第六章③ 謙虚の美徳と〈遅参の紅夜叉〉。
「〈紅夜叉〉。そう一括りに 言ってはいるが、コレは あくまで……我個人の見解による所だ」
姉は 虫女の胸部に頭を預けつつ、脇から出張っている血鉱石製腰綱の一本を、指先でナゾリながら話し始めた。
「まずは、有史以前にあったと思われる原始〈紅夜叉〉……いや、コレは 森の神格化から来た世界中で発生したであろう〈夜叉信仰〉なのだが…。 …とにかく、迷信めいたモノが信仰らしき何かに 変わりつつあった時代に産まれたであろうソレを、我は
「……」
「森の中で生活していたとされる 我々の祖先らに取っての『森』、即ち 世界の全てと言っても過言ではない時代の…。…その森から得られる『限りある恩恵』と、才や運無き者には一切容赦しない『極限の厳格さ』から造成された『森への畏怖』は、容易に信仰へと発展させる程の起爆剤と 為り得たのだろう……」
「……全勇者期…」
「ああ。又は、御霊期や後精霊前神代、全精鋭期とも言われているな。 まあ とにかく、何でも出来 何にでも為れる神人達の末裔……【勇者の一族】と称される
「……………」
「…『
「イヤ、あの……」
「…何だ? 愚妹」
「えと…。…宗教で世界が滅びるなんて、実際はあり得るの?」
「……だな? 通常の思想信条や宗教は、特定の層とは言え 何らかの社会的ご利益があるからこそ現れ、支持されるのだからな……だが コイツは違う…。…いや、厳密にはコレの使用者や運営陣の根底にある思想や目的等は同じなのだが、決定的に違う所が二つ程ある…」
「…………」
「…【謙虚の美徳】が 皆無だという最悪の欠陥だ」
「【謙虚】……」
「まあ、明らかに重要なソレが 多少……いや、非常に かつ大量に欠落しているお前には 耳が痛いかも知れんが…」
「…
「ふ…。…まあな。お互い ソレに関する総量の少なさに自覚的なのは、そうだな……重畳な事だ」
「……んで?」
「そうだな…。…その欠陥の故か、連中の
「……?」
「ぅ?! え~と……教義自体の稚拙さを欺瞞する為なのか コレに染まった者ら特有の思考なのかは分からんが、とにかく拙速を旨とし ソレを最速で正当化する為に 他の神々を否定し、生存社会を崩壊に導きかねない誤った権威付けを歴史的社会的検証も無く、安易に浸透拡散する…。…というのが『社会寄生型紅夜叉教』、所謂〈
「…………でもさ。ソレって、他の新興宗教とかも ヤってる事じゃない? 何で そんな、狭量なだけが売りの 十把一絡げな感じの宗教が〈特級禁忌指定〉まで受ける位、危険視されんのよ?」
「ふ。まあ結局、ソコに行き着くのかな。つまる所、連中には『今しかない』のだ…。…歴史的検証を一切待たない 過ぎた拙速も、神や魔術の否定も、二万年以上も変わらぬ謙虚さ皆無の有り様も、全ては最速で『事を成し遂げる』事のみに特化したやり方だ。元々、他宗教との比較に、教養有る社会生活者の『目』に 耐えられるような代物ではない上に…。
…既に、『豊穣の女夜叉期』……つまりは 農耕民族と為り、土地・水場の収奪からの階級支配や迫害等まで歴史的教訓として得てしまっている我々に 今更、夜叉は勿論〈
「……ソレって……」
「ああ。恐らくは
そう言って、黒い笑みを 満面に
…笑ってなどいなかった。
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