第五章⑳ 黒曜の鯨神と、赤銅の戦神。
「その恐怖から、一秒でも早く逃れたいのなら……動かない事だ、アクドゥーオ。ふ」
ズズ、ズ……ン!
その時…。
…ちょっとした地鳴りが ヤツの、
だが、勿論 そんな些事など気にせず、アクドゥーオの額に 愛銃『ピナーカ typeHC』の 照準を合わせながら、
死刑宣告と言えば 聞こえは良いが、つまりは犯行直前に行われた 加害者からの、殺害予告だ。
当然な事に、殺害されたくはないであろう その殺害対象たる オーク外法師アクドゥーオは…。
「ヒヒギ、ブヒィ?!……ア、アユミ様ああぁっ!! ギ、ブヒッ!」
…と、愚妹に喚きつつ懇願す……る?
「……な、ソレは!?」
場違いに 綺羅びやかな
「………何故、貴様がソレを…………〈
我はソレについて、慄きつつも 問わずにはいられない……。
夜空の暗黒を凝り固めたような 一切艶めかない、 一般的には『
〈荒れ狂う鯨神〉を模し 湾曲した、多少
…〈
〈
…その錬成過程で生じた 大部分に当たる分離体であり、
そして、目前の受刑者が持つ ソレは……我が幼年学校生の頃、未だ部隊指揮どころか〈銃師号〉も持たぬ、兵器戦術開発局の一技術士官見習い時に とある女性によって持ち込まれた『
その機能は『
勿論、錬成直後に催された機能試験の結果により、特級禁忌指定を軍上層部から受けた この〈戎掻き〉は 即日、皇国神祇院の管轄呪物となり、封印の後 厳重監視下に於ける保管措置が実施されたはず……。
「……ふ。……何だ。少しも 気を揉む必要は無かったのだな…?…結局、貴様は 極刑対象の大罪人であったのだからな」
「ヒビィ?! ブヒッ……アユミ様アユミ様アユミ様アユミ様アユミ様ああああああああああああ……ブヒぁっ!?」
……カ、ギンンッ!
更に アユミへの支配を訴えようとしたアクドゥーオ……突如、その手から件の呪物が滑り落ちた。
「……!?」
気付いた時には 彼女が…。
…我の〈楯〉にして、先の刹那まで 電撃防御と愚妹の拘束を担っていた 女楯奴が、アクドゥーオの背後に回り込み 呪物を払い落とすと同時に、点穴によって受刑者を昏倒せしめたのだ。
゛……装備を、変更しますか?゛
頭の中に、
心なし肩を荒げ、どこか怒気めいた雰囲気を醸しながら受刑者を見下ろしている彼女が…。
…ロクが齎した結果で、計らずも 事態が動き出す。
決断の時、来たれり。
「勿論、『応』だ。……ふ。『歪型
゛…承知゛
「…ロク!!」
手触りで 武装の変更を認識した我は、眼を伏せながら 命じた。
我が意に 即座に従いし〈楯〉が、更に放電量を増した愚妹に対し、弾丸に勝る速度で肉薄し、直接の拘束を試みる。
バヂッ!…ン、ン!!
突如、猛威を奮っていた雷電が失われ……愚妹の頭上に鎮座する、小さな虫型魔獣が 弱々しく明滅するのみの 奇異なる黄泉と、坑洞内は化した。
我は 眼を啓き、変更したばかりの武具『歪型
全てが混乱し、停滞した 今しか無い…。
…直ぐにも 魔獣からの供給が再開され、雷帝の暴発へのカウントが゛0゛になれば、この密閉空間で あの『爆心地』での……『降臨爆鳴気』を受ける羽目になる。
ここに居る全員が、先ず 助からないだろう。
その上……流石の〈楯〉の 変態も、愚妹への肉弾拘束時の 凄まじい抵抗荷電で、ピクりとも動かない。
いつもとは、色んな意味で違った緊張感の中、我は 放つ……愚妹の、唯一人の家族に向かって。
数瞬後…。
………ポテっ。
愚妹は 真っ青かつ驚愕の表情を示した後、白眼を剥き 間抜けな音を伴い、気絶した。
その場にいる 意識ある者達の視線と疑問に、我は応じる。
「只の……そう 只のジャーキーだ。『牛』の、な? ふ」
勿論、いつもの王威を 皆に示しながらだ。
……ズ、ズズン!
引き続き、地鳴りがなっている。
そして、予想通り…。
…光熱と魔力の供給先を 強制的に断たれ、一時の困惑から覚めた〈天道虫〉は、我々を見詰めながら 明らかな敵意と怒りを持って、名に恥じぬ光熱を発し始めた。
「かの、名にし負う英雄王……その『探偵王』謹製の神獣とは言え、やはり 所詮はケモノか…」
多少の逡巡はあれど、事の優先順位を違える程の動揺は無かった。
とうに武装変更を終えた我は、
゛…♪……。゛
「……
何故か懐かしい……心地好い、歌声だ。
その歌は、今は亡き正統王朝の……『第一朝廷』期からの 国歌であったという。
現在の皇都、どころか 初期の皇居さえ無かった かつての沼沢地だった頃の沖合いに……何処からともなく現れた、高品質血鉱石製 超巨大戦列艦『(仮称)
今では、『御靖国』島と皇都東部街区から突き出た半島の間に係留され、皇国随一と称される
そんな、観光名所の地名となっている 巨大過ぎる戦闘用艦艇から降りた異人達は、この地の少数部族であった『
その、謎に満ちた海からの異邦人達が 歌い継いだのが、この国歌『久遠の絆』であった。
惜しくも、原題は 失われたが…。
…余談だが、かの久遠帝は 決して、正統王朝たる『皇宗皇統』を名乗らず、標榜もしなかったという。
……ズズズズン!
依然として、地鳴りが止まない。
その美しき美声と旋律に 逸速く反応し、光熱を減じた神獣の身は、やはり 歌いし者の手にあった……それは。
「…………ロク」
それは、悲しき我の〈楯〉……
そして……問うべき何かを考える暇も無く…。
…ドゴオォ ッ!!!!
耳を
…赤備えの
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