馬鹿な幼馴染

    オレゴン州 トーマスの部屋 二〇一五年八月二五日 午前三時二〇分

 マーガレットにとって長年の夢でもある、次回のクリスマス公演の主役を決める大切なオーディションを捨ててまで、自分の所へ戻ってくるとは思っていなかった香澄。そして香澄を驚かせたのはマーガレットだけではなく、あの温厚なフローラが銃を隠し持っていた――何かと彼女の想像を超える出来事が次々と起こっている。


 香澄はフローラたちの考え方をすべてプロファイリングしたと思っていただけに、続けておこる予想外の出来事の数々に、動揺を隠しきれない。最初は冷たい視線を向けることが多かった「香澄B」の人格も、動揺と恐怖のためか体を小刻みに震わせる回数が多くなっている。

「あなたとは十年近くの古い付き合いだけど……メグ、あなたもトムと同じで本当に鹿な子ね。あなたたち二人は私が予測出来ないような、不可解な行動や言動ばかり見せるのだから……」

「……それはこっちのセリフよ。ねぇ、香澄は知っているかしら? 元々頭が良い人より、鹿を秘めている、って私は思うの」

「……まったく、本当にあなたらしいシンプルな考え方ね」


 不思議なことに香澄とマーガレットの会話の内容は、まるで久々に再会した親友同士の世間話のようなごくありふれたもの。さらに一時的ではあるが、この時の香澄の穏やかな微笑みは、フローラたちが良く知る彼女の笑顔そのものだった。

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