第66話
学舎の中に入ると、ユミルと出くわした。
彼女はどうやら別室から試験の様子を見学していたらしい。エリスに歩み寄るや否や、ユミルは彼女を抱き寄せて、何度も頭を撫でてやった。
よくやった。よく頑張った。
まるで母親のように、娘の努力と緊張とに賛美を送る。エリスは少し面食らっている様子だったが、気恥ずかしそうにしながら、ユミルに感謝を送っている。
三人は学舎にある大食堂に足を向けた。東側の学舎の一階部分を占めている、広々とした空間だ。
縦に長いテーブルが三つ。背もたれのない長いベンチがテーブルを挟むように並んでいる。高い天井には学問の神と、教えを請う学徒らの彫刻が描かれている。
部屋の最奥部の壁に埋め込まれた大きな仕掛け時計が、刻々と時を刻んでいた。
むき出しになった歯車が動くと、それに呼応して秒針、分針、時針が文字盤の上で動いていく。針は十二時半を指していた。
長テーブルの上には、様々な料理が並んでいる。
ローストビーフ。ハニートースト。ミートソースのパスタ。グラタン。サラダ、パン、カップケーキなどなど、多くの料理が揃えられている。
三人は空いている席に腰を下ろすと、めいめいに料理に手を伸ばして行った。
午後一時十五分。食事をとり終えたジャックは、二人とは別れて四階の渡り廊下へと向かった。
廊下を適当に進み階段を上がって四階に上がる。
廊下沿いにいくつもの部屋が並んでいる。教授某、講師某、実験室、研究室。何とは無しにドアに掲げられたプレートを読んでいくと、使用者や目的別に分かれていることがわかる
だが、だからどうしたと言う話ではあった。
そうして歩きながら生徒会室の前に来た。ここからの道は記憶に新しい。
少し先に進んでいくと、あの渡り廊下に出た。
エマ嬢の姿は、まだない。
早く着きすぎたかと思ったが、そんなことはない。試験官同士の会議が長引いているだけなのだろう。ここは大人しく待っておこうと、欄干に背中を預ける。
先ほどの受験者の声が響いていた中庭は、寂しいほどに静けさが満ちている。今頃は、エリスとユミルは大学の説明を受けているのだろうか。
戻ったら詳しく聞いてみるかと何とはなしに考えていると、駆け寄ってくる足音を耳にした。
「お待たせしました」
エマが言った。
「会議はもういいのか」
「ええ。ちょっと長引いてしまいましたけど。あとは、先生たちが何とかすることになったので、私の役目はこれで終わりです」
「それで、街に行くのか」
「はい。まあ、その前に着替えたいところですけどね。さすがにこの格好のまま外に出るのは、ちょっと気が引けますので」
「なら、戻るのか」
「ええ。アパートの方で少しだけ待機していてもらいたいんですが、よろしいですか?」
不安そうにエマが聞いてくる。
「依頼主の事情に、いちいち首は突っ込まん」
「なら、良かった。長い時間はかかりませんので、待っていてくださいね。……ここで話していても時間が勿体無いですよね。さ、行きましょうか」
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