霊感は遺伝する

片瀬智子

第1話

 人間の性質、才能は確かに遺伝するようだ。もちろん全てではないが、子供は父や母、御先祖様の特性を少なからず貰い受ける。

 それはルックスや地頭の良さかもしれないし、スポーツ能力だったりする。もしくは霊感と呼ばれる、目に見えないものなのかもしれない。


 私の母と弟には霊感があった。例の、所謂いわゆる見えてはいけないものが見える系だ。

 ざっくりとした定義で言うと、私にもそのはある。だが、私の場合は彼らと違い、背筋が凍るような恐ろしいものは何も見えない。だって見たくないんだもん。(←この気持ち、大事)


 しかし、弟は特に恐怖体験が顕著だった。

 本人はいつも飄々とした態度で「姉ちゃんは聞かない方がいい」などと言い、私をゾクッとさせる。

 父がそっと私に耳打ちするには、弟の部屋は運悪く鬼門らしかった。霊の出入りが適度にあるそうだ。まあそれは、注文住宅で設計にまで口出しした父の落ち度とも言えるのだが。


 鬼門だという部屋のベッドの下から手が伸びて、寝ている弟に掴みかかりそうになったり、白い顔の女性が弟を覗き込み、その揺れる髪が弟の頬を撫でていたことを嫌がりながらも私は聞き出した。

 どう考えても、そのベッドは即刻廃棄すべきだった。弟の我慢が限界に達した日、下に収納の付いた(腕が伸びてくる余地のない)新しいベッドに交換された。


 弟の心霊体験は恐怖に限らず、私の前世が見えたりもした。

 場所は明治時代頃の日本、私は赤い着物を着て、畳の大広間でひとり寂しげな顔をしているという。

 その後、前世が見えるという有名な占い師からほぼ同じことを言われて驚いた。そして「あなたは政略結婚をしたのよ。それは、あなたの望んだ結婚相手ではなかった」とも。


 そう言えば私は、前世が見える占い師に「あなたは御先祖様にとても護られていますね」と言われた。

 確かにそうかもしれない。覚えはある。

 私の場合、御先祖様に願いを掛ければ、ほぼほぼ叶えられるというものだった。例を挙げてみると、これがまた煩悩に満ちていて思い出すだけで恥ずかしい。

 私の願いがよく叶っていたのは、十代・二十代前半が多かった。実はその頃に、あることをしてたのもたぶん関係している。

 

 十代の私は、願いが叶わないなんて思っていなかった。願いは叶い続けた。

 新型の大きなテレビが欲しい。数学の授業で一年間当たりたくない。お小遣いが足りなくなったから二万円くらい欲しい。友達の彼氏を略奪したい。

 全部手に入れた。

 別に欲張りなんて思わない。数ある中の思い返した願いは、どちらかと言えば陳腐でせこい。しかし、願いは良い悪いに関わらず叶う。そんなもの。


 ただ、願いが叶う時間には差があるのだ。

 確かテレビは二、三ヶ月待った。お小遣いは二、三日後だった。

 数学の授業は、願ったその日から。おもしろいくらい先生に当たらなかった。ひとりずつ当てられていても、私の前で終業のチャイムが鳴ったり、急に先生の気が変わったりして。


 逆に少々時間がかかったのは友達の彼氏。

 一度繋がった縁が切れるのは簡単ではなかった。さらに、遊びではない新しい縁を繋ぐには尚更。

 願いが叶う時間だけは推測出来ない。叶う順番はどうやって決められるのか。いくつ願えば……。認められたいという夢を叶えたかったゴッホやモディリアーニは、死後叶えられた。

 興味がありますか。自分が掛けた願いとその時差を信じられるかどうかは、あなた次第ですけど。


 その当時、私がしていたあることとは……。

 ただ、それをして確実に願いが叶うかどうかの保証は出来ない。だが、時差を縮めるくらいのパワーはあると思う。だって願うだけでも、信じ続ければ夢は叶うのだから。これが合わなければ、トイレ掃除をお勧めする。万人に効く風邪薬はないのだ。



『他人の幸福を心から願う』


 十代の頃、私が寝る前にやっていたこと。

 世界中のみんなが幸福になりますようにと、星に願いをかけるピノキオのように何度も祈った。

 かわいそうな人や動物がいなくなりますように。大っ嫌いなあの人も護られますように。誰もが笑って幸せでありますように。それから、わたしも――。


 今はもうやってはいない。

 当時の私は、たぶん今よりずっと素直で純粋だったのかもしれない。

 疑わなかったのだ、幸せさえ。疑わない心は、大人になると失うものの一つだと今はわかる。心のどこかで、猜疑心という悪魔を飼ってる自分を時々見かけてしまうから。


 この世は不思議なことに満ちているのに、私たちは見て見ぬ振りをする。疑わず信じれば、もっと人生が彩りで溢れるのかもしれない――。

 あ、そうそう、母親の話をしていなかった。文字数も限られているので、最後にこの話をして終わりにしよう。


 私が高校生のある日、学校から帰ると母に呼ばれた。季節の花を生けた和室へと入る。母は日当たりの良い整頓された和室で、きちんと正座をして待っていた。

 座布団を差し出される。お小言かな。私は少し緊張した。


「……お母さんね、言わなきゃいけないことがあります」


 やっぱり、緊張。母は後ろにあった小さな紙袋をそっと私の前に差し出した。中を見ると……。


 そこにはに首の曲がった、五、六本のスプーン。


「これ、……なに?」


「実はね。お母さん、……スプーン曲げが出来るの」


「へぇ……。それはすごいね」

 私はしおれたチューリップのような憐れなスプーンを一本手に取ると、じっと見つめた。


「一応、言っておこうと思って。……でも、お父さんには絶対言わないでね。こんなにスプーンを無駄にしたら怒られちゃうから」


 そ、そういう問題……?

 家庭内都市伝説。

 そう、この世は不思議で満ちている。そしてそれは、私たちが頭の中で考えてる以上に世界をあやしく彩っているのだ。

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