エリノアに迫る悪魔の誘惑
ワシントン州 エリノアの自宅 二〇一五年七月三一日 午後一時〇〇分
エリノアが故郷フランスからアメリカのシアトルへ留学してから、今日で約一年の時が流れる。香澄たちから聞いたサンフィールド家の行方について、心に深い傷を負ってしまったエリノア。
そんな心の傷を癒そうと、エリノアは先日 オレゴン州ポートランドにあるサンフィールド家を訪れた。家を管理する職員にも偶然出会い、そこで運良く家の中を見学する機会にも恵まれる。
しかし心の傷が癒えると思っていたエリノアの予想に反し、彼女の心の状態はさらに不安定になってしまう。トーマスの部屋で無邪気な笑顔で香澄たちと一緒に写っている写真を見てからというものの、エリノアの心は少しずつ孤独に
さらにエリノアには香澄たち以外に親しい友達がいないため、自分の不安や悩みを打ち明けられる人がいない。香澄たちと出会う前には一人暮らしを満喫するほど、彼女なりに充実した日々を過ごしていた。
だがフランスでサンフィールド一家と親しい関係になったこと、そしてワシントン大学の心理学サークルで香澄たちと出会ってしまったことが、エリノアの運命を大きく変えてしまう。
運命のいたずらとも呼べる様々な出会いが、後に自分をこんなに苦しめることになるとは夢にも思っていなかった。エリノアは特に何も悪いことはしていないのに、次々と災難や不幸に巻き込まれてしまう。
『ど、どうして私が――こんなにつらい想いをしなければならないの? 私はただトムたちと一緒に仲良く暮らしたかっただけのに――それがそんなに罪深いことなの?』
不安や孤独といった心に浸食されつつある今のエリノアにとって、自分の気持ちや考えが何よりの基準となる。ある意味、エリノアの都合の良い解釈で説明することが出来るといっても過言ではない。
しかしそんな悪魔の誘惑に耳を傾け続けるうちに、少しずつある固定概念に支配されつつあるエリノア。
『深い悲しみに打ち浸れていた、当時のトムを苦しめたのは誰? そしてトムを救えなかったのは誰?』
まるで鬼のような恐ろしい形相をしており、これが本当にあの明るい笑顔を見せていたあのエリノアなのかと疑うほどだ。
『仮に香澄たちがどんな心のケアを行ったとしても、結果的にトムを救えなかった。……その結果がすべてを
エリノアの心は今、一つの物事に対する過程ではなく結果がすべてという『オール・オア・ナッシング思考』に支配されつつある。黒か白・成功か失敗、そのいずれかした認めないという、危険な極端思考の一つ。特に物事を客観的にとらえることが出来なくなってしまうので、今のエリノアの心境はまさに『オール・オア・ナッシング思考』そのもの。
最初は軽い妄想程度のものだが、症状が悪化するとうつ病や薬物依存症などに発症するケースも少なくない。脅迫概念とも呼べる病気で、ある一定の考えが頭から離れない症状が特徴。
このままだといずれ、エリノアの心は強い脅迫概念に襲われる可能性が高い。悪事に手を染めてしまうケースもあるため、早急にエリノアの心に光りを灯す必要がある……
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