【トーマス編】(エリノアとの回想録 1)
リヨン駅での出会い
四章
【トーマス編(エリノアとの出会い)】
[人生とはある意味表裏一体のもので、それは磁石・太陽と月のような関係に似ています。それは手を差し伸べる天使にもなり、心をつき落とす悪魔にもなります。そしてこれらが重なり合った時、人の生き方を大きく変えてしまうこともあります。
そんな私の生き方や考え方を大きく変えてしまったのが、ある一組の家族との出会い。夢と希望――そして幸せに満ち溢れていた彼らとの出会い。まさかこの出会いが私の人生を大きく変えてしまうとは、夢にも思っていませんでした……]
フランス パリ リヨン駅 二〇一一年七月二九日 午後二時〇〇分
フランスの首都パリは今日も街並が賑やかで活気溢れており、学校や職場へ向かう者・家族と大切な時間を過ごす者など様々。時の流れもゆったりと動いており、おのおのが日常の幸せを満喫している。
そんな人ごみが溢れるリヨン駅を見てみると、今中学四年生で九月から高校生となるエリノアの姿があった。白のブラウスにピンクのスカートという年頃の少女らしい恰好で、電車に乗る友達を見送っているエリノア。
「見送りありがとう。それじゃエリー、家族と一緒にイタリアへ行ってくるね!」
「うん、気を付けてね。絶対おみやげ買ってきてよ!」
どうやらエリノアの友達は、家族と一緒にイタリアへ行くようだ。ちょうどエリノアがリオン駅近くへ行く用事があったため、その帰りに友達を見送っている。
無事友達を見送ったエリノアは体に貯まった疲労を解消するため、両手を上にあげて軽く背伸びをする。緊張のためか思わずあくびも出てしまうが、とっさに手で口元を隠す。
『さぁて、友達の見送りも無事終わったことだし――私もお家に帰ろうっと』
この後特に予定はなかったエリノアはリヨン駅を出て、そのままパリにある自宅へと戻る準備をしていた。そんな時彼女の後ろから、
「……B、
と誰かが話しかけてきた。
誰かに話しかけられたと思ったエリノアが後ろを振り返ると、左手にキャリーバックを持つ一人の中年男性が、困惑した顔をしながら立っている。
「はい、何でしょうか?」
エリノアがとっさに視線を移すと、左手に指輪を着けている。その姿を見たエリノアは、“お仕事で出張かしら? それとも家族旅行?”と思う。だが男性は片手にフランス語辞典を持っていたことから、“この男性は不慣れなフランス語で話しかけてきたのね”とエリノアは悟る。
中学に入ると同時に英語を熱心に勉強していたこともあり、ネイティブほどではないが簡単な会話なら英語でも出来る。そこで彼女は、フランス語ではなく英語で聞き返すという機転を利かした。
「
エリノアが英語を話すことが出来ると知るや否や、目の前にいた男性の顔に思わず笑みがこぼれる。すぐにポケットサイズのフランス語辞典を閉じ、嬉しそうな顔をしながらエリノアへ話しかける。
「……そうか、お嬢さんは英語を話せるんだね。いや、良かったよ。実は他の人にも声をかけたんだけど、みんな何も返してくれなくて」
そうエリノアに話しかけながらも、“二人とも、ちょっと来てくれ!”と男性は少し大きな声を出し、妻と息子であろう両名を呼び寄せる。
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