【エリノア編】

エリノアの習慣

               八章


             【エリノア編】

  ワシントン州 エリノアの自宅 二〇一五年八月一〇日 午前一〇時〇〇分

 ワシントン州のシアトル郊外にある住宅街に立ち並ぶハリソン夫妻の自宅で、香澄・マーガレット・ジェニファーら三人は一緒に生活をしている。香澄とジェニファーが通うワシントン大学から近い場所にあり、徒歩圏内で通学可能な好条件がそろっている。


 しかし香澄たちの親友でもあるフランスからの留学生 エリノア・ベルテーヌは、ハリソン夫妻の住まいとは少し離れた場所で一人暮らしをしている。家事をすべて一人で行わないといけないことに加え、不慣れた土地での独り暮らしは何かと迷うことが多い。

「ふぅ……久々に部屋のお掃除をしたけど、随分と汗をかいてしまったわ」

 今は夏休み中となっているが、それでもエリノアは毎日朝の七時から七時三十分ごろ、遅くても朝の八時には必ず起床する。そしてテキパキと朝食の準備を済ませ、部屋の掃除を手際良く行っている。

「フランスにいた時から率先して掃除や家事を行っていたせいかしら? 最初は一人暮らしも少し不安だったけれど、今はもうさすがに慣れたわね」

シアトルに降り注ぐ朝日が、軽く汗を拭うエリノアの顔をより綺麗に映している。


 午前中にも関わらず汗をかいてしまったエリノアは、その疲れを取るために部屋の浴室へ入り汚れを洗い流す。シャワーで体を綺麗にした時には、時刻は午前一〇時〇〇分。タオルで濡れた髪を拭きながら、新しい衣類に着替えたエリノアは冷蔵庫を開け、そこからオレンジジュースを取り出す。そしてコップにジュースを注ぐと同時に、エリノアは喉の渇きを一気に潤すかのように飲み干していく。

「やっぱり喉が渇いた時には、お水よりジュースの方が美味しい」

 普段はミネラルウォーターを飲むことが多いエリノアだが、この時ばかりはオレンジジュースの余韻にひたりながらも口元をゆるめていた。

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