【ジェニファー・エリノア・フローラ編】(前編)

取り戻した絆

                一二章


        【ジェニファー・エリノア・フローラ編】

ワシントン州 ワシントン大学(教員室) 二〇一五年八月二四日 午後三時〇〇分

 まもなく時刻は午後三時〇〇分――約束の時間通り、少し息を切らしながらもジェニファーがフローラの教員室へやってくる。そこでフローラやケビンはもちろんのこと、エリノアも一緒だった。ジェニファーは当初エリノアに軽い疑念を抱いていたが、

「ジェニー、実はさっきまでケビンとフローラと一緒にお話をしていたの。彼らのおかげで、私は何とか一歩を思い踏みとどまることが出来たわ。それと今さらこんなこと言っても遅いかもしれないけど……ジェニー、今までごめんなさい!」

彼女は自らの口で今までの経緯を説明してくれた。


 電話でフローラの手が離せないとケビンから聞いていたものの、まさかエリノアの一件とは夢にも思っていなかった。最初は驚きこそしたものの、エリノアの気持ちを受け入れるという意味を込めてジェニファーは優しく微笑む――一度は失いかけたジェニファーとエリノアの熱い友情と固い絆が復活した、微笑ましい瞬間でもある。


 なおジェニファーがフローラの教員室を訪れた際に、エリノアの左手には数枚の書類のような物を手にしている。その内容についてジェニファーが尋ねると、

「……私もついさっき存在を知ったばかりだけど、以前あなたたちがトムの心のケアをしていた時の記録よ。あなたたちはこの書類のことを、『香澄のカウンセリングレポート』って呼んでいたみたいだけど……」

寂しさと切なさを訴えかけるような顔でエリノアは答えてくれた。


 ジェニファーとエリノアが正式に仲違いが解けたということもあり、話はいよいよ本題に入る。時間も切羽詰まるという状況だったが、事前に簡単な事情を知っていたためか、一同は比較的スムーズにジェニファーの話を聞くことが出来た。

「……というわけなんです。みんなに香澄が残した『日記』を読んで欲しくて」

と言いながらジェニファーは香澄が残したと思われる、一冊の日記をバッグから取り出す。


 フローラたちの反応は想定通りで、ジェニファー同様に眉間にしわを寄せながらもただじっと日記を見ている。だが呆気に取られている状況ではないため、何とか動揺を抑えながらもジェニファーは香澄が残した日記をエリノアに渡す。

「エリー、あなたが日記を読んで。そしてあなたにもう一度、香澄の本当の気持ちを知って欲しいの」

「えぇ、分かったわ。……ところでジェニー、この青の附箋ふせんが貼ってあるページには何か特別な意味があるの?」

「そ、それはその……と、とにかく香澄の声を聞いてあげて!」

「? まぁ今は時間もないから、あなたの言うとおりにするけど……」


 附箋の話題がエリノアの口から出るや否や、ジェニファーの細長い眉がピクリと一瞬だけ動き出す。その仕草をケビンとフローラも見ていたが、時間がないことを考慮して特別追及しなかった。

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