夜は

部屋の片隅で動かずに

焦点の合わない瞳で

何処か遠くの方を見つめていた

記憶の中で

笑っている姿があった

あなたは誰?

もう二度と思い出せない

とても深くて暗い穴の底から

手を伸ばした

まるで助けを乞うように

けれどもう諦めていることを指先は知っていた

折れ曲がった角度

景色は

ただ同じように流れて行った

昨日はどれも皆、同じ顔をしているように思えた

はっきりとしたことは何も無かった

ただぼんやりと灰色だけが繰り返されてゆく

やがて終わりが来るその時まで

大切なものはその価値を奪われて

あってもなくてもどうでもいいものと化した

そんな結末は望んでいなかったのに

あの日、確かに掴んだもの

指先を恐る恐る開けばそこには何も無かった

だからそんな気がしただけなのかもしれなかった

いつまでもこのうんざりさせられる状態が続いた


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