四章
第59話
いよいよ待ちに待った試験の日。
エリスはユミルと買ったドレスに袖を通し、大学から使者を待っていた。
緊張で胸が高鳴り、期待と不安が入り混じる。
どうも落ち着かない。部屋の中を行ったり来たりして、じっとなんかしていられない。
「少しは落ち着いたらどうだ」
ジャックは言う。
「わかってる。わかってるけど、落ち着かないよ」
エリスが言った。
九時を少し回った頃。誰かがドアをノックする。
ジャックが扉を開けると、そこには紳士然とした男が立っていた。
黒は燕尾服に身を包み、手には白い手袋。片腕を折り曲げて腹にあて、腕には黒い傘を引っ掛けている。皺の少ない若々しい白い肌にかき上げた金髪を髪油で固めた髪型をしている
「おはようございます。魔法大学の者です。エリス様をお迎えに上がりました」
作り物めいた笑顔を浮かべ、男は頭を下げる。
「エリス、迎えが来たぞ」
「は、はい!」
突然声を掛けた訳でもないのに、エリスは猫のように飛び跳ねる。
だいぶ緊張が身体に回っているようだった。
「大丈夫か」
「う、うん。大丈夫……」
深く呼吸をすると、ジャックの横を通りエリスは男の前に立つ。
「貴方がエリス様ですね」
「は、はい」
「大変お待たせいたしました。では会場の方へご案内させていただきますが、ご準備の方はよろしいでしょうか」
「大丈夫……、です」
「結構。では、参りましょう」
階段を降りていくと、ちょうどユミルが階段の下にいた。
「エリスを頼むぞ」
ジャックはそう言うと、一足先に下宿を出て通りに出て行った。
彼の背中を、エリスはどこか寂しげに見つめている。
「大丈夫よ。彼も後から来てくれるから」
ユミルが言う。
「わかってる。わかってる……」
気丈にも笑みをたたえて、エリスは言う。しかし、寂しさまでは隠すことはできていなかった。
「貴女様が、保護者様でしょうか?」
使者の男がユミルに尋ねる。
「ええ。そうです」
「では、エリス様とご一緒に私に付いてきてください。そこまで離れているわけではありませんが、少し歩くことになりますので」
「わかりました」
ユミルの返事を聞くと、使者はにこやかに笑った。
朝の通りに、三人の足音が響く。エリスは、もう一度ジャックの向かった通りに目を向ける。が、そこには誰の背中も見えなかった。
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