、も聞いたんだが……そっちはぜんっぜんわかんなかった……


 とりあえず、人でも物でも、直接触れればそういう術がかけられて、一度かけたら消すまで消えなくて、ちょっと意識するだけで波動とかオーラてきなものを感知してどこにいるのかがわかる代物らしい。居場所がわかれば自動的に位置情報も頭に入ってくるらしく、印があれば知らない場所でも大丈夫なのはそのおかげ。


 ただ例外もあって、最初から位置情報が狂っている異空間が、この要塞のように複数繋がっている場合、狂う力が大きすぎて印の波動が掻き消されるんだと。同じ空間にいれば感知出来るようになるらしいが。


 ――以上、大体十五分くらいかけた説明のまとめでした。

 説明はわかりやすいんだよ……喋りがマジで遅いんだ……


 頭で整理し終えた俺は、ふーっと長く息を吐き、


「そっか。じゃあやっぱ、てきとーに歩くしかねぇな。

 ――とりあえず入り口開けるか。もしかしたら、俺の刀あるかもしれないし」


 くるっと踵を返し、閉じた入り口に向かって歩き出す。


「いってらっしゃーい……」


 後ろからは、そんなノエルの間延びした声――って……

 八歩ほど進んだところで再び反転し、タガナの前に腰を下ろしてやんわり微笑むノエルを見やる。ジト目で。


「…………おい」

「どーしたのー……?」


 笑顔のまま、すっげぇ不思議そうに言うメガネ。次いで、両足をたたんで地面に腹をもふっとおろしたタガナの首に寄りかかる。

 俺はすこーしだけ眉間にしわを寄せ、


「なんで来ないの?」

「えー……だって……受け取るのはオレじゃなくてもいいんでしょ……?

 なら……いいかなぁって……」

「確かに、どっちでもいいと思うけど……」


 言いながらノエルに近付き、片手を掴む。


「だからと言ってサボりは許さん。

 シンのためだ、ちゃんと働け。というか探すの手伝え」


 やや強引に引っ張って、今度こそ入り口へと向かう。


「あぁー……」


 残念そうに呟き、ずるずる引きずられるノエル。ちょっと引っ張れば自力で歩くと思ったが、まさかの立つ気すら無し。

 しょーがねぇからそのまま入り口前まで連行する。タガナは無音でついてきた。


「さーてっと……」


 ぴっちり閉じた入り口を見上げ、同時にノエルの手を放す。


「んもー……しょーがないなぁ……」


 俺のやや後ろでのんびり言って、ノエルが立ち上がる。


 大の大人、しかも男が『んもー』とか言うなよ……


『これは扉なのですか? 取っ手らしきものは見当たりませんが……どのようにして開くのですか?』

「これは押し開ければ――」


 タガナにそう返しつつ、両手でぐっと扉を押す。そして気付いた。


「……あれ?」


 うん、駄目だ。びくともしねぇ。


「あれー? 向こうに開くんじゃなかったっけ? こっち側だったっけ?」

「これはねー……こっち側に開いてたよ……」


 思い出そうと頑張っているうちに、ノエルが答えを教えてくれた。さんきゅう。

 俺は二人に顔を向け、


「じゃあ……どうやって開けんの? これ?」

「さぁー……?」


 ノエルは変わらぬ笑顔のまま、小さく首を傾げて見せる。


 ……こいつに聞いたのは間違いだった。そうだよなー、アホっぽいもんなー。わかるわけねぇよなー。


 視線を扉に戻し、その周りをじろじろ眺める俺。


 特に変わったところもないただの壁っぽいけど……


「実はこのへんにスイッチがあるとか」


 なんとなく、右側の壁を両手で撫でる。

 てきとーに混ぜるよーにさわさわーっと――


 ピッ


「ん?」


 すげー小さかったけど、電子音が鳴ったぞ?


