努力の先に見える悲しい未来
ワシントン州 ワシントン大学(教員室) 二〇一五年八月二四日 午後一時二〇分
拒食症という症状に苦しみながらも、エリノアなりに自分の状況を客観的に判断する。しかしエリノアが今も苦しみ続けていることを知ったケビンは、無理に自分の気持ちを偽る必要はないと述べた上で、その理由を語り始める。
「ここだけの話だけどね――トムが目の前で亡くなった瞬間僕らは悲しみに明け暮れると同時に、カスミたちのことを憎んでいたことがあってね。“最悪の結果だけは避けるためにカスミたちへお願いしたのに、これでは何の意味もないだろう!”という気持ちで胸が一杯になったこともあったよ」
ケビンの意外な発言を聞いたエリーの瞳は驚きのためか、目の瞳孔が少し大きく開いている。
「だけど僕らがどんなに未来を変えたいと努力して頑張っても、それが必ずしも僕らの思い通りの結果になるとは限らない。僕らはトムに出来る限りの愛情を注いだ、そしてあの子の願いは出来るだけ叶えたつもりだよ――それでもあの子は僕らと一緒にいることを拒み、結局亡き父リースと母ソフィーの元へ行ってしまった。それは当時のカスミたちも同じ気持ちだったと、僕はそう信じている――まるで子どもの言い訳みたいに聞こえるかもしれないけどね」
「ケビン……」
普段のケビンはムードメーカ的な存在で、時にはジョークやユーモアのある発言をしてその場を和ませることも多い。だがこの時のケビンはまっすぐエリノアの顔を見ている――それは子を愛する父親のまなざしといっても良いだろう。
「むしろエリーがトムのことで僕らのことを憎んだり恨んでいたとしても、それは当然のことだと僕は思うよ。それはエリーに限らず、普通の人間なら誰もが持っているごく当たり前の感情……ではないかな?」
トーマスをはじめ香澄たちの保護者的な立場にあるケビンだからこそ語れる内容で、同時に一種の固定概念に縛られていたエリノアの気持ちを真正面から受け止める言葉でもあった。自ら憎まれ役を買って出るケビンの優しさに、エリノアの心も少しずつ揺れ動く。
最初は恨みに満ちた目をしていることが多かったエリノアだが、彼女の表情にもある変化が見え始める。最初はムスッと少しぶっきらぼうな表情をしていたエリノアだが、次第にその顔から怒りや憎しみといった感情が消えていく……気がした。
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