謎のいたずら電話

 ワシントン州 ハリソン夫妻の自宅 二〇一三年二月一七日 午後一一時三〇分

 外で食事を終えた香澄たちは、午後九時〇〇分ごろに自宅へ戻る。その後いつも通りに寝支度を済ませつつ、一階リビングや自分の部屋などでおのおのが時間を過ごしている。

 この時香澄はリビングにおり、ハリソン夫妻・トーマスと一緒にいる。一騒動起こしたマーガレットは帰宅後、すぐに寝支度を済ませ自分の部屋へと戻る。そしてジェニファーは今お風呂に入っており、一日の汚れを落としている最中。

「トム、もう夜の一〇時過ぎよ。明日も学校はお休みだけど、子どもはもう寝なさい」

「あっ、もうそんな時間なんだね。……それじゃみんな、お休みなさい」


 トーマスがその場へいた三人へ挨拶を済ませ、自分の部屋に戻ろうとした時のことだった。突然香澄のスマホから着信音が鳴りだし、一同の視線もそちらへ向く。

『こんな時間に誰かしら?』

と若干不機嫌になりつつも、スマホをタップし電話に出る香澄。

「はい、高村です」


 電話をかけてきた相手は香澄たちが良く知る人物で、少し声のトーンを低くしながらこう語りかける。

「もし明日起きた時に声が出なくなってから困ることがないように、今の内に香澄へ伝えておきたいことがあるの。……今度一緒にお食事へ行った時に、をご馳走するわ。この約束――絶対に忘れないでよ?」

 どうやら電話の相手は、香澄に何らかの恨みがあるようだ。自分が伝えたい言葉をオブラートに包んでいるが、その真意をすぐに悟った香澄は苦笑いを浮かべている。

「……失礼ですけど、どちら様ですか?」

とだけ言い残し、スマホをタップして強引に電話を切る香澄。

 

 その様子を横から見ていたトーマスとハリソン夫妻が、“こんな時間に電話してきた相手は誰?”と尋ねる。すると香澄は顔色一つ変えることなく、

「えぇ、勝手な思い込みで駄々をこねている、大きな子どもからのいたずら電話です」

あえて棘のある表現で彼らへ説明した。

 そんな香澄の答えに対し、首をかしげながら疑問に思うハリソン夫妻とトーマスの姿が印象的だ。

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