昼食中、認識合わせとこれからの予定

 嵐ヶ丘あらしがおか 祭佳さいか

 エル・ケーニヒ。

 音成おとなり 射乃いるの

 久留姫ひさるき さとり

 雪乃堂ゆきのどう 輝夜かぐや

 レティクル・エテル・クリトルリトル。


「……良乃よしのたちを除くと、うちのクラスに入ってきた顔見知りはそれくらいかなあ」

「わりと大半と面識があったのね。ま、こっちとしては助かるけど……」


 三國がどこか困ったように呟く。四季は頷いて同意を表したい気持ちに駆られる。

 知り合いだからまあいいが……いや、よく考えればまるでよくなかった。なぜこっちに乗り込んできているのか。

 膝や肩に乗ってきている阿子あこたちをあやしつつ、四季は良乃をジト目で睨む。


「覚と輝夜まで来てるのはどういうことさ。まさか幽霊部が全員来てるんじゃないだろうね」

「まさか。遠見とおみ先生は残ってるよ」

「それ以外は!?」


 思わず飛び出た叫びに、良乃は無表情のままで静かに視線を逸らす。

 この反応だときているのだろうか。他の面子も。


「……ねえ四季。幽霊部ってなに」

「簡単に言っちゃうと地元の中学にいた怪異の集まり。覚とかはそこで知り合ったんだけど」

「ああ、細かい事情はいいや。今ちょっと頭が痛い」


 にべもなく話を打ち切られ、四季は少しだけ悲しい気持ちになった。

 怜は難しい表情のまま指で自分のこめかみを叩いていた。が、不意にその動きを止める。


「けど音成、ね。ひょっとしてアパートに憑いてたあいつと関係があるのかな」

「……いや、なに言ってんの怜。その音成さんだよ」

「は?」

「え?」


 妙な話の食い違い。

 あんぐりと口を開けた怜が、にわかに慌て出す。


「ま、待って!? あんなでかいのいなかったじゃない! 気配もまるでなかったし!」

「怪異だから身長くらい変化できるでしょ。というか肝心なところは変わってないんだから見ればわかるじゃない……」

「あのなまっちろい変態女、こっちも来てやがったか! 安心しろ四季、今度見つけたらトイレに流しといてやる!」

「……えっと。もうちょっと前に痛い目に遭わせたから、そこまでしなくていいよ」


 名前を聞いた途端に憤り始めた花子を宥めつつ、四季は溜息をつく。そういや音成さん、花子にも邪魔されていたとか言っていたっけ。

 言動こそ粗暴であるものの、花子は基本的に人間の味方だ。個室でタバコでも吸わない限りはこうして他の怪異から生徒たちを守ってくれる。

 ……まあ、そのやり方が荒っぽいのでむしろ花子のほうが怖い覚えしかないのだが。


 脱線しかけた話を、三國が咳払いで元に戻す。


「えー、と。じゃあその子たちは日条さんに危害を加えない限り暴れ出すようなことはない。そういう認識でいい?」

「あ、うん。そこは大丈夫だと思う。退魔師のほうから攻撃されちゃったらさすがに危ないと思うけど……特に祭佳のやつとか」

「どんな怪異か、は無理に聞かないほうがいいか。退魔師に正体バラされて喜ぶ怪異ってそうそういないだろうし」


 最後の言葉は、良乃を一瞥しながらのものである。

 相変わらず敵意を隠さない彼女に苦笑いしていた三國は、不意に表情を引き締めた。


「で。大事なことだから確認しておきたいんだけど、阿我部あがべ 百華ももか。あれはあの教室で初めて見た怪異ってことでいい?」

「あー、あの怪異ひと? うん、そう。こっちにもああいう大胆なのがいるんだなってちょっとびっくりしちゃった」


 窓際の席に座っていた、あの花頭の怪異を思い出す。

 自身の『ごまかし』に任せて真昼間から現れる異形の怪異と遭遇したこと自体は初めてではない。おかげで、初っ端の自己紹介タイムでも表面上平静を装うことができた。

 ……これから一年を一緒に過ごすことになるだろうクラスメイトに、初手から妙なのが混入してきたため心が折れかけたのは別の話だ。


 三國と怜が顔を見合わせる。


「……となると、さしあたってはあの怪異の監視かな」

「そうだね。変なことをしなければまあ放置でいいだろうけど」

「なにするかわからないからねえ。あれ、あんまり類型の怪異が思い当たらないんだよね……」


 どうやら造詣の深いらしい三國にとっても、あの花の怪異の詳細はわからないらしい。

 怪異といえど、伝承に則ったものばかりが現れるわけでもない。何かのきっかけでそれまで例のない姿を持つものが生まれることだってある。過去にとある怪異から伝え聞いた言葉を、四季はぼんやりと思い出していた。


 いや、それより。


「あの人はいいの? 招鬼まねきさん」

「……え?」

「えっと、ほら。招鬼 暁美あけみさんだっけ。あの人も怪異だけど」


 ちょっとした、単なる見落としの指摘のつもりだった。

 が、その一言で退魔師たちが固まる。突如訪れた沈黙に、むしろ四季のほうが狼狽してしまう。

 眉間にしわを寄せた三國が、誰にともなく呟く。


「…………そんな名前の子がいたのは、なんとなく覚えてる。どんな子だったっけ……草江さん、覚えてる?」

「普通の子だったと思う。変な気配もなかったように思うんだけど……四季、それ本当?」

「そんなとこで嘘つく意味ないでしょ。まず間違いないと思うよ。なんというか、空気が変だもの」


 疑わしげな眼差しを向けてくる怜に、はっきりと断言してみせる。

 見た目としてはなんの変哲もない女生徒のように見えても、その空気や雰囲気が明らかに異質だった。むしろ三國たちが気付いていないことにびっくりである。


 真横でせせら笑いが響いた。花子だ。


「そこは四季を信じとけよガキども。こいつの怪異判別能力、普通の人間とは段違いだからな。狸や狐の変化だってあっさり見抜けるんだぜ」

『地元では化かしがいがないって有名だったんだよー』

かさね、余計なことまで言わなくていいから」


 肩の上に乗っていた生首の口を塞ぐ。思わず溜息が漏れた。

 一時期、なにがなんでも四季を化かそうと四六時中憑きまとってきた狐狸連中のことが嫌でも思い出される。あのときは悪いことをしてしまった……のだろうか。でもわかるものはわかるのだから仕方がない。

 昔の思い出からくる憂鬱に落ち込んでいる最中にも、怜たちは話を再開している。


「……これまでの話から判断すると、他のクラスにも四季目当ての怪異が紛れ込んでるかも」

「ついでに、学校に憑いてるらしい怪異がいるかもしれないわね。そのためにクラスに一人は退魔師を配属する、ってことらしいけど……」

「一度、四季に見てもらったほうがいいかも。退魔師ほかのみんなとの顔合わせついでに」

「それがいいかもね。あー、初日から忙しくなりそうだわ……」


 三國がうんざりしたように息を漏らす。ちょっぴり四季も憂鬱になってきた。

 その横から花子が声をかけてくる。


「なー四季。こっから家帰るんだろ。俺も遊びに行くぞ。いいよな?」

「……別にいいけど、御影みかげきてるからね」

「え」「げっ」


 呻き声は、なぜか良乃からも聞こえてきた。どうやら押しかける気満々だったらしい。

 どうなるのだろう。高校生活。これから先のことを考え、四季はまた憂鬱になるのだった。

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