夏休みの予定
ワシントン州 ハリソン夫妻の自宅 二〇一五年七月二四日 午後八時〇〇分
楽しい雰囲気のパーティーが続く中で、香澄たちの笑い声は今日も聞こえてくる。すっかり意気投合したエリノアとマーガレットの姿を見た香澄たちも、満面の笑みを浮かべている。
だが香澄たちが楽しい団欒を続けていると、テーブルに用意されていたおつまみのチーズの数があと数個しかない。それを確認したフローラは、
「あら。エリーが買ってきてくれたチーズが、もう無くなりそうね――ちょっと待ってね、今新しいチーズをカットするから」
席を立ちあがり冷蔵庫に収容されているチーズを取り出す。そして手慣れた様子でキッチンへ向かい、一口サイズにチーズをカットし続けるフローラ。
しかしフローラが戻ってくるまですこし時間がかかりそうなので、その間にエリノアが香澄たちへ今後の予定を確認する。
「ところで香澄、ジェニー、ペグ。今大学はちょうど夏休み中だけど、みんなは何か予定ってあります? どこか旅行へ行くんですか?」
「私は先月卒業式を終えたばかりの同級生と一緒に、後日卒業記念パーティーへ参加するぐらいかな。ちなみに香澄とマギーは、夏休み中の予定ってありますか?」
先日ワシントン大学の事件が無事解決したばかりということもあり、特に夏休みの予定について考えていなかった香澄。
「そうね、久々に大学の図書館で本でも借りてみようかしら? 大学の図書館ならたくさんの専門書があるし。でも特別どこかへ行く予定は、今のところないわね」
真面目な性格の香澄らしい回答だった。だが真面目すぎる回答に不満を持ったマーガレットは、
「こういう時はやっぱり、“せっかくの夏だから私、プールや海に行ってみたいわ”って言うのが普通じゃない!?」
“たまにはアウトドアも楽しむべきよ”と香澄に反論する。だが香澄は一歩も引かず、
「ごめんなさい、メグ。でも私って肌があまり強くないから、プールや海で日光浴するとすぐ赤くなってしまうのよ」
自分の意見を曲げようとはしない。そして体質の理由なら仕方ないということで、マーガレットはこれ以上自分の意見を貫き通すことはなかった。
香澄たちにはそれぞれ個人的な事情があるものの、基本的に予定はないことをエリノアへ伝える。そのことを確認したエリノアは、“わかりました、ありがとうございます”と明るく返事する。
「……でも、エリー。急に私たちの夏休みの予定なんか聞いて、一体どうしたの?」
するとこれまで明るかったエリノアは軽くため息を吐き、深呼吸する。そして何かを決心したかのように、香澄たちへある相談話を持ちかける。
「えぇ。お時間のある時でいいんですけど、ちょっと私のお手伝いをしてほしいの」
「エリーのお手伝い? 具体的に何をすればいいのかしら?」
エリノアが香澄たちへ内容を話そうとすると、キッチンから戻ってきたフローラがテーブルの上にチーズを並べる。
「みんな、チーズのおかわりよ――ってあら、どうしたの?」
「あ、フローラ。ちょっと香澄たちへ相談したいことがありまして……」
小皿に全員分のチーズを並べながら、エリノアから話の内容を聞くフローラ。だが詳しい話は後で香澄たちから聞こうと思ったのか、チーズを小皿に並べ終えたフローラは再度席を離れる。
そしてフローラが席を離れてから間もなく、
「ねぇ、みんな。ちょっとした息抜きに、ミネラルウォーターでもどう?」
食器棚の前で香澄たちへ声をかけた。するとちょうど香澄たちも“口直しにお水が飲みたいわね”と思っていたようで、
「はい、お願いします」
人数分のグラスを持ってきてもらうようにお願いした。その言葉を待っていたかのように、フローラは香澄たちへ左目のウィンクを返す。
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