「わーさすがー……」


 ノエルの声に左を見れば、がこんっと音を立て、扉が手前にゆっくり開いていく。


「……なんで?」

「あー……なんかねぇ……上の方触った時……一部が一瞬だけ光ってたよ……

 きっとそれがスイッチだったんだね……」

「…………冗談だったんだけどなぁ」


 遠い目をして呟いた後、まぁいいやラッキー、と頭を切り替え、とりあえず扉の片方を押さえながら中を覗く。最初みたいに突然閉まって、ノエル達と分断されたら嫌だからな。念のために。


 まず正面にまっすぐ伸びる廊下を見る。フィルと見た時と変わりなし。

 次に左。こちらも同じく変わりなし。

 最後に右。変わりあった。


「わーお……」


 五十メートル先くらいかな。壁も床も天井も黒く焦げていて、所々にひびとへこみが出来ている。まるで爆弾でも爆発したかのようだ。


 とりあえず、見える範囲にあったのはその爆発跡だけ。フィルの姿は無いし、俺の刀も見当たらない。


 あまり期待はしてなかったけど……やっぱ悲しい……


 盛大に溜め息を吐き、がっくりと肩を落とす。

 そんな俺の横を通り、分岐点に立つノエル。焦げのある右の廊下を見て、


「フィルの爆薬だ……敵が来たんだね……」

「え、そうなの? 罠とか敵の攻撃だと思ってたんだけど」

「罠だったら……普通はあそこだけじゃなくて……こことか……あっちとか……いろいろな所に仕掛けると思うよ……

 敵の場合も同じ……死体が無いってことは……フィルは無事……倒せていないんだから……一回だけで攻撃を止めるはずがない……

 でもフィルなら……試しとか目くらましで爆薬を使った可能性がある……

 多分だけど……それで倒せなかったから……逃げたんじゃないかな……」

「おー……なるほど」


 ふむふむと納得して、俺も要塞の中へと入る。ノエルの隣に立ち、


「じゃあ……問題はどこに逃げたか、だな」

『右の方に焦げ跡があるなら、正面か左のどちらかってことですよね?』

「んー……例えば正面から来て……右に逃げてから爆薬を投げたって可能性もあるから……そうとは言い切れないよ……」


 ノエルの回答を聞いて、うーん、と悩む俺とタガナ。

 しばらくして――


「――お。変な音」


 俺は左の廊下を向いて言った。

 今はまだ微かだが、奥の方からガッシャンガッシャンという音が聞こえてくる。何かが近付いているようだ。まぁ、間違いなく敵だろう。


「なんだろうねぇ……?」


 のんびり朗らかに言うノエル。

 そのままぼけーっと待っていれば、やがて姿を現す敵四体。まっすぐこちらに走ってきている。


 大量の小さな箱でできたでけー目玉の周りに、鉄パイプみたいな棒を何十本もくっつけて、左右に一本ずつ折れ曲がった槍を装備した感じの見た目。足が虫っぽいから、ロボットなのか妖魔なのかはわからない。


 俺は首を傾げ、


「なにあれ……妖魔? それともロボット?」

「さぁー……解体してみれば……? 機械なら消えないよ……」


 ノエルの言葉に、ふむ、と数秒考えて。

 さっそく実行。


 目玉の機械達が五十メートル先まで迫ったところで、迎え撃つべく俺も駆け出す。およそ三メートルまで近付くと、先頭の一体が両方の槍を突き出してきた。右のは裏拳で弾き、その反動を使って左の槍を避け、


「ふっ」


 懐に入った瞬間、上段回し蹴りを目の中心に叩き込む。


 ドガァァンッ!


 すげーへこんだ一体目は真後ろに吹っ飛んで、ビリヤードみたいに他の三体を巻き込んで来た道を少し戻った。四体とも砕かれた石の如くぼろぼろになり、破片とか鉄の棒とかコードとかを撒きながら床に転がった。一番後ろに倒れている奴はビミョーに手足が動いていたが、俺が歩いて近付く間に力尽きた。


 よし、力加減かんぺきー。


 俺は一番近い目玉の一歩手前で立ち止まり、よーく眺めて、ごちゃごちゃとくっついてる鉄の棒のうち、唯一まっすぐ伸びている一本を掴んでもぎ取った。長さは一メートルちょっと。片方の先端から出てる細いコードを抜き捨てて、棒は持ったままノエル達の方へ戻る。


「取っても消えないってことは、ロボットだったってことだよな?」


 棒を見せながら聞くと、ノエルは微笑んで頷いた。


「うん……低級なら……倒されたらすぐに消えるはずだから……

 敵とはいえ……機械人形が作れるなんてすごいよねぇ……」

『そうですね。

 ――ところで華月様、その棒はどうするのですか? 捨てないのですか?』

「あぁこれ? 消えないなら武器にしようかなって。刀無いし」

『なるほど。再利用ということですね』


 言いながらしっぽを左右に振るタガナ。そーしてると犬みたい。


「もしかして、フィルを襲ったの……今の機械人形達かもしれないね……」


 俺を見つめてノエルが言った。

 俺は棒を術で消し、目玉達の方を指差して、


「ってことは、フィルを追ってあっちに行ったけど、途中で諦めてこっちに帰ってきたって感じか」

「あくまで可能性だけどね……」

「ノーヒントで選ぶよりはいいんじゃね?

 とりあえず行ってみようぜ。ここで話してても埒が明かねぇし」

「そうだね……じゃあ行ってみようか……」


 応えてノエルは、タガナに優しく微笑みかける。


「タガナはどうする……? たまにはついてくる……?」

「いや無理だろ」


 即座にぼそっとツッコむ俺。

 確かに通路は広いけど、大型トラック並みにでかいタガナが通れるほどではない。それ以前にこの中にすら入れないだろう。どー見ても扉をくぐれないからな。


 そんなことすらわからんのかこのメガネは……


 そう思い、呆れまくった目をノエルに向けると、


『無理ではないですよ、華月様。わたくしにも技がありますので』


 言ってタガナは、バサァっと翼を大きく広げる。そして、


『"メルファーシェ"』


 なぞの呪文を唱えた途端、タガナの全身がまばゆい光に包まれ(ノエルの時と違って直視できん)、徐々に小さくなっていき、人の形になると同時に光が消える。


 そこにいたのは一人の少女。歳は俺と同じか少し上。

 背中まで伸びた癖の強い後ろ髪に、眉より上で揃えられた前髪。髪色は鳥の時と同じで、頭は薄水色で途中から赤色に。目は黒色で大きくぱっちり開かれている。顔は普通で、肌は小麦色。頭にニット帽の布バージョンみたいな茶色の帽子をかぶり、同じ色の袖の無い簡素な服と短パンを身に着けている。靴も茶色で、ブーツっぽい。全体的にRPGにいそうな狩人みたいな恰好。因みに胸は女ノエルと同じサイズ。


「シン様に教えて頂きました、人間に化けられる術です。

 これならご一緒できますでしょう?」


 にっこり笑う人間タガナ。正直、ギャルがコスプレしてるようにしか見えない。


「へー、トランスって人にもなれるんだな。化け物にしかなれないと思ってた」


 感心して言うと、ノエルがふるふる首を横に振り、


「違うよ……トランスは妖魔しか使えない……体を異形に変える術だから……人に変化するだけのメルファーシェとはちょっと違うんだよ……」

「……どう違うのかさっぱりわからん」

「うーん……」


 小さく唸って少し考え、


「まぁ……わからなくてもいいと思うよ……」


 小さい子供を諭すような、めっちゃ優しい声でそう言った。


 諦めたぞこいつ……別にいいけどさ……


 俺はそこで頭を切り替え、タガナに向き直り、


「で、結局どうすんの? 変化したってことはついてくんの?」

「そうですね……。では、せっかくですからついていきます。面白そうですし♪」


 タガナはにっこにっこ笑って答えた。


 かくして、全員が青系の髪という変わったパーティで先に進むことになったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